更新日: 2019.01.11 その他

身近な電気の話㉘ 仕事をするエネルギー(熱の落差)

執筆者 : 藤森禮一郎

身近な電気の話㉘ 仕事をするエネルギー(熱の落差)
水の落差エネルギーを、電気エネルギーに変換するのが水力発電だと前回お話ししました。

落差が大きいほど、水量が豊かなほど質のよいエネルギー(エクセルギー)が得られ、発電所の電出力は大きくなります。

今回紹介すのは火力発電です。石炭、天然ガスなど化石燃料の「化学エネルギー」をさまざまな熱変換プロセスを経て「電気(電力)エネルギー」に変換します。そのなかでの注目ポイントは、熱エネルギーを伝える仕事師の燃焼ガスや蒸気など作動流体の「熱の落差」です。

藤森禮一郎

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

火力発電には4つの種類

1500~1600℃の高温の燃焼ガスが環境温度(海水温)に下がるまでの間、作動流体の燃焼ガスや蒸気が熱エネルギーを、ほかのエネルギーに伝える仕事をして、最終的に電気エネルギーに変換してくれます。
 
ですから仕事のフィールドである温度差(熱落差)が大きいほど、作動流体は有効エネルギーを取り出すことができるので、発電所は高出力の電気を得られます。
 
火力発電では、高温高質の熱エネルギーを効率的に取り出すことが、省エネルギーになるのです。
 
火力発電には(1)汽力発電、(2)ガスタービン発電、(3)コンバインドサイクル発電、(4)内燃力発電、の大きく4つの種類があります。電気事業用としては汽力発電とコンバインドサイクル発電が主流ですが、いまは天然ガス(LNG)を燃料とするコンバインドサイクル発電が多くなっています。
 
ガスタービン発電と内燃力発電は、非常用電源や自家用発電設備として広く利用されています。汽力発電の燃料は石油、石炭、天然ガス、プロパン、バイオマスなどさまざまあります。
 

火力発電で電気エネルギーをつくり出すプロセス

火力発電は化石燃料の持っている「化学エネルギーを電気エネルギーに変換」するシステムです。そのプロセスを汽力発電で具体的に見てみましょう。
 
化石燃料が持っているのは「化学エネルギー」です。これをボイラーやタービンで燃焼(酸化)すると、燃焼ガスや蒸気など「作動流体」に熱エネルギーを与えます。
 
次に熱エネルギーをもらった作動流体がガスタービンや蒸気タービンを回転させて仕事をすると、熱エネルギーを機械エネルギー(力学的エネルギー)に変換します。
 
そして最後に、タービンに連動している発電機が回転すると機械エネルギーは電気エネルギーに変換されるというわけです。複雑なプロセスを経て電気はできているのですね。
 
汽力発電プロセスを図式化するとエネルギーの流れは、(化学エネルギー)⇒(熱エネルギー)⇒(機械(力学的)エネルギー)⇒(電気エネルギー)の順に変換していきます。
 
温度が高い高質な仕事をするエネルギー(エクセルギー)は仕事を終えると最終的に環境温度(海水温だと約20℃)に戻り、仕事をしない無効エネルギーになります。
 
問題は温度です。汽力発電ではボイラーの燃焼温度は1000~1300℃で、これで500~600℃の高温・高圧の蒸気(作動流体)を作り、タービン発電機を回転させて発電しています。もっと蒸気温度を上げればと思いますが、ボイラーや蒸気タービンの材質強度などからこれ以上の向上は困難です。
 
この従来型発電方式では熱効率は40~45%止まりです。
 
諸外国に比べわが国の発電所の熱効率は十分に高いのですが、資源に乏しい国として、新技術として開発実用化された「コンバインドサイクル(CC)発電」です。ガスタービン発電と汽力発電を組み合わせた、複合式発電方式です。
 
燃焼ガスを直接利用するガスタービン発電によって、高温域の熱エネルギーを活用することで熱効率を向上させています。
 

発電熱効率の高いコンバインドサイクル(CC)発電

ガスタービン発電は、ジェットエンジンより1回りも2回りも大きいガスタービンで発電機を回し発電します。燃焼ガスを直接タービンに吹き付けて発電しますから、蒸気ボイラーはありません。でも発電後のタービン排熱温度が約900℃ありますから、高温排ガスで蒸気をつくり汽力発電で利用します。
 
温度エネルギーのカスケード利用、あるいは多段利用と呼んでいます。CC発電により発電熱効率は飛躍的に向上しました。
 
CC発電の性能は、タービンに吹き付ける燃焼ガスの入り口温度で表示されます。CC発電が登場した初期は1000~1100℃でしたが、その後の技術の進歩により、現在は1500~1600℃にまで向上しています。
 
その結果、タービン入り口ガス温度が1500℃級の発電所だと熱効率は約60%に達しています。
 
熱効率が40%から60%への上昇したことにより、経済性が向上したことはもちろんですが、燃料消費量の削減により温暖化の原因物質であるCO2の排出量削減にも大きく貢献しています。
 
まさにCC発電は低炭素化時代の火力発電方式ですね。
 
このほか、わが国では石炭をガス化して燃料にする新しい形のコンバインドサイクル発電も実用化されつつあります。石炭ガス化複合発電(IGCC)ですでに実用化されています。
 

一般家庭に普及する「ヒートポンプ技術」

発電の世界では1500℃から環境温度まで、高温熱エネルギー高度利用が進められていますが、私たちの日常生活のなかでは、これほどの高温エネルギーは必要とされていません。民生用ではせいぜい「100℃前後の低温領域の熱エネルギー」です。
 
以前お話しましたが、物質の全エネルギーに占める、仕事をする有効エネルギー(エクセルギー)の割合を「エクセルギー率」と呼んでいますが、これはエネルギー効率利用を図るものさしです。
 
例えば、電気のエクセルギー率は100です。電圧が変わってもロスはありませんし100%ほかのエネルギーに変換できますが、熱エネルギーはエクセルギーが異なり、例えば100℃以下の温水だと1以下です。
 
つまり99%は仕事をしない無効エネルギーなのです。ですから、化学エネルギーを熱エネルギーに変換して利用することは、実は無駄が多いのです。エクセルギー的にはモッタイナイですね。
 
でも、心配はいりません。「ヒートポンプ技術」あります。「電気で作動する熱汲み上(下)げポンプ」を使って、環境中に無尽蔵に存在する無効エネルギーを汲み上げて、使うことができます。
 
最近のヒートポンプシステムは、ポンプに投入する電気エネルギー量より多くの熱エネルギーを、汲み上げることができるようになりました。十分経済的なヒートポンプ式の冷暖房機器が実用化されています。
 
この魔法のような技術ヒートポンプはビルの空調システム、家庭の冷蔵庫、冷凍庫、洗濯機から食料品のチルド輸送、野菜などの低温高湿度貯蔵などさまざまな分野で、すでに利用されています。
 
技術の進歩により、ヒートポンプのエネルギー変換効率(COP投入エネルギーと利用可能エネルギーの比率)が年々向上しています。
 
家庭用のエアコンのCOPは4~5です。投入電気エネルギーの4~5倍の熱エネルギーを取り出せるのです。ですから、例えば発電熱効率が50%の火力発電所の電気を使って、COP4の性能のエアコンを使うと、熱効率としては200%と同じ効果があります。
 
都市ガスを利用した、コージェネレーションシステムも注目されています。1台の機械で、熱エネルギーと電気エネルギーの両方を供給するシステムですが、熱効率は最高でも70%です。
 
熱力学的に100%を超える熱効率ということはありません。発電所の電気+ヒートポンプ温熱のほうが、エネルギーの有効利用という点では優れているのかもしれません。
 

進歩する熱利用技術

エネルギー関連技術は日々進歩しています。技術の進歩は、消費者に新たな選択肢を提供してくれます。
 
低炭素社会を前にして、私たちは熱利用における「賢い選択」が求められているのですね。水の落差と熱の落差を大きくして、熱エネルギー利用を最大化することが、省エネルギーにつながるのです。
 
エネルギーを消費するとは、有効エネルギーで仕事をして、無効エネルギーに変換することです。ほかのエネルギーに比べ、熱エネルギーの賞味期限は短いのです。
 
冷めてしまえば無効エネルギーとなるものは、身のまわりに無限にあります。その無効エネルギーからも、有効エネルギーを取り出せる技術が登場してきました。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト