小売店勤務だけど、とある常連さんが原因でお店が「売上減」に! 店長には「お客さまだから我慢して」と言われるけど、どうすればいい?「警察は民事不介入」の誤解もあわせて解説
配信日: 2025.04.20

しかし、本人の状況いかんでは、本人の保護やお店の経済的被害防止などの観点から、警察など官公署への相談も1つの選択肢になりえます。筆者の実体験や警察庁などの情報も参照して、現実的な解決策を提案します。
「見て見ぬふり」は許されない
この常連客本人に危害を加えるなどの懸念がなくても、大声を出すなどの振る舞いをされると、お店の客離れや売上減といった問題は想定されます。それどころか、ほかの顧客や従業員とのトラブル等が起こるかもしれません。結果として、本人が傷ついたり、ほかの顧客に危害が及んだりする可能性もあります。見て見ぬふりは許されないでしょう。
警察との相談をためらわないこと
この顧客の言動は迷惑行為であり、店として注意を促し、聞き入れられないなら退去を求めることは可能でしょう。退去しないなら刑法上の不退去罪、さらには業務妨害罪にも該当する可能性があります。
問題なのは、お店からの注意に理解を示さない顧客の場合です。おそらく本件もそのような状況なのではないでしょうか。そのような場合には、警察との相談をおすすめします。警察官は、自らを傷つける、他人に危害を加える(「自傷他害」といいます)おそれのある人を保護する義務があります。
「警察沙汰?」と思うかもしれませんが、「警察官職務執行法」や「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」で以下のように定められています。
警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して次の各号のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、取りあえず警察署、病院、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。
一 精神錯乱又は泥酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある者
二 迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要すると認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く)
警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。
筆者の実体験より
筆者は、銀行勤務時代に営業店からの相談を受け付ける担当をしていました。常連の来店客で、普段から挙動が怪しい女性客について相談を受けたことがあります。「挙動が少し怪しいからといって、来店を拒んだり取引をお断りしたりするのは難しいでしょう」と回答していました。
ところが、その数日後、再びお店から電話がありました。「女性にあるまじき振る舞いをしていて、ほかの来店客が驚いている」という切迫した電話でした。「すぐ110番してください。警察官はそのような人を保護する義務があります」と、とっさに答えました。
警察官がすぐに駆けつけて、言葉巧みに本人を保護して連れ出してくれました。そのあとで六法全書を調べて警察官職務執行法のことを知りました。
「警察は民事不介入」は誤解されている
なお、これに関連して「警察は民事不介入だから、相談しても無駄だ」と考える人がいるかもしれません。
しかし、これは「民事不介入」という言葉の誤解によるものです。民事不介入というのは、「警察が、トラブルの当事者間で問題となっている権利関係について、いずれの言い分が正しいかを判断して、正しいほうの権利を実現する、などということはしてはいけない」ということです。
いずれの言い分が正しく誰が権利を有するかは裁判所で判断すべきであり、その権利の強制的な実現も、裁判所の手続きにより実現すべきだからです。
例えば、借金があるかないかについて、警察が判断するのは筋違いでしょう。しかし、借金取りが「払わなければ痛めつけるぞ」といえば脅迫罪であり、警察が乗り出すべき犯罪行為です。「民事不介入で警察は何もできない」というのは、とんでもない誤解なのです。
相談の件についても、不退去罪や業務妨害罪などの犯罪に該当する可能性がある以上、警察が相談を受けるのは当然のことと考えられます。
そもそも、警察官は「自傷他害のおそれのある人」を保護する義務を負っています。民事不介入などという以前に、警察官の本来の業務なのです。
自店で解決できなければ官公署の力を借りよう
本件のように、顧客自身に害意がなくても、自らをコントロールできないために自傷他害のおそれがあるなら、お店だけで解決することは難しいでしょう。
しかし、見て見ぬふりをしているうちに事故が起こったら、「警察との相談さえしていなかったのか」とお店が責められることになることもあります。ですから、警察などの官公署と相談し、その力を借りて妥当な解決を図るべきです。
出典
e-Gov法令検索 警察官職務執行法
e-Gov法令検索 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
警察庁 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第23条に基づく通報の適切な運用等について
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー