更新日: 2019.06.28 その他
考えずに離婚することは経済的に得か、損か?
そして、ライフプランという観点に立って考えた場合、離婚前と離婚後で何が変わるのか、検証してみます。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。
離婚時に取り決めておくべきこと
離婚する際、その後のそれぞれの生活がきちんと行われるように、子供の養育や財産の分与に関し、取り決めておかねばならないことがいくつかあります。
・親権者
親権とは、子供と一緒に暮らす権利で、子供の世話、教育、生活全般における子供の面倒見る身上監護権と子供に代わって財産管理・法律行為をする財産管理権の2つがあります。親権者とは親権を有する親を言います。
・慰謝料
離婚の原因を作った配偶者が、精神的な苦痛を被った相手の配偶者に対して支払う損害賠償を言います。ただし、離婚の原因が、浮気に加え、家庭内暴力という場合でも慰謝料は200から300万円程度と言われています。
・子供の養育費
子供を養育する配偶者へ、子供を養育しない配偶者が支払う費用で、子供の衣食住費用・医療費・教育費などを言います。通常、子供が成人になるまでの費用を負担します。
・面接交渉権
子供を養育しない配偶者がもつ、子供と面会したり、一緒に過ごしたりする権利を言います。
・財産分与
婚姻中の実質的な共同財産を分配することを言います。
財産分与とその基本的な考え方
上記のうち、離婚に際し不可欠な取り決めである、財産分与の基本的な考え方を確認します。
1.離婚時点におけるお互いの資産を分けるのではない。
財産分与の対象となるのは、共有財産=結婚してから離婚までに築き上げた資産であり、特有財産=結婚前からどちらかが保持していた財産および相続という偶然の事情により取得した財産などは対象外となります。すなわち、どちらかの配偶者が結婚以前に資産家であったからといって、その資産が分与されるわけではありません。
2.分与の割合は、一般的な夫婦の場合、原則50:50となります。
財産分与の具体例とその問題点
具体例としてここでは、物事をわかりやすくするために、子供がすでに成人していて、養育費が絡まない、いわゆる、熟年離婚の例を取り上げます。
1.離婚前の状況
夫50歳:会社員、妻47歳:パート
子供はすでに成人して、自活している。住宅ローン返済中の持ち家(時価3000万円、ローン残高2000万円)があり。
夫は定年まで今の会社に勤続の予定。妻はパートで生活費の一部を稼いでいる。預貯金は2人合わせて、1200万円。夫は生命保険に加入。マイカーを所有。
お互いの財産詳細:
【夫】
預貯金 結婚時300万円―離婚時800万円
自宅の時価 3000万円
住宅ローンの残額 2000万円
生命保険解約返戻金 300万円
自動車の時価 100万円
離婚時点での自己都合による退職金 800万円
【妻】
預貯金 結婚時100万円 離婚時 400万円
2. 離婚の場合の財産分与
(1)共有財産額(財産分与対象額)
【夫】
預貯金 500万円
自宅の時価 3000万円
住宅ローンの残額 -2000万円
生命保険解約返戻金 250万円
自動車の時価 150万円
離婚時点での自己都合による退職金 800万円
/夫所有財産計 2700万円
【妻】
預貯金 300万円
/妻所有財産計 300万円
夫・妻所有財産計 3000万円
(2)財産分与のための清算額と方法
夫から妻への支払い 1200万円
子供は成人して、自活しているので、養育費のやり取りはなし。
夫の現金調達の方法
夫の全預貯金解約 800万円
生命保険を解約 250万円
自動車を売却 150万円
計1200万円(妻へ支払い可能)
3. 離婚後の状況
夫 50歳
預貯金ゼロ
住宅ローン付き自宅 時価3000万円(住宅ローン残額2000万円)
預貯金ゼロで、住宅ローンを返済しながら、会社員生活を続ける。
妻 47歳
預貯金1500万円
持ち家なし。家を借りながらパートで生活する。
上記1.離婚前の状況と3.離婚後の状況を比較してみてください。
離婚前には、2000万円の住宅ローンを抱えながらも、預貯金が1200万円あり、場合によっては、早期返済も可能です。10年後には定年退職して、退職金をもらい、年金生活に入ることもできた状況でした。
ところが、離婚したことにより、夫は預貯金ゼロで、住宅ローン2000万円を抱え、働き続ける身になります。妻は預貯金として、1500万円はあるものの、パート収入だけなので、今後、家を購入することも、難しそうです。年金については後で述べますが、夫の年金の半分がもらえるわけではありません。
経済的に見れば、両者にとって明らかに離婚は損です。
たとえ、住宅ローンのない持ち家であったとしても、家を2つに割ることはできないので、どちらかが無理をして現金を捻出して一方に支払い、もう一方は、現金はあっても家がないという状況に追い込まれます。
これが、退職後の熟年離婚であった場合は、今後のリカバリーも効かないということになります。
年金の分割
年金は上記の財産分与とは別に決めますが、離婚したら夫がもらう予定の年金の半分がもらえるわけではありません。
上記の具体例とも関連するので、説明しますと、結婚してから離婚するまでの期間に相当する年金が半分になるだけです。夫が結婚するまでに納付した分、離婚後に夫が納付する分に関する年金については、妻はもらえません。
平成28年度における老齢厚生年金の、受給者平均年金月額は15万5341円。年額に換算すると186万4092円になります(平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況―厚生労働省による)。年金の計算は複雑なので、簡単に概算はできませんが、このうち3割程度もらえたとしても、年間1人分の生活費にも足りません。
まとめ
離婚は経済的に見ると決して得でないどころか、今まで築き上げてきた経済基盤を崩壊させてしまいかねないことになるようです。離婚にはいろいろな事情があるにせよ、その事実を知っておくことは決して無駄ではないと思います。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー