更新日: 2019.01.11 その他
身近な電気の話 ㊳17年度石炭消費が4年ぶりの高水準に
北海道、東北、東京、中部、関西の大手5電力会社の消費量が前年度より増えたためです。
Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト
中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。
石炭火力は、実は主力電源
各社とも原子力発電が停止しているため、火力発電に頼って電力を供給しています。
そんな中で北海道は、4基ある苫東厚真発電所(石炭火力)の定期検査台数を減らしたことと出水率が低下したことによるものです。
東北電力は原町火力(石炭火力)、関西電力は舞鶴火力(石炭火力)の稼働率が向上して石炭消費量の増加したものです。
一方、LNG(天然液化ガス)の消費量は4970万トンで5.6%減少しました。坂出火力の稼働を増やした四国電力は消費量が増えましたが、ガス火力を所有している7電力会社はいずれも消費量を減らしています。
天然ガスより石炭のほうが安いのです。
10社合計の重油消費量は25.4%減少しました。原油は41.7%の減少となり、火力発電は石炭火力とLNG火力を主力電源として運用している姿が浮かび上がっています。
九州電力は、すべての火力発電の燃料消費が前年度を下回割りましたが、これはFIT電源(太陽光発電、風力発電など再エネ電源)の受け入れが増大によるものです。
わが国の電力消費量の80%以上を依存している火力発電について見てみましょう。
火力発電には燃料の種類によって、1.LNG(液化天然ガス)火力、2.石炭火力発電、3.石油火力発電、4.木質バイオマス発電、などに分けられます。このうち主力を担っているのが石炭火力とLNG火力です。
石炭とLNGは、運転特性や経済性から運用上の役割の違いはありますが、ほぼ同等の力を発揮しています。大雑把にいうと石炭火力はベース電源としての役割です。
きめ細かな運転が得意なLNG(コンバインドサイクル発電)は、需要の変動に応じた中間負荷からピーク時間帯を担っています。現時点で石炭火力は30〜40%の電力を供給しています。
日本は原発の大部分が運転を停止しているので、石炭依存も大きいのですが世界の国々の実情はどうでしょう。経産省の2016年のデータで見てみましょう。石炭依存度は以下のようになっています。
・ドイツ…44.3%(原子力14.3%、天然ガス9.2%)
・イギリス…22.8%(原子力20.9%、天然ガス29.7%)
・イタリア…16.1%(原子力0%、 天然ガス39.4%)
・アメリカ…34.2%(原子力19.3%、天然ガス31.9%)
・スペイン…19.0%(原子力20.1%、天然ガス18.9%)
・フランス…2.2%(原子力77.6%、天然ガス3.5%)
お国柄がよく出ていますね。脱原発・環境先進国といわれるドイツですが、石炭火力依存度が40%を超えており、原子力依存度も依然14%を超えています。
あらゆる天然資源が国内に豊富なアメリカでも、石炭依存度が3割を超えています。
北海ガス・油田を持つイギリスも20%以上を石炭に頼っていますし、インドや中国も電力の半分以上を石炭に依存しています。
全世界の消費電力量のおよそ40%は石炭火力です。脱地球温暖化という観点からは、「脱石炭」ということになりますが、現実は石炭依存です。
つきあいの長い石炭は炭素の塊
石炭とLNGで火力発電の役割をほぼ2分しています。同じ火力発電でも「石油火力」に対する依存度は低いですね。それは、石油が化学原材料として利用可能だからです。
石油化学製品として使い切ったのち、重油や残渣油を火力発電の燃料として使っています。燃料より原料でということです。
では、温暖化の視点からすべての発電所について発電方式別、電源別にCO2の排出量をチェックしてみましょう。原料の採掘、建設、輸送、精製、運用、保守という発電ライフサイクル全体でどのくらいCO2を排出するのか、評価してみます。
評価の単位は「kg-CO2/kwh」です。電気1kWhをつくるのに排出するCO2の量です。CO2排出量多い順に並べてみましょう。
1.石炭火力=0.975㎏
2.石油火力=0.742㎏
3.LNG火力(汽力)=0.608㎏
4.LNG火力(コンバインドサイクル)=0.519㎏
5.太陽光=0.053㎏
6.風力=0.029㎏
7.原子力=0.022㎏
となっています。⑤〜⑦はいわゆる「非化石電源」ですね。
CO2排出量が多いからといって、火力発電所の運転を停止することはできません。では、電源の低炭素化のためにはどうしたらよいか。
そのポイントは「発電熱効率」です。石炭やLNGの持っている総エネルギーを、どれだけ電気に変換できるかの物差しです。
日本の石炭火力発電所の熱効率は40%を超えていて、最近実用化された最新式の石炭ガス化複合発電だと50%を超えています。
世界の発電の主力は石炭火力
世界の国々の石炭火力発電所の熱効率は大体30%です。同じ量の電気をつくるなら、効率が高いほうが燃料消費量は少なくて済みます。その分CO2排出量も削減できます。
現在、わが国では固形の石炭をガス化して燃焼する「次世代型石炭火力発電」の実用化研究も進んでいます。目標は熱効率60%以上で、実用化の段階に入っています。
人類と石炭との付き合いは古いのです。太古の昔からです。その間、幾多の苦難を乗り越えて、人類は石炭を活用してきました。産業革命をもたらした蒸気機関は、石炭が最も輝いた時期ですね。
いまは、石炭には再び厳しい風が吹いています。が、悲観的になりすぎる必要はないと思います。日本の持つ石炭火力技術が世界に広く移転されれば、石炭火力発電所からのCO2排出量を劇的に削減することができるのです。
世界に貢献できる環境技術です。「羹に懲りて膾を吹く」の例えもありますが、理想論を振りまくだけでは、環境は改善されません。
第5次エネルギー基本計画。再生エネルギーを「主力電源化」
経済産業省は今年の夏までに、第5次エネルギー基本計画を策定する方針です。先月末、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会に、事務局である経済産業省がまとめた新計画案が提示されました。
それによると、2030年度を目標とする現行第4次計画の枠組みは大筋で踏襲することにしています。注目されていた電源構成(エネルギーミックス・目標値)は、見直しをせず維持することにしています。
その代わり、経済社会の脱炭素化をいっそう推進するため「再生可能エネルギーの主力電源化」との考えを打ち出し、計画に明記することにします。再エネ対策の深堀を目指す方針です。
一方、原子力については、依存度を低減しつつも「活用は維持する」方針を確認しています。
現行のエネルギーミックスでは、原子力依存度は20〜22%、再生可能エネルギーは22〜24%としていますが、原子力が再稼働が進まず、再エネは高コストや系統利用がネックになっていて思うように進まず、「道半ばの状態」だと評価していて、「対策を強化して主力電源化を目指」ことにしています。
原子力は、安全優先で再稼働を進め、「重要なベースロード電源」の役割は堅持することにしていますが、依存度の低減と新増設.リプレースについては、今回は計画に明記を見送ることにしています。
2050年度の長期目標については、「温室効果ガスを80%削減する」との政府目標を達成するため、エネルギーミックスの数値目標は設定しないものの、「あらゆるシナリオと選択肢を用意して総力戦で取り組む」方針を示しています。
シナリオごとの技術開発やコストの検証は、「科学的レビューメカニズム」により行うことしています。
CO2削減の頼みである原子力の再稼働も再生可能エネルギーの導入も、大変スローペースで、30年の数値目標は引き下げが妥当なところです。
しかし、政府が「パリ協定」で国際公約している目標数値であるので、政府としてエネルギーミックスは、対策の深堀で実現を目指す「必達目標」となっているのですね。前進あるのみです。
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト