当然、隣の庭に侵入し、その実を取る行為は許されないでしょう。
しかし、枝が自己の所有する庭の敷地内にまで伸びているのであればどうでしょうか。
木や枝を傷つけず、敷地内に伸びてきた枝から実だけを切り離したり、自然と敷地内に落ちた実を取るのであれば問題がないようにも考えられます。
このような場合において法律ではどのように規定されているのでしょうか。
枝から直接実を切り離す場合と敷地内に落ちた実を処分する場合とに分けて考えていきましょう。
Text:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。
広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
枝から実を切り離す場合
例えば、Bさんの庭にある木からAさんの庭へ枝が伸びてきたとします。
その場合、Aさんが庭の敷地に越境してきている範囲でのみ、枝から実を切り離す行為はどうでしょうか。
枝を傷つけることなく、庭に侵入している部分にある実だけをきれいに切り離すのであれば、問題がないようにも思えます。
ところが、このように枝から直接実を切り離す行為は許されません。
なぜ許されないのでしょうか。
枝になっているとはいえ、実際に実が存在しているのはAさんの庭の中です。
この点、民法では89条1項において「天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。」と定められています。
天然果実とは、木になる実や牛から搾る牛乳など、ある物から直接収取できる産出物のことをいいます。
また、「収取する権利を有する者」とは、天然果実の元物(今回の例であれば木)について所有権など権利を持っている人を指します。
では、今回の事例に即して89条1項を読み替え、簡単にわかりやすくしてみましょう。
枝になる木の実は、収穫の時、木の持ち主であるBさんの物となる。
と、こうなります。
つまり、AさんはBさんに無断で実を枝から切り離すことができないのです。
万が一、切り離して処分してしまうと、Bさんに対して損害賠償の責任を負うだけでなく、場合によっては窃盗罪が成立するおそれもあります。
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落ちてきた実を拾う場合
では、実がAさんの庭へ自然と落ちてきた場合はどうでしょうか。
この場合、枝になっている実を切り離すのとは違い、Bさんの元から完全に離れているため、なんら問題がないようにも考えられます。
ところが、この場合においてもAさんが実を処分してしまうことは許されません。
なぜなら、ここでも民法89条1項が適用されることになるからです。
もう一度、89条1項の条文を確認してみましょう。
「天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。」
分離する時(実が落ちる時)に収取する権利を有しているのはBさんです。
ということは、現実的にはAさんの庭にあったとしても、法律上はBさんに権利があるのです。
もし、Aさんが実を拾い処分してしまえば、損害賠償の責任が発生したり、占有離脱物横領罪などが成立するおそれもあります。
枝になる実も、落ちてきた実も、勝手に処分してしまわないよう注意してください
越境してきた枝に実がなっていたり、そこから実が落ちてきてしまうと、つい実を処分してしまってもよいのではないかと考えてしまいます。
しかし、実はたまたまそのような状態になっているだけであって、法律上の権利まで移動してきているわけではありません。
勝手に処分してしまうことで、無用なトラブルを招いてしまうこともあります。
実のなった枝が伸びてきたり、敷地内に実が落ちてきているのであれば、自身で処分するのではなく、木の所有者となる方へ相談するようにしてください。
Text:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士・2級ファイナンシャルプランナー