更新日: 2019.01.10 その他

実録 生き残れるのは一握りと言われる「声優」の収入と生活の現実

執筆者 : 井田正幸

実録 生き残れるのは一握りと言われる「声優」の収入と生活の現実
アニメのキャラクターに声をあてたり、海外ドラマや外国映画の吹き替えを主な仕事とする「声優」。
 
最近では声優本人のアイドル化が進んでおり、容姿やキャラクター、歌唱力、トークスキルなど、求められる水準も高い印象です。
 
今回は、10代から声優を志し、約20年間声優の世界で生きてきた、K子さんにお話を伺いました。
井田正幸

Text:井田正幸(いだ まさゆき)

ファイナンシャルプランナー

大学卒業後、ベンチャーキャピタルにてベンチャー企業への投資業務
シリコンバレーのビジネスインキュベーターでベンチャー企業支援
ブレイク・フィールド社設立 代表取締役社長
Break Field Vietnam Co., Ltd. 会長
Break Field(Thailand) Co., Ltd. 取締役

声優を目指したきっかけのひとつは、知らない世界を体験できるから

K子さんは中学時代いわゆるおたくで、当時人気のあった少年漫画のアニメにはまっていたそうです。
 
テレビアニメを見ていて気付いたことは、1人の声優がいろいろなアニメのキャラクターを演じているということ。
 
アニメのエンドロールで声優の名前を確認した時に、「あのアニメのあのキャラと、このアニメのこのキャラは同じ声優なんだ」と発見し、驚きました。
 
また、声優は、女性でも男性の声をあてたり、ファンタジーの世界で生きるキャラクターを演じることがあります。現実では体験できない世界を疑似体験できることに、K子さんは魅力を感じました。
 
こうしてK子さんは、声優の世界に興味を持ち始めたそうです。
 

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音大合格から声優の養成所へ。30人中5人の「事務所あずかり」に選ばれた

K子さんはアニメのサウンドトラックに感化され、ミュージカル女優や歌手として食べていけないかと考えました。
 
音楽大学を志したK子さんは見事合格。大学で音楽を学ぶ中で、クラシック音楽と自分が求めている世界があまりにも違いすぎることに気付き何かを演じたかったと思うようになり、ずっと気になっていた声優の養成所に入りました。
 
授業は週に2日、午後6時半から午後9時半まで。養成所の入学金10万円に加え、授業料と舞台に立つための費用として、月間4万円がかかりました。年間の費用は約60万円です。声優の養成所の中では安い方で、年間100万円を超える養成所も多くあるそうです。
 
決して安くはない費用を捻出するため、大学卒業後は、アルバイトや派遣社員をしながら養成所に通いました。アルバイトの内容は洋服販売や試験監督など。事務の派遣をしていた時は、月に16万円ぐらいの収入があったそうです。
 
海外作品の日本語吹き替えや、アニメ作品での声を演じるアテレコばかりをカリキュラムに多く取り入れている養成所は、研修期間が通常1年~2年間です。
 
しかし、K子さんは、芝居を一からたたき込んでくれる劇団のような養成所に基礎科から入り、合計で4年間通いました。養成所選びでは、「この事務所に入りたいから、この養成所に入る」という人が多いそうです。
 
養成所の進級は全員ができるわけではなく、毎年ふるいにかけられます。また、一般的に、事務所あずかりになれるのは養成所の卒業生の10分の1くらいだそうです。K子さんの同期で、卒業後に事務所あずかりになれたのは、卒業生30人中5人でした。K子さんはその5人に入ることができました。
 
卒業して、事務所あずかりになれなかった場合は、あきらめるか他の養成所に入るかの選択をしなくてはいけません。プロの声優への第一歩は、この「事務所あずかり」になることなのです。
 
事務所あずかり後は、参加費約2万円の勉強会・会社でのあいさつ
 

事務所あずかりになった後は、1カ月に1回、参加費約2万円の勉強会がありました。

勉強会では、事務所あずかりになった他の養成所からの人や、オーディションで受かった人も含め20人ほどで、アニメや洋画などの吹き替えのレッスンを行います。現役の監督やディレクターが直接演出をつけてくれるので、彼らにスカウトされるために、さらなる努力が必要です。
 
それ以外の活動としては、所属した事務所のデスクやマネージャーに覚えてもらうために、毎日会社であいさつまわりをします。
 
事務所の許可がもらえれば、表現のスキルを磨くために劇団に入ることができます。ただし、劇団に入ったからといって直接的な収入にはつながりません。劇団でも、固定給はなく劇団へ費用を支払います。
 
舞台に立ってギャラが発生することもありますがチケットがさばけない時などは、新人の間は特に自身で負担することが多いようです。
 

声優の報酬はランク制。当時、新人で地上波1万5千円、BS・CSは数千円

基本的に声優事務所からの固定給はなく、歩合制が主です。アテレコ・吹き替えの報酬はランク制で、新人は地上波~円、BS・CSは~円、ベテランは地上波~円、BS・CSは~円、というように決められているようです。報酬は、一言だけでも、セリフが多くても変わりません。
 
当然、ベテランは新人より報酬が高いため、力がないと仕事の依頼をもらえないといいます。新人ランク期間を過ぎてランクつきになってから、一気に仕事量が減る人も少なくありません。新人の時にどれだけ売り込んでディレクターに覚えもらうかが鍵となるため、事務所選びはもっとも重要です。
 
K子さんが事務所にいた当時は、吹替は、新人で地上波1万5千円、BS・CSは数千円でした。そのうえで、報酬の30%はプロダクションが持っていくようです。
 
レギュラーがないと仕事は数カ月に1回の単発というようなこともよくありました。K子さんの場合、声優の稼ぎは1年で5万円いかないくらいでしたので、生活のためのアルバイトは欠かせませんでした。
 

夢をあきらめ30歳手前で会社員になるも、退屈な日々…2年後、再び声優の世界へ

事務所あずかりも、1年ごとにふるいにかけられます。K子さんは24歳から5年間、毎年生き残り、新人として事務所あずかりを続けました。
 
30歳手前になった頃、声優では稼げないし、このままの人生でいいのだろうか?と思い、声優の夢をあきらめ会社員になりました。安定はしたものの、週5日オフィスで働くのはK子さんにとっては退屈に感じたそうです。
 
そして2年後、再び声優の世界に戻ることを決意しました。今度は事務所の養成所ではなく、制作製作会社が運営している養成所に入りました。その養成所は、卒業すると100もの事務所が見に来るオーディションに出る権利をもらえたからだそうです。授業は週に2日、夕方のみで、費用は年間約60万円だったそうです。
 
K子さんは入所後に小さな事務所に声をかけてもらい、声優業だけではなく俳優業も再開しました。前の事務所は大手で厳しく、人として扱われていないと感じたことも多かったといいます。
 
逆に小さな事務所は大切にしてくれるものの、大手と比べて仕事が少ないという部分は否めなかったようです。どちらにしろ、メリット、デメリットはあるようです。
 
声優の稼ぎは年10万円程度、別に仕事をしながら、海外ドラマやナレーション、アニメの吹き替え、舞台や映画出演などで7年間役者として活動しました。
 
7年間、再度役者の活動をやり切ったところで、未練が無くなり、役者の世界を引退しました。
 
歌は人生を3分にまとめたもの、とある有名人が言っていましたが、その通りで現在は、派遣社員として働きながら、趣味と実益を兼ねて、ライブハウスで500円支払うと1曲歌える「オープンマイク」などに参加し表現することを続けて歌での収入先も探しているそうです。
 

声優の世界と自身について、K子さんに一問一答

Q.長年声優を目指したことについて、後悔はありますか?

 
A.後悔はありません。声優に限りませんが、何かを演じる仕事は、人の心理を深く考える必要があります。例えば、登場人物が何かに対して怒っていれば、「どうして怒ったのか」ということを追及します。声優の仕事でそのような作業を積み重ねたことで、人間関係を読み解く力や、人を見る目が養われたと思っています。
 
実生活でも、仕事において嫌な言い方をされた時に、ただムッとするのではなく「この人は忙しかったのかな?」などと、相手の心理を考えることでトラブルを避けたり、精神的にフラットな状態を保つことができます。
 
声優の活動を続けたことで身に付いたこの力は、実生活や他の仕事をするうえでも役に立っています。
 

Q.K子さんからみて、声優で成功している人の共通点はありますか?

 
A.技術的にうまいだけでなく、営業力のある人が多いと思います。人柄がいい、飲み会に呼ばれるタイプ、役者としても人としても「華」があるなどですかね。
 

Q.声優を目指されている方に一言

 
A.なかなか食べられない世界ですが、声優を目指したことで得られる経験は無駄になりません。人間として生きていく力、人と人とのコミュニケーション能力などが身に付きます。自己啓発に取り組みたい方にもおすすめです。
 

苦労談も明るく楽しそうに話すK子さん

声優の養成所の中でも数少ない「事務所あずかり」に選ばれ続けたK子さん。大手事務所に所属していた経験もあり、声優としての才能は十分にあるのではないかと思います。
 
そんなK子さんでも、声優の仕事1本で生活するのは難しい…それほど、声優の世界が厳しいということを感じました。
 
彼女が「後悔はない」と言い切るのは、長い間努力を続け、全力でやり切ったからこそなのだと思います。インタビューでも、苦労談を含めてとても明るく、楽しそうに話されるK子さんは、とても輝いていました。
 
Text:井田 正幸(いだ まさゆき)
ファイナンシャルプランナー