更新日: 2023.03.27 その他
お店の勘違いで「会計」が少なくなったら詐欺になる? 落語「時そば」の場合で検証
この客は払った代金が足りていないので、実際にやると不正な手口に思えます。結論から言うと、いわば部分的な無銭飲食(部分食い逃げ)に該当しうるでしょう。主に想定される3つの場合に分けて解説します。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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目次
最初から代金をごまかすつもりで、そばを注文した場合
注文したそばが出てきて、食べ始めた時点で詐欺罪が成立する可能性があります(刑法246条1項)。理論上、その後に店主をだますことに失敗し、払う代金を減らせなかったとしても、詐欺未遂罪になることはありません。そば自体をだまし取ったことになるからです。
法律上、詐欺とは「相手をだまそうとする行為(欺罔=ぎもう)」→「相手が勘違いする状態(錯誤)」→「相手が物などを渡す行為(処分)」→「渡された物などを受け取る行為(受領)」が、因果関係でつながっている状態だと定義されています。
この場合は、代金を最初からごまかすつもりでそばを注文し、その意図を読み取れずに店側がだまされ、注文されたそばを出し、客がそばを受け取っているので、その時点で詐欺罪が成立するのです。詐欺罪は最高刑で懲役10年が科される恐れがある重罪です。
そばが出てきて食べ始めた後に、代金をごまかそうと思いついて実行した場合
この場合は、そばが出てきて食べ始めても、詐欺にはなりません。だますつもりも、だます行為もまだないからです。その後に代金をごまかそうと思いついても、心の中に悪意があるだけでは処罰できないので、まだ詐欺ではありません。
食べ終わって、代金を数えている店主に時間を尋ねて、小銭の数を勘違いさせようとする言動が、詐欺の実行行為です。このときに店主が小銭の数を実際に勘違いし、払うお金を減らして帰れば詐欺利得罪(246条2項)が成立します。
この場合、物やお金はだまし取っていませんが、結果として払う代金が減ったという「利益」をだまし取ったことになり、やはり最高刑で懲役10年が科される恐れがあります。
なお、店主が勘違いせず、代金のごまかしが失敗したとしても、詐欺未遂罪(刑法250条)は成立しますので、処罰は免れません。
店主が小銭を数えているときになんとなく時間を尋ねたら、そば代がたまたま減った場合
この場合、客にだますつもりも、だます行為もありません。つまり、詐欺罪は成立しません。
しかし、そば代がたまたま減ったという「利益」が客の側に発生している状態です。人道的には当然、正規のそば代を払ってから帰るべきですが、もし、何も言わずにそのまま帰ったなら、どうなるのでしょう。
受け取るべきでない利益を持ち出したことになるので、窃盗罪(刑法235条)が成立しそうではあります。しかし、条文には「他人の財物を窃取した者」と書いてあるだけで、利益を盗んだことを処罰する規定はありません。
ここが詐欺罪との違いです。したがって、日本の刑法においては処罰されることがありません。
利益窃盗は処罰されませんが、マネしてはいけません
落語「時そば」のエピソードをそのまま意図的に実行すると、詐欺罪が成立する可能性が高いです。しかし、意図的ではなくたまたま「時そば」のエピソードと同じ状態になり、そば代が減った場合、客がそのまま帰っても日本の法律では処罰されません。
ただ、これは理論上の話であり、実際には検挙されて詐欺罪の疑いで裁判所に起訴されることでしょう。たとえ法廷で「利益窃盗だから不可罰だ」と主張しても、裁判官に信用してもらえる保証はありません。
出典
e-Gov法令検索 刑法(246条、235条)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部