更新日: 2019.01.10 その他

『あなたやご両親も対象かも?』 長年連れ添ったご夫婦でないと利用できない制度とは?

『あなたやご両親も対象かも?』 長年連れ添ったご夫婦でないと利用できない制度とは?
皆さん『おしどり』と聞いて何が思い浮かぶでしょうか。おそらく仲睦まじい夫婦の姿を思い描く人が多いのではないでしょうか。生前贈与の一つに「おしどり贈与」と呼ばれているものがあります。今回はこのおしどり贈与について、制度の仕組みや注意点などを見ていきましょう。
小沼鮎子

Text:小沼鮎子(こぬま あゆこ)

ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者

大学を卒業後、大手証券会社に就職。約10年間、個人のお客様への資産コンサルティング業務に主に携わる。勤務中に、資産コンサルティング業務の延長線上に、ファイナンシャルプランナーという仕事があることを知り、お客様に寄り添ったコンサルティングができることに共感し、資格を取得。アメリカでは資産管理の一生涯のパートナーとして時には金融に詳しいお茶飲み友達として身近な存在であるファイナンシャルプランナーという仕事を、日本でも普及させたいという志を持って一般の方への情報発信をしている。

福島えみ子

監修:福島えみ子(ふくしま えみこ)

CFP(R)認定者

1級ファイナンシャル・プランニング技能士
マネーディアセオリー株式会社 代表取締役
リュクスセオリーFPサロン 代表
大学卒業後、都市銀行に入行。複数の銀行、法律事務所勤務中に、人生の悩みは結局のところお金と密接に関係することを痛感、人生をより幸せで豊かにするお手伝いがしたいとファイナンシャルプランナーに。FP会社にて勤務後、独立。これまで500件以上の個人相談を担当すると共に、セミナー、執筆と幅広く活動。相続・資産運用・住宅相談・リタイヤメントプラン等を得意とし、個人相談にも力を入れる一方で、セミナーや企業研修、執筆を通じてわかりやすくお金の知識を発信することに注力している。

http://mdtheory.co.jp/

おしどり贈与とは

おしどり贈与とは、婚姻期間20年を過ぎたご夫婦の間で居住用財産(土地・建物ともに対象)または居住用財産を取得する資金を贈与した場合、2000万円まで贈与税が非課税になるという制度です。これは同一配偶者で一度しか利用することができません(※注1)。
 
また、これとは別に贈与税の基礎控除が1年につき110万円ありますので、この制度を利用すれば、年間で最大2110万円までの贈与は非課税で行えることになります。ただし、この金額を超える分には贈与税がかかりますのでご注意ください。ではこの制度のメリットや注意点を考えてみましょう。
 

利用する上でのメリットは?

メリットはなんといっても、配偶者に非課税で自宅、または自宅の購入資金を贈与することができるということです。おしどり贈与は生前贈与になりますので、相続と違い名義の書き換えや諸々の手続きをする際に、本人がしっかりと見届けられ、安心感が大きいことが魅力です。
 
配偶者の場合、自宅の土地や建物は相続の際に取得するケースも多いことでしょう。しかし、世の中では『争続』という言葉が聞かれるように、スムーズに遺産分割が進むとは言い切れません。そこで、この制度を利用して生前に本人がしっかり見届けられるうちに、配偶者に不動産を贈与してしまうというのは、税金の軽減だけではない相続対策として挙げられます。
 
また、相続時には3年以内に贈与された財産は相続財産に加えなければならない、という規定がありますが、このおしどり贈与で取得した財産は、相続財産に加算する必要がないのもメリットといえるでしょう。
 

利用する際の注意点。相続税の節税対策としては?

おしどり贈与はあくまで、税法上の贈与になります。そのため、相続で不動産を取得した場合と比較して、不動産の名義書換時の登録免許税の税率が高くなる点や不動産取得税の課税対象になってしまう点に注意が必要です。
 


 
一方、相続で不動産を取得する際は、配偶者の税額軽減や、小規模宅地等の特例などを利用できるケースがあります。このことから、相続税の節税の観点だけで考えると、配偶者が自宅を相続で取得する場合と比べて、一概に生前に非課税で贈与することが有利とはいえません。
 
では、おしどり贈与を利用するメリットが大きいのは具体的にどういった場合があるでしょうか? 例として、自分の死後も配偶者の老後までの住まいを、確実に守ってあげたいときがあります。子どもがいなくて義理の親との相続になる場合や、子どもがいても不仲だったりして、遺留分の主張や遺産分割で折り合わないなどで、不動産を売却したり共有にしたりせざるを得ないケースも考えられるからです。
 
このような場合でもこのおしどり贈与なら、例え余命宣告を受けたなど相続が間近に予想されるときでも、3年以内の贈与の加算なく不動産を贈与できます。
 
また、将来、要支援・要介護の状態ではなく自分が元気なうちに有料老人ホームに入っておきたいなどで、相続時に小規模宅地等の特例の要件を満たさないことがあらかじめわかっているケースも、場合によってはメリットがあります(この場合でも、贈与する自宅は、贈与の翌年3月15日までに配偶者が実際に住み、引き続き住む予定であること、という要件は満たしておくことに注意してください)。
 
そのほか、なんといっても、税金面やコスト面にかかわらず、配偶者に自宅を譲り渡すことによって、長年の感謝の気持ちを伝えたい場合もあることでしょう。いずれの場合でも、税金やコスト面からは、それぞれの事情に応じてメリット・デメリットを考慮すべきであるため、節税目的で活用を検討になる場合は、税理士などの専門家に相談したうえで実行されることをお勧めします。
 
婚姻期間20年という、長年連れ添ったご夫婦でないと利用できないおしどり贈与。メリットや注意点を考慮したうえで、大切な配偶者に結婚20年の記念として、この制度を活用することを検討してみてもよいかもしれません。
※注1
詳細な適用要件などにつきましては、国税庁のHP『夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除』をご覧ください。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/zoyo/4452.htm
 
Text:小沼 鮎子(こぬま あゆこ)
ファイナンシャルプランナー CFP(R)認定者

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