更新日: 2020.05.15 その他

会社から持株会の話を持ち掛けられたが、どうしたらいい?そもそも持ち株会ってなに?

会社から持株会の話を持ち掛けられたが、どうしたらいい?そもそも持ち株会ってなに?
会社に勤めている人なら「従業員持株会」の存在は知っていると思います。持株会とは、自分の会社の株を従業員に買ってもらう制度です。上場企業によっては、拠出額の数%を会社が援助するというような仕組みもあります。

手軽に資産運用ができるということでメリットもありそうな持株会ですが、実際はどうなのでしょうか。
小泉大輔

執筆者:小泉大輔(こいずみ だいすけ)

株式会社オーナーズブレイン 代表取締役

公認会計士・税理士
1970年東京都生まれ。上智大学経済学部卒業後、公認会計士となり、朝日監査法人(現在:あずさ監査法人)で監査実務、及び、M&A,株式上場支援に携わる。
2003年に、独立し、(株)オーナーズブレインを立ち上げ、現在は代表取締役であるとともに、2社の上場会社の役員も兼任する。共著著書に『コーポレート・ガバナンス報告書 分析と実務』2007年4月(共著、中央経済社)』DVD『できるビジネスマンDVD+財務諸表チェックのキモ』 200年7月(創己塾出版)がある。
http://ownersbrain.com/

日本の持株会が盛り上がらない原因は説明不足にあり

現状として、日本の持株会はあまり盛り上がっていません。持株会は会社側が安定株主を確保する、会社への参加意識を高めるなどの目的があります。
 
しかし、持株会に参加している従業員の意識は財形目的にとどまり、会社への参加意識を強く感じる人が増えたとはいえないようです。
 
盛り上がらない原因として、会社が制度について十分な説明をしていないため、内容が分かりづらいこと。さらに、いざという時にお金を引き出せない点、手続きが面倒な点などが挙げられます。
 
それに加え、最も重要なのは、株主の一員となる持株会参加者に対して、会社が株主としての当事者意識の醸成するための工夫をしていないことが大きな原因と思われます。

拠出額は毎月数万円がオーソドックス

持株会に参加した場合、いくらほど拠出すればいいのでしょうか。持株会の拠出は給与から天引きされるのが一般的です。その場合、毎月一定の金額を拠出して、その会社の株を買うことになります。
 
日本証券業協会の定める「持株制度に関するガイドライン」には、1回の拠出額は、100万円未満と定められており、従業員の負担が大きくなりすぎないように、会社の方で上限を定めるのが一般的です。
 
これに対して、従業員の方は、会社が決めた枠の中で金額を決められます。毎月拠出するとなるとそれなりの出費になるので、毎月数万円にする人が多い傾向です。

持株会に参加するメリット。株価が上がれば資産が増える

○会社への参加意識が強い人には良い
会社が大きくなることで株価が上がり、自分へと還元されるので、仕事に対するやる気と会社への参加意識が高まります。ただ、日本ではまだ「参加意識」と言えるほど、持株会による連帯感は感じられていないようです。
 
○株を持っていると会社の情報を開示してもらえたり、持株会参加者が集える場(コミッティー)が機能していれば提言できたりする
持株会の理事長は、株を持っている従業員全体へ、会社の情報など説明する義務があります。しかし、理事長でその情報が止まってしまい、従業員へと伝わってこない会社も多いようです。
しっかり持株会参加者が集える場(コミッティー)が機能している会社であれば、会社についての色々な情報を得ることができます。
 
○株価が上がれば、資産が増えていく
業績が上がり、株価が上がれば、株を買った分だけ資産となります。自分の会社が大きくなり、さらに、資産も増えれば一石二鳥です。

持株会に参加するデメリット。非上場企業の場合は注意が必要

・株式未公開の場合は売却するときの株価に注意
 
上場企業の場合は、株が市場で売買されているので、株価を把握することが可能ですし、また、市場で、売却することもできます。
 
しかし、未上場の会社ですと、株価をリアルタイムに把握することは難しく、また、売却の場は限られます。そのため、特に未上場の会社の持株会では、退会時に株式をどのような条件で買い取ってもらえるのか、特に、買い取ってもらう価格(株を取得した際の価格なのか、時価で買い取ってもらえるのか)など入会する前に確認が必要です。

・配当金の確定申告に注意
配当金の確定申告について、上場会社と未上場会社では取扱いは、異なります。
 
上場会社の持株会の配当金については、確定申告をせずに源泉徴収によって納税を終える方が多いかと思いますが、ご自身の所得の状況次第では、確定申告することよって、税金を取り戻せる方もいらっしゃるので、事前に会社または、税理士などの専門家に確認されるとよいでしょう。
 
また、未上場の持株会の配当金については、誤って理解されている方も多いようなので注意が必要です。まず、税務署に収める国税である所得税に関しては、1回の配当金が10万円以内ならば源泉徴収のみで済ませて、確定申告をしないことも可能です(少額配当による確定申告不要制度)。
 
ただし、ご自身の所得の状況によっては、確定申告した方が有利となる場合もありますので、こちらも、事前に会社または、税理士などの専門家に確認されるとよいでしょう。
 
ただし、地方税である住民税については、申告不要の制度がないので、金額に関係なく、必ず申告が必要になってきますので、未上場の会社で配当を受け取った場合には、留意する必要があります。
 
ここで興味深いデータを紹介いたします。金融庁が公表している「家計金融資産の現状分析」によると、各国の家計金融資産構成比率(2015年末データ)は、以下のようになっています。
 
米国は8514兆円 現金・預金が13.7% 株式・投信を合わせると45.4%、
英国は1072兆円 現金・預金が24.4% 株式・投信を合わせると35.7%、
日本は1740兆円 現金・預金が51.9% 株式・投信を合わせると18.8%。

参考URL:金融庁
http://www.fsa.go.jp/singi/kakei/siryou/20170203/03.pdf

上記の数字が示す通り、米国と英国は現金・預金よりも株式・投信の割合が高いのに対して、日本は株式・投信よりも現金・預金が多くの割合を占めています。比較すると日本がいかに現預金優位であるかが分かるかと思います。
 
そして、この各国による株式所有の比率の違いに見られるように、従業員が所有する株式についても違いがみられます。日本では、あまりまだ知られていないようですが、実は、米国や英国では、従業員が創業者と一緒に株式を保有する従業員コーオウンド・ビジネスというモデルが確かな潮流となっています。
 
興味深いのは、コーオウンド・ビジネスにおける従業員株主には、当事者意識が醸成され、通常の会社よりも、生産性も高く、業績が高いという実証データがあるところです。米国、英国と日本を比較すると、リスクマネーに対して、日本人は、消極的で、リスクが低いものを好む傾向にあり、投資に対するマインドの違い、民族性の問題だという意見もあります。
 
ただ、それ以上に重要なのは、米国、英国では、企業側が、従業員株主に対して、当事者意識の醸成するために様々な仕組や、工夫がなされていることが、日本の持株会と大きく違うところではないと思います。
 
このような中、最近では、政府はこの日本の現預金優位の状況を変えるために、「NISA」などの新たな税制優遇制度がスタートされましたが、企業側が、従業員株主に対して、当事者意識の醸成するための工夫をし、持株会を活性化することも重要なのではないでしょうか。

どうせ株を買うなら自分の会社の方が安心なことも

会社のビジョンが明確で、情報がオープンで信頼できる会社であれば、持株会に入ることはおすすめです。従業員としてだけでなく、従業員株主としての意識も持って、より積極的に参画すれば、会社の価値は高まります。
 
もし、そうでないならば、持株会への参加は、リスクとなりうることを頭に入れておく必要があります。
 
共感・共鳴できるビジョン、理念がある会社は、そうでない会社と比べて、長期的には企業価値が高いというデータもあります。そのような会社であれば、外部の会社の株を買うよりも、自分の会社の株を買う方がパフォーマンスが高いといえるでしょう。
 
実際に業務を肌で感じて、会社の動きを見極めて、持株会に入るかどうか検討してみてください。
 
Text:小泉 大輔 (株式会社オーナーズブレイン 代表取締役 / 公認会計士・税理士)


 

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