更新日: 2019.01.08 その他
<身近な電気の話> エネルギー自給を考える
私たちの暮らしや産業活動に必要なエネルギーのうち、自国で確保できる割合のことを「エネルギー自給率」と言います。1960年代までは自給率は約60%台でした。石炭から石油へ燃料の流体革命が進む中でエネルギー消費量が拡大し自給率は急速に低下してきました。食料も海外に頼っており自給率の低さが問題視されています。それでも食料は自給率約40%(カロリーベース)をキープしています。しかしエネルギー自給率はわずか約6%しかありません。これは食料の7分の1です。
独立自尊。自給率向上を目指したエネルギー政策と食料政策は独立国として最も大切な政策課題です。
Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト
中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。
目次
全国各地に地域再生エネルギーを活用したミニ電力会社が
電力自由化により全国各地に地域の再生エネルギーを活用したミニ電力会社が誕生しています。地熱、バイオマス、太陽光、風力などその地域に賦存する資源を活用した地産地消型のおらが街電気事業です。
地域の活性化に役立ちますが、発電した電気は公共施設に供給するだけでなく余剰電力は地域住民にも供給します。それだけではありません。災害時の電源としても活用できます。東日本大地震での広域停電の教訓から、全てを電力会社の系統電力だけに頼っているのはよそう、最小限、自分たちの村や街は自分たちの電気で守ろうという住民たちの新たな動きです。素晴らしいですね。非常時の備え、安全・安心は国レベルでも同じです。1970年代の石油危機を忘れてしまった国民も多いかも知れません。でも、地域紛争が頻発する国際社会で生活している私たちにとって、石油危機は忘れてはいけない経験です。エネルギー資源の90%を海外に依存しています。危機はいつ訪れるかわかりません。これで安心などということはありません。自給率の高いエネルギー供給システムの構築が早急に必要ですね。
エネルギー自給率、日本は6%、下から2番目です。
エネルギー自給率は、「国内算出量÷一次エネルギー供給量×100」で算出されます。「一次エネルギー供給」とは、エネルギーが生産されてから電気や石油製品などに形を変えて私たちが実際に消費にするまでのすべてのエネルギー量を言います。具体的には石油、天然ガス、LPガス、石炭、原子力、風力、地熱、太陽光と言った一次エネルギーの全量を指します。当然、天然資源が豊富な国ほどエネルギー自給率は高くなり、資源が乏しい国は低くなります。
北欧のノルウェー。天然ガスを産出し水力資源も豊富ですからエネルギー自給率は実に683%です。自国消費量の7倍近いエネルギー資源を産出し輸出しています。「子供に電気のスイッチを切りなさい」と聞いたことがあります。自給率の低い国は省エネ・ファー―ストです。産出国にエネルギー供給上の問題が発生すれば、たちまち供給不安を生じます。資源の確保が困難になるだけでなく、地域紛争が激しくなると供給不安と同時に価格の高騰の心配も出てきます。
世界の主要国のエネルギー自給率(2013年実績 経産省資料より)を見てみましょう。カッコ内は原子力を含めた数字です。
(世界の主要国のエネルギー自給率)
・日本= 6%(6%)
・韓国= 3%(17%)
・ドイツ= 30%(36%)
・フランス=10%(54%)
・イギリス=53%(58%)
・イタリア=15%(15%)
・スウェーデン=56%(71%)
・アメリカ=76%(86%)
・中国= 86%(86%)
・ロシア=177%(183%)
一目瞭然、資源国は強いですね。日本の自給率6%は、低水準だと言われる韓国やイタリアをさらに下回っています。経済開発協力機構(OECD)加盟34か国中で33位、下から2番目です。
「エネルギー自給率の確保」という視点がかすんでいる
エネルギー自給率がこんなに低くても、政府のエネルギー供給基本計画の見直し作業の中でも「自給率の確保」という視点での議論はほとんどありません。脱原発や再エネ活用の空気感の中で霞んでしまっています。
福島事故前までは自給率19%台を確保していたのです。自給率は何故6%にまで急落した要因は、言うまでもなく東日本大震災後の全原発運転停止によるものです。なかなか回復しません。国際的な統計の中では「原子力は自給エネルギー」として取り扱っています。これは大事なポイントです。なぜなら一度輸入すると数年間は利用できて備蓄効果があるからでね。韓国も日本と同じく原子力を除くと3%と低いですね。欧州は国によりばらつきはありますが隣国同士が融通しあう仕組みができているので地域としての自給率は高いですね。
ドイツは地政学的に有利な条件を持っている
日本人がよく引き合いに出すドイツの事情を見てみましょう。自国に石炭と褐炭を豊富に持っています。これに加えて風力発電や原子力の貢献もあり自給率は40%と高いです。しかし輸入天然ガスへの依存度は日本のように高くはありません。脱原子力政策により原子力依存度は低下してきていますが石炭、原子力、再エネをバランスよく開発していますから自給率は今後とも維持できそうです。
EUのエネルギー政策の基本は「地域に根差すエネルギーの活用」です。ですから石炭や天然ガスだけでなく、再生可能エネルギーを自給エネルギーとして扱い、ヒートポンプも再生エネルギーとして積極的に活用している点が日本と異なります。電力の視点で眺めてもドイツは地政学的に有利な条件を持っています。西欧・東欧にまたがる広域的な電力流通の要衝です。国内の電力流通網がメッシュ状に構成されているだけでなく、隣接する10か国と送電線が連系されています。電力の供給体制が最も安定している国の一つです。
最近は欧州でも天然ガスの利用が盛んですが、地域内にはほとんど資源がありません。最近はアフリカからの輸入も増えてきていますが多くをロシアからの輸入です。北回りコースと南回りコースの二つの主要パイプラインで欧州に輸送されていますが、かつてウクライナ経由のロシアガスパイプラインで供給停止を経験していることもあり、天然ガスへのロシア依存には慎重ですね。安全保障上の懸念を拭い去れないのです。
日本はエネルギーミックスによる安定が必要
エネルギー自給率のトップ3はノルウェー、オーストラリア、カナダでいずれも自給率は100%を超える源輸出国です。ロシア、アメリカがこれに続いています。大消費国アメリカは2013年時点では88%ですが、14年には90%を超えました。自国でのシェールオイル・ガスの生産が順調に拡大してきているためで、もうすぐエネルギー資源輸出国に転じます。石炭、石油、天然ガス、再生可能エネルギー、原子力と自国内にすべてのエネルギー資源を持ち、すぐれた利用技術も持ち合わせています。資源に乏しい日本とは真逆ですから、日米間にエネルギー政策の違いがあるのは当然です。
どの国を見ても、エネルギー政策の選択は一様ではありません。資源の保有状況、地政学的環境、経済力、技術力、民族性などにより異なっています。海洋国家で資源に乏しい日本のエネルギー政策の基本は、エネルギーミックスによる安定です。資源の多様化、輸入相手先の地域分散を柱にし、原子力と再生可能エネルギーの拡大により自給率向上を目指しています。エネルギー安全保障は外交努力だけでは確立できません。安心を得るためには独立自尊、自助努力が大切です、安心はできません。自給率6%は明らかに危険水域です。