更新日: 2019.08.07 その他
奨学金の返還計画② 繰上返還をした方がいいかどうか?
今回は、いくら繰り上げ返還したらいいか迷った時に、検討していただきたいポイントをまとめます。
執筆者:尾上好美(おうえ よしみ)
アルファプランナーズ代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP(R)認定者
2級キャリア・コンサルティング技能士
大学卒業後、IT関連企業で、技術支援、マーケティング職等の業務に約12年間従事した後、子育てを経て、CFP®として独立。現在、ファイナンシャルプランナーとキャリアコンサルタントを兼業し、仕事(キャリア)と資産運用に関する相談業務、講師、執筆を行っている。住宅相談、教育資金に関する相談、リタイアメントプラン、相続など、子育て世代から中高年世代からの個人相談に数多く対応。「後悔のない選択ができた」と感じてもらえるような支援やサービスの提供を志している。
目次
まずは、現在の家計の収支を把握し、手元に残しておく金額を確保する
急な出費、突然の発病や事故、転職など、緊急時の支出に備えて、万が一の時にはすぐに引き出せる資金を考えておきましょう。
■緊急資金の目安は、<毎月の生活費(支出)> × 6ヶ月分
理想的には、12ヶ月分あれば望ましいと考えてください。
たとえば、毎月の生活費が20万円程でやりくりできているのであれば、120万円以上を緊急資金として手元に残します。
それを越える金額がある場合は、繰上げ返還に充てられる資金として検討できると考えてください。
注意したいのは、毎月の生活費が大きく変動している場合です。
緊急資金の算出に限らず、今後の暮らしを予測しながら資金計画を考えるときには、一ヶ月にどの程度の費用がかかる家計なのかを把握していることが大切になります。
できれば、2、3年程度の家計収支の記録をつけておき、自分の家計の平均的な生活費(月額)を押さえておくことをおすすめします。
■繰上げ返還を考える時のチェックポイント
1)毎月の収支状況を把握できているか
2)緊急資金が確保できているか
3)近い将来に準備が必要なイベントがないか
近い将来のイベントへの準備など、ライフプラン上のバランスを考慮する
社会人になり返還が始まる奨学金は、借りる期間より返済に充てる期間のほうが“長いつきあい”になります。
その間、独身時代から結婚を経て新しい家族を持つなど、いくつかのライフステージを経て、様々なイベントや課題に応じた資金が必要になることがあります。
近い将来に準備が必要なイベント(結婚や住宅購入など)がある場合には、他のローンに比べて返済条件が緩やかな奨学金を返還せずに手元に残しておくという選択があります。
日本学生支援機構の奨学金の金利は、第二種奨学金(有利子)の場合で、平成28年度の固定型利率は0.05%〜0.33%、変動型利率(一定期間で利率を見直す方式)は0.01%〜0.1%とかなりの低利率です。
しかも、貸与期間は無利子で、返還期間のみの利子という条件は、他の融資と比較してもかなり良心的です。さらに、金利は時期によって変動しますが、最大でも3%が上限と決められているので、市況判断が難しい場合でも安心です。
住宅ローンやマイカーローンなどの融資審査では、学生時代の奨学金返還残額がある場合でも、その融資条件や審査結果が不利になることはないといわれています。
ただし、奨学金の返還履歴は記録されていますので、もし滞納などの履歴が続いた記録がある場合には、審査に影響を受けますので注意しましょう。
住宅購入の際は、住宅ローンの適用金利と奨学金の金利を比較する
手元資金がある場合に、住宅購入の際の頭金にするか、奨学金の繰上げ返還をするかどうかの判断は、住宅ローンの適用金利との比較になります。
ちなみに、住宅金融支援機構によると、平成29年2月時点での住宅ローン固定金利利率(フラット35)は、0.99%〜1.43%となります。
この状況では、金利の低い奨学金を残して、手元の資金はできるだけ住宅ローンの頭金として充当した方がいいと判断できます。
人によっては、複数のローンの長期にわたる返済管理を負担に感じる方がいますので、その場合には金利の高低に依らず、新しいローンの契約前に奨学金の残額を返せる時に返しておくという判断も間違いとはいえないでしょう。
長年にわたる奨学金返還は大変ですが、家計管理の習慣を身につける学びの機会となり、長い人生の早い段階で実践的な金銭力を備える貴重な経験となります。
これから社会人として新しい一歩を踏み出だすみなさんに、ぜひこの習慣を継続していただきたいと思います。