更新日: 2019.01.10 その他
キャリア教育から紐解く「何のための教育か」、「何のための教育資金か」論
ファイナンシャル・プランナー(FP)は、一般的に経済的・金銭的な問題を解決する専門家というイメージがあるかもしれませんが、本質的には人生をどのように生きるかについて様々な角度から考えていく職業です。
職業や働き方にかかるキャリア教育というのも、ファイナンシャル・プランニングの一分野とされています。
Text:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
学校で「キャリア教育」がスタート。その目的は?
さて、現在、文科省において、小学生・中学生・高校生に対しキャリア教育を実践するという方針が打ち出され、学校教育の現場で実施されています。
2020年より小学校の高学年で英語が教科となり、またプログラミングについても総合的な学習などの時間を使って必修化されるため、お子さんを持つ親御さんとしては、どのようにお子さんの教育環境を整えたらいいか迷われている方もいるかもしれません。
一方、キャリア教育に関しては、学習内容が多岐にわたるため、お子さんとどのように取り組めばいいかわからないという方もいるでしょう。
そもそも教育は何のためにあるのでしょうか。
子どもの将来のため。おおよそ、親御さんならそう思うことでしょう。だからこそ、子どもを塾に通わせ、習い事をさせ、良い学校に進学させ、立派な大人になってほしいと願っていることと思います。
しかし、少し立ち止まって学校で行われているキャリア教育について考えてみると、国は、良い学校に進学した子どもが必ずしも立派な大人になっていくわけではないという点を問題視し、キャリア教育を始めていることがわかります。
子ども向けのキャリア教育とは
それでは、子ども向けのキャリア教育とはどのようなものでしょうか。文科省ではキャリア教育を次のように定義づけています。
「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」(文科省「小学校キャリア教育の手引き改訂版」)
少しわかりにくいかもしれませんが、同じく、文科省の「小学校キャリア教育の手引き改訂版」から引用すると、キャリア教育をこのように表現しています。
「子ども・若者がキャリアを形成していくために必要な能力や態度の育成を目標とする教育的働きかけ」
つまり、大人になる過程で、自分がどのように生きていくかを自ら考え、実践できるようにするために、学校がサポートするということです。「自立」・「自律」に向けた人間形成教育といえるかもしれません。
キャリア教育が必要となった社会的背景
ここでふと思うのが、なぜ、このようなキャリア教育が必要になっているかという点です。その社会的背景を文科省「小学校キャリア教育の手引き改訂版」ではこう指摘しています。
〔学校から社会への移行をめぐる課題〕
(1)社会環境の変化
◦新規学卒者に対する求人状況の変化
◦求職希望者と求人希望との不適合の拡大
◦雇用システムの変化
(2)若者自身の資質等をめぐる課題
◦勤労観、職業観の未熟さと確立の遅れ
◦社会人、職業人としての基礎的資質・能力の発達の遅れ
◦社会の一員としての経験不足と社会人としての意識の未発達傾向
〔子どもたちの生活・意識の変容〕
(1)子どもたちの成長・発達上の課題
◦身体的な早熟傾向に比して、精神的・社会的自立が遅れる傾向
◦生活体験・社会体験等の機会の喪失
(2)高学歴社会における進路の未決定傾向
◦職業について考えることや、職業の選択、決定を先送りにする傾向の高まり
◦自律的な進路選択や将来計画が希薄なまま、進学、就職する者の増加
本来なら、子どもの成長は、親という最も身近な存在からスタートし、兄弟や友達、そしてご近所といった形で地域社会全体との関わりを通じ行われていくものです。
しかし、現代社会では、かつてと比べ家庭や地域の結びつきが薄れ、多くの大人と接する機会そのものが少なくなっています。
その結果、世の中との関わりも希薄化し、自分がどの道に進むべきかを考えるきっかけや体験も失われてきたというのが文科省の指摘する社会的な背景なのかもしれません。
「何のための教育か」を考えた先に、教育資金の使い道がある
このように読んでいくと、キャリア教育の本質的な問題は、大人が築き上げた社会に起因しているように思えます。
実務的には教育資金や進学資金についてご相談を受ける機会は多いですが、確かに子どもの教育環境を経済的にどう整えていくかを考えておく必要があるかもしれません。
しかし、本質的には、家庭内での教育方針がまずあり、そのうえでどのように人間形成していくかを考え、その結果、どの学校に通うか、どの塾に通うかなどが決まってくるものと思います。
実務を通して顕著に見えるのは教育資金の高止まりです。この原因は、学校教育費を除けば、おおよそ塾や習いごとにお金を回し過ぎていることにあります。
何のための教育か。これを考えたその先に、教育資金や進学資金の使い道があるように思います。
とはいうものの、これはとても難しい問題ですね。
Text:重定 賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)