更新日: 2019.01.08 その他
<身近な電気の話> 電気の「道の駅」
Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト
中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。
地域おこしエネルギープロジェクト
■静岡市の仮想発電所(バーチャルパワープラント)
電力自由化の効果が現れている2のプロジェクトを紹介しましょう。まず静岡市です。市内の小中学校80校に蓄電池を設置して一元的に管理し、「蓄電池を発電所のように運用」する「仮想発電所(バーチャルパワープラント)」を全国で初めて実用化するそうです。電気料金を削減できるだけでなく「災害時の非常用電源」としても使えるのです。東南海地震の地元ですからね。
電気料金は、需要が大きい昼間は高く、需要が小さい夜間は安いのです。仮想発電所は昼夜の価格差を利用した電力システムです。夜間に電気を蓄電池に貯めて、昼の需要ピーク時に放出するよう調節します。運営を地元のエネルギー会社に委託しますが、自分たちの力で需要と供給をバランスさせながら電気代を節約する、格好いいですね。7年間で約9億円の経費削減が可能だそうです。その他、市内にあるごみ焼却発電の余剰電力を一括購入して市役所や病院など市内281の公共施設で使うという計画も進めています。
■飛騨高山のバイオマス発電所
飛騨高山の事例です。「飛騨高山しぶきの湯バイオマス発電所」が5月1日に営業を開始しました。面積の92%が森林の街は間伐材など未利用の森林資源がたくさんあります。その森林資源に着目した地元企業が「小型木質ペレットガス化熱併給システム」をドイツから導入しました。年間126万kWhを発電し、120万kWhを中部電力に売電するそうです。売電収入を得るとともに発電の際に排出される「温熱を近くにある温浴施設に供給」するそうです。
発電所ができたことで、燃料の木質ペレットを生産する工場が建設されました。住民の雇用が増え所得の向上にもつながっているそうです。地域社会の中でお金が回るようになり地域経済の活性化にも役立っているそうです。過疎化に悩む地方の自治体には参考になりますね。このような地域おこしエネルギープロジェクトが全国の津々浦々で生まれています
電力自由化で消費者もいろいろな選択肢が
小売会社の数が増えて電気料金やガス料金、サービス内容を比較ができるようになり、「1円でも安い電気を買おう」と契約先をスイッチングする人がふえましたが、地球温暖化に関心が高まり、料金とは違った視点で新電力を選択する消費者が増えてきています。
環境派の消費者にとっては、「割高でも好きな商品」を選びたい消費者も増えています。電気も同じです。割高でも再生エネルギーを活用した電気を買いたい、グリーン電力を購入して自分も温暖化防止と地域振興に役立ちたい、と考える消費者が増えてきています。
いまの自由化の仕組みの中では、大手の小売り会社はいろいろな電気をミックスして販売していますから、再生エネルギーに特定して電気を購入することはできません。その点、低炭素化時代に相応しいグリーンメニューをそろえているのが「地域新電力」です。地場の再生可能エネルギーを活用し産業を興し電気の小売り事業も展開しています。料金は火力発電中心の他新電力より少し割高ですが、地球環境を重視する消費者に支持されています。小売り事業に特化している会社もあります。
地域新電力の経営の主体は自治体や市民生協など
市場に参入した300社以上のうち地域新電力はまだまだ少数で小規模ですが、主要な会社としては、泉佐野電力、とっとり市民電力、浜松新電力、はりま電力、中之条新電力、水戸電力、鹿児島電力、北上新電力、湘南新電力、みやまスマートエネルギ、やまがた新電力、和歌山新電力―などがあります。
地域新電力の経営の主体は自治体や市民生協などです。太陽光、風力、地熱、バイオマスなど「地場エネルギーを活用した町おこし」や災害時の非常用電源の確保に役立つ電力システムが狙いです。地域のエネルギーで発電した電気を地域で消費すれば、雇用も増え地元でお金が回りますから、一石二鳥あるは三鳥の地域活性化効果が得られます
再生エネルギープロジェクトには大きく分けて、①日照時間の長い地域の太陽光発電を核にした取り組み、②通年で風が強いところでは風力発電を核にした取り組み、③森林資源の豊富なところでは、木質バイオマス発電を核にした取り組み、④これらを複数組み合わせて、環境負荷の低い電気を利用する取り組み―の4つがあります。自分の支払っている電気代が地方活性化に役立っていると思うと、嬉しくなりますね。
再生可能エネルギーの電気は供給が不安定でコストが高く難点はありますが、地方創生プロジェクトとして取り組む自治体が増えてきています。国や県の支援や補助を利用して「身の丈に合った」再エネ事業として期待が膨らんでいます。
まだ広く一般消費者に届くほどの規模ではないですが、地元の人たちが協力しあって地場エネルギーを活用して地方創生を目指す「地域グリーン電力」に注目です。地元産品の販売やB級グルメなどがんばる「道の駅」にどこか似ていると思いませんか。