更新日: 2019.01.10 その他

奨学金の返済、来年で10年の猶予期間が終了。訪れる自己破産急増問題!?

執筆者 : 新美昌也

奨学金の返済、来年で10年の猶予期間が終了。訪れる自己破産急増問題!?
日本学生支援機構の奨学金の返還が困難になったときの救済措置のひとつに「返還期限猶予」があります。
 
猶予期間は2014年より5年から10年に延長されました。
2014年時点で既に5年間の返還猶予を受け、さらに5年間延長した方は来年から返還が始まります。
 
長期間にわたって返還猶予を受けていた人は、自己破産予備軍といえます。自己破産も視野に入れ、対策を立てましょう。
 
新美昌也

Text:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

返還しないとどうなるのか

延滞すると5%の延滞金が加算されます。2回続けて延滞すると連帯保証人(父母等)にも請求が行くようです。3カ月延滞すると個人信用情報機関に延滞情報が登録(いわゆるブラックリスト化)されます。
 
4ヵ月目から9ヵ月目は、債権回収業者に債権の回数が委託されます。9ヵ月超延滞すると、未返還残額等一括請求されることになります。これに応じないでいると、裁判所から「支払督促申立書」が送られてきます。
 
放置しておくと最終的に給料等が差し押さえられる場合があります。そうならないように「異議申立書」を裁判所に提出しましょう。
 
機構によると、平成28年度末、3ヶ月以上の延滞者は16万1千人(返還者数の3.9%)います。
 
機構が裁判所に対して支払督促申立をした件数は9,106件(同0.22%)、裁判所からの支払督促に対し、返還者が異議申立を行い、通常の訴訟へ移行した件数は5,845件(同0.14%)になっています。
 
訴訟に移行した場合、ほとんどのケースでは日本学生支援機構との間で、分割返還による和解で解決されています。
 

自己破産も視野に

経済的理由とした返還猶予は、給与所得者であれば年収300万円(税込)以下、給与所得者以外であれば年間所得金額200万円以下の方が利用できます。
 
通算10年間、返還期限猶予を受けている給与所得者の方は非正規雇用の方が多いのではないかと推測されます。
 
非正規読用雇用の方は、収入が不安定で、また、十分な収入を得ることが難しいでしょうから、本人の経済状況次第では債務整理や自己破産を視野に入れた対策が必要です。
 

自己破産のメリット・デメリット

自己破産は、奨学金を返還する人が「支払不能」の状態であれば可能です。「支払不能」かどうかは裁判所が本人の財産、収入、職業などを総合的に判断して決めます。
 
自己破産の一番のメリットは、奨学金の返還から解放される点です。生活再建に向けて新たに出発できます。
 
一方、次のようなデメリットがあります。
 
・一定の限度で保有を認められている財産(自由財産)を除いて、財産を処分しなければなりません。
・官報に掲載されます。
・個人信用情報機関に登録されます。
・破産手続きがすべて終わって免責許可決定がでるまで、一定の職業に就くことや居住地の制限があります。
 
なお、破産したからといって、そのことが戸籍や住民票に載ることはありません。選挙権や被選挙権もなくなりません。
 
また、破産手続きがすべて終わって免責許可決定がでれば、職業や居住地等の制限はありません。
 
大きなデメリットとしては、クレジットカードやローンの利用が一定期間制限されるぐらいではないでしょうか。なお、本人が自己破産しても、連帯保証人や保証人の責任は免れない点は留意してください。
 
債務整理の方法としては破産のほか民事再生もあります。民事再生は、持ち家を手放したくない方で今後安定的な収入がある方などに向いています。詳しくは弁護士などの法律の専門家にご相談ください。
 

自己破産の相談場所

全国に奨学金問題を支援する団体がありますので、そのような団体に相談するのもひとつの方法です。
 
たとえば、「奨学金問題対策全国会議」「北海道学費と奨学金を考える会(インクル)」「みやぎ奨学金問題ネットワーク」「埼玉奨学金問題ネットワーク」「奨学金問題を考えるしずおか翔学会」「愛知奨学金問題ネットワーク」などがあります。
 
「法テラス」に相談するのも良いでしょう。法テラスの正式名称は、日本司法支援センターといいます。
 
法テラスは“全国どこでも法的トラブルを解決するための情報やサービスを受けられる社会の実現”という理念の下に、国民向けの法的支援を行う中心的な機関として設立された公的な機関です。経済的に余裕のない人を対象に、無料の法律相談や弁護士費用の立て替えを行っています。
 
立替えられた費用は、分割して返済します。
詳細は「法テラス」のホームページでご確認ください。
 
一人で思い悩んで何も行動を起こさないのは事態を悪化させます。猶予期限を過ぎても返還の目途が立たない方は早めに上記支援団体や「法テラス」に相談してみることをお勧めします。
 
Text:新美 昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。