更新日: 2019.01.11 その他

身近な電気の話㉙ 誤解です送電線の“空き容量”

身近な電気の話㉙ 誤解です送電線の“空き容量”
基幹送電線は、道路でいえば自動車道や高速道路のようなものです。

その高速道路の渋滞・混雑問題が話題になっています。ガラガラなのに使わせてくれない、と一部の新電力から批判が出ているのです。
藤森禮一郎

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

送電線の平均利用率は低いガラガラ状態?

太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの導入をめぐり、発電所から電力を送る基幹送電線の“空き容量”のことが話題になっています。
 
基幹送電線を所有する大手電力会社は、落雷や切断事故などの緊急時も安定供給を続けられるよう、公的なルールに基づいて送電線容量の50%を、予備回線として空けたまま運用しています。
 
ところが、接続を希望する太陽光などの再生エネルギー事業者(新電力)などからは、「大手電力会社は『空き容量ゼロ』を理由に接続を拒んでいる」との批判が高まっています。
 
最近、京都大学の安田陽特任教授が、全国の基幹送電線の「平均利用率は19%でガラガラだ」と独自の調査結果を発表したことで、論争はいっそう盛り上がったのです。
 
法律により、電力供給を義務付けられている大手電力会社は、中立機関である「電力広域的運営推進機関」(電力広域機関)が定めている指針に基づいて、基幹送電線を運用しています。
 
電力会社の都合を優先して、運用を調整できない仕組みになっています。運用ルール(運用基準)では、電力需給の最も厳しい状況を想定して、送電線の1回線が切断されて使えなくなっても、もう1回線の送電線に切り替えて供給できるよう定めています。
 
送電線の容量の50%は常時空けておくのがルールなのですね。一般的には空き容量が大きすぎるように思われるかもしれませんが、ストックが効かない電力の特性故で、現行ルールでは利用率50%が最大で、「半分空いている」と見るのは誤解です。
 

安定供給のために50%の空き容量が必要

空き容量は、夏場のピーク時などに電力使用量が最大となる時間帯でも、安定供給のためには50%の空き容量確保が必要です。結果として、使用量が少なくなる夜間などは空き容量は当然拡大します。
 
また、ピーク時以外でも、定期検査などで発電を停止している発電所が再稼働する時に備えて、空き容量を確保しておくことも必要です。
 
安定供給確保上の必要から、平均的には送電線の利用率は大幅に減少します。電力の流れ(潮流)が最も大きくなる「最大潮流時」に合わせて、空き容量を計算しますから、季節によっては電力会社の基幹送電線の平均利用率が20〜30%にとどまっていることがあり、このことをとらえて、「送電線はガラガラ」だと評価するのは間違いです。最大でも50%なのです。
 
再生エネルギー開発を進める、一部の事業者からは「平均利用率が低く、がら空きなのに、『空き容量ゼロ』を理由に接続を断られた」あるいは「容量増設の負担金を求められた」などの批判や不満があり、マスコミにもしばしば取り上げられています。
 
これに対し監督官庁の経産省は、これらの批判に対し「ピーク時に送電線が切断された場合、十分な予備力がないと停電のリスクが高まる」「最大潮流に対する最大利用率で評価すべきで、平均利用率で評価するのは意味がない」と反論しています。
 
とはいっても、実際の通常時の潮流を見ると、空き時間帯があるのも事実です。そこで、経産省は再生エネルギー発電事業者に一定の条件を付けて接続条件を緩和し、空き容量の活用策を充実させる方針で検討を進めています。
 

太陽光発電事業の2つの問題

「送電線空き容量」問題と関連する話題を2つ紹介します。1つは、太陽光発電事業の「認定失効」問題、もう1つは太陽光発電事業者の「倒産増大」です。
 
認定失効とは、「再生可能エネルギー固定価格買取制度」(FIT)が導入された12年度時点で、発電事業との認定を受けた案件のうち、その後、一定期間に電力会社との送電系統接続ができずに実現できなかった案件で、認定を取り消されたされたもののことです。
 
2017年3月末では、全認定量は7900万kW・984万件でしたが、昨年末の段階で認定失効し、事業化できない案件が1610万kW・27万件に達していることが判明しました。
 
太陽光のほかにも、風力発電が38万kW・710件、地熱発電が4000kW・21件、中小水力発電が14万kW・21件、バイオマス発電が95万kW・82件などとなっています。認定失効、多いですね。
 
なぜでしょうか? それは「ずさんな計画」にあると思われます。電力会社の引き取り価格が高い段階で、早く認定を受けようとする「駆け込み事業者」が多く、電力会社との「接続要件を満たせない」案件が多発したのです。
 
背景には民主党政権下で、再生エネルギー拡大を優先した経産省側にも問題があります。ずさんな計画を黙認してしまったのです。
 
例えば太陽光発電を例にとると、FIT制度スタート時点の発電価格は1kWh当たり40円でした。これで20年間電力会社が引き取ってくれるのです。
 
ところが、その後太陽光パネルなどの原材料費は値下がりを続け現在は1kWh当たりの原価は20円切る水準にまで下がっています。
 
ですから40円の高価格帯で事業認定を受けた事業者は、材料価格の値下がりを待てば、法外な利ザヤを稼げる仕組みになっているのです。事業化を急がない事業者が出てくるのも必定です。
 
でも問題があります。高価格の太陽光発電の電気を引き取った電力会社は、通常料金との差額分を「賦課金」として消費者から徴収しています。高額な負担金は最終的には消費者に回されているのです。
 
一部事業者の懐を肥やすだけの「未稼働案件」を、政府は早く一掃してほしいものです。
 
もう1つの倒産問題ですが、東京商工リサーチの調査によると、太陽光関連事業者の2017年の倒産件数が、過去最多の88件に達しました。前年に比べて35.4%の増加で、2000年に統計を取り始めた以降で最多を記録したのです。
 
負債総額は285億円強(約18%増)となり、4年連続で前年を上回っているそうです。失効問題にも見られるように、未稼働案件が増加し、太陽光バブルがはじけたのが原因ではないかとみられています。
 
太陽光関連事業は市場参入の壁が低く、さまざまな業種からの参入があいついできましたが、買取価格が年々低下するなかで、認定失効条件も厳しくなり、また労働力確保も困難になるなど、太陽光ビジネスに陰りが見え始め市場から撤退する事業者も出てきています。
 
市場競争の激化により、電気を売らずに発電会社を売る事業者が出始めています。これからの再生可能エネルギービジネスはどのようになっていくのでしょうか。先行きが心配です。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト

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