更新日: 2019.09.02 その他
「弁償しろ!」 満員電車で他人のタブレットを壊してしまったら絶対弁償!?
もし自分が誰かとぶつかり、相手の物を壊してしまったらどうすればいいのでしょうか。弁償の義務は発生するのでしょうか?
満員電車でトラブルになってしまったA子さんの例をみてみましょう。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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弁護士/東京桜橋法律事務所
第二東京弁護士会所属。
中央大学法学部卒。弁護士登録後、東京桜橋法律事務所に勤務。平成25年以降は同所パートナー弁護士に昇格し、主にIT関連、エンタメ関連の企業法務を中心として、相続・不動産・債権回収・破産など幅広い法律事務に対応している。
座右の銘は「強くなければ生きられない。優しくなれなければ生きていく資格はない。」時には、クライアント自身の姿勢を問うようなアドバイスができるよう心掛けている。
目次
満員電車で無理やりタブレットPCを取り出した男性。腹を立てたA子さんは…
A子さんは、都内でも特に通勤ラッシュがきついと有名な路線を利用しています。
ある朝、いつものようにぎゅうぎゅうの車内に乗り込みました。人と人との間はほとんど隙間がなく、腕も動かせない状態です。
そんな中、後ろにいる若い男性が、かばんから無理やりタブレットを取り出しました。イヤホンをして、なにやら動画を見ている様子です。男性は自分の肘やかばんが周りの人に当たっていてもお構いなしです。
A子さんは、こんな状態で動画見る?と、不快に感じました。
A子さんはイライラしながらも、じっと我慢していました。しばらくすると、A子さんの降車駅に止まりました。A子さんはドアに向かおうとしましたが、先ほどの男性が動かないため前に進むことができません。
A子さんは仕方なく、ぐいと男性の体を押しのけました。その時です。ゴトンという大きな音がなりました。足元を見ると、男性が持っていたタブレットが落ちています。画面には大きなヒビが入っていました。
A子さんは青ざめました。
「なにすんだよ!おまえのかばんがぶつかってタブレットが落ちたじゃないか!弁償しろよ」
男性がA子さんにすごみます。ホームにいた車掌さんが駆けつけ、仲裁に入りました。A子さんは男性にタブレット代を弁償しないといけないのでしょうか?
※物語はフィクションです
満員電車でぶつかり、誰かの物を壊してしまった場合、相手に弁償しないといけないのでしょうか。東京桜橋法律事務所の池田理明弁護士にお伺いしました。
事情によって結論に差が出る可能性はありますが、A子さんのケースでは、弁償する必要はないと思います。
A子さんに弁償する必要があるかどうかは、A子さんに過失があるかどうかによります。
A子さんが、法律上要求される注意義務を怠った場合は過失があるといえ、その結果、タブレットが損壊したといえれば、A子さんに賠償責任が生じます。
注意義務を怠ったかどうかは、一般標準人を基準として、(1)結果発生の予見が可能だったかどうかで判定し、(2)予見していた場合にはさらに結果発生を回避する措置をとったかどうかを検討して判定されます。
Aさんのケースでは、事前に男性がタブレットを持っていたことを知っていたのですから、(1)抽象的には事故の危険を予見しえたといえるかも知れません。
しかし、一般的には、満員電車内で乗客が出入りする際には、それぞれの乗客が自身の所持品を落とさないように気を付けるのが当然です。
このような状況下でAさんは、停車中の車内から降車するために、仕方なく、ぐいと男性を押した程度の行動をとったのですが、一般標準人を基準として、この行為について“結果発生を回避する措置をとらなかった”と評価することは難しいと考えます。
もちろん、故意にぶつかったり、予想外に突然動き出したり、常識を超える強さで押しのけたりする場合は別論です。
また、仮に何らかの過失があったとしても、この場合、タブレットを持っていた男性にも過失があると考えられます。この場合、仮にAさんに落ち度があったとしても過失相殺という論理で全額弁償は免れるでしょう。
法律論より前に、本来、求められている乗車マナーがあります。マナーを守った乗車態度を心掛けていれば、法律上の責任問題に発展することは少ないと言えます。
満員電車で誰かの物を壊した場合、過失の割合に応じて弁償する義務が発生する場合がある
満員電車で誰かとぶつかって相手の物を壊してしまった場合、ぶつかったことに過失があれば過失の割合に応じて弁償する義務が発生する場合があるということが分かりました。
しかし、池田先生のお話によると、A子さんのように明らかな過失がなく、かばんをぶつけてしまったくらいであれば弁償の義務が生じるとは考えにくいとのことです。
満員電車では、誰かと誰かがぶつかる、物を落とすなどは想定の範囲内であり、それぞれが自分自身で気をつける場面と考えられますね。
ただし、人とぶつかることが想定の範囲内だからといってわざと人にぶつかるようなことはしないようにしましょう。
また、大切なものは、落としたり壊れることが予想される場所では使わないことも大事です。狭い車内では、周りの迷惑になるような行動は慎み、みんなが気持ちよく利用できるといいですね。
Text:ファイナンシャル フィールド編集部
監修:池田 理明 (いけだ みちあき)弁護士
東京桜橋法律事務所、第二東京弁護士会所属 http://tksb.jp/
IT関連・エンタメ関連の企業法務を中心に、相続・不動産・債権回収・破産など幅広い法律事務に対応