更新日: 2020.05.20 その他
同一労働、同一賃金で暮らしはどう変わる?
それは、少子高齢化による人口減少、働き手不足が生じているからではないでしょうか。そこで国は、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選ぶことができるように「働き方改革」を提示し、労働基準法を改正しました。
その中の一つが「同一労働同一賃金」(※1)です。大企業は2020年4月1日から施行、中小企業は2021年4月1日から施行となっています。
執筆者:上山由紀子(うえやま ゆきこ)
1級ファイナンシャルプランニング技能士 CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士 CFP®認定者 鹿児島県出身 現在は宮崎県に在住 独立系ファイナンシャル・プランナーです。
企業理念は「地域密着型、宮崎の人の役にたつ活動を行い、宮崎の人を支援すること」 着物も着れるFPです。
同一労働同一賃金の目的は?
「同一労働同一賃金」が定められた目的は、同じ事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者・派遣労働者との間にある、不合理な待遇の相違、差別的な取り扱いの解消をめざすことです(※1)。
本来は、賃金などの待遇は労働者と使用者の話し合いで決められるのが基本です。
しかし日本では、基本給をはじめ、賃金制度の決まり方にはさまざまな要素が多く、欧州と比較すると大きな待遇の相違があります。政府は欧州の制度の実態も参考にして検証した結果、「同一労働同一賃金」の考え方を計画的に構築していくとしています。
パートタイム労働者の賃金は、フルタイムで働く人の賃金を100%とすると、欧州では7割から9割となっていますが、日本は56.6%と随分低くなっています(【図1】参照)。政府はこの欧州諸国に劣らない水準をめざすとしています。
【図1】
(※2)より引用
また、総務省の労働力調査(令和元年)(※3)によると、非正規雇用の総数は、労働者の約4割にもなっており、年々増加しています。いかに非正規雇用で働く人の数が多いのかが分かります。
【図2】
(※3)より引用
この非正規雇用の人たちの賃金が上がらなければ、モチベーションも上がらないでしょう。長い目で見れば、日本の経済も発展していかないでしょうし、生産性を向上させることも難しくなります。
今まさに、「働き方改革」として働き方に変化を起こし、多様な働き方で皆が生き生きと働けるような社会を作らなくてはなりません。基盤づくりがなされることで、働き手を増やして、国民一体となって日本の経済をよくしていく必要があると考えます。
「同一労働同一賃金」の具体例
それでは、「同一労働同一賃金」の内容について、具体的に見ていきましょう。
1.基本給
労働者の能力や経験に応じて支払うもの、業績・成果に応じて支払うもの、勤続年数に応じて支払うものなど、それぞれの実態に違いがなければ、正社員と非正規雇用労働者に同一の基本給を支給、違いがあれば違いに応じて支給しなければなりません。
例えば、同じ仕事をして、正社員と非正規雇用労働者でどちらも責任を負うようなことがない場合は同一の賃金を支払うこととなります。なお、同じ仕事をしていても正社員が全体の責任者で責任を負うことがあれば、賃金は違ってきます(昇給も同じ)。
問題となる例としては、ある会社の規定で労働者の勤続年数に応じて支給しているとした場合、期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者である人に対して、通算した勤続年数の評価では支給せず、契約年数で評価して支給していることは問題とされます。
2.賞与(ボーナス)
会社の業績などへの労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の賞与を支給、違いがあれば違いに応じた賞与の支給を行わなければなりません。同一の貢献があったにもかかわらず、正社員のみに賞与が支給されるようなことは問題とされます。
3.各種手当
役職手当については、同一の内容の役職であれば、所定労働時間に違いがあるなどの場合でない限り、正社員と非正規雇用労働者に同一の役職手当を支給、違いがあれば違いに応じた支給を行うことになります。
そのほかの手当については、(※1)
特殊作業手当、特殊勤務手当、精皆勤手当、時間外労働手当の割増率、深夜・休日労働手当の割増率、通勤手当・出張旅費、食事手当、単身赴任手当、地域手当などは同一の支給を行わなければなりません。
4.福利厚生・教育訓練
食堂、休憩室、更衣室などの福利厚生施設の利用、転勤の有無などの要件が同一の場合の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障については、正社員と非正規雇用労働者に同一の利用・付与を行わなければなりません。
今まで、食堂などの福利厚生施設を利用できなかった非正規雇用労働者にとっては、リラックスできる場所が確保できることで精神的に安定して仕事ができるようになると思います。
病気休職については、無期雇用の短時間労働者には正社員と同一の、有期雇用労働者にも労働契約が終了するまでの期間を踏まえて同一の付与を行います。
なお、法定外の有給休暇・その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く)といった、勤続期間に応じて認めているものについては、同一の勤続期間であれば同一の付与を行わなければなりません。特に有期労働契約を更新している場合には、当初の契約期間から通算して勤続期間を評価する必要があります。
また、現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施する教育訓練については、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施を行わなければなりません。
以上のように、働く人の能力や経験に応じて決められるものや、同じ仕事でも責任を負う人と負わない人では、支払われるものも違ってきます。もし、あなたが非正規雇用労働者であっても、責任のある仕事に就いたら賃金も上がるということになります。
「同一労働同一賃金」で考えられる影響は?
同一労働同一賃金が適応されると、実際にはどのような影響が考えられるでしょうか。
例えば、派遣社員の方に交通費が支給されれば、派遣先を選ぶ範囲も広がります。また、企業側が賃金などについて見直しをし、今まで付いていなかった手当が非正規雇用労働者にも付くようになると、少しは家計の助けになるでしょう。
仮にひと月6000円の精皆勤手当が支給されるようになったならば、年間では7万2000円にもなります。
しかしながら、もし、勤めている会社が資金的に余裕のない会社だったら、派遣社員の契約を解除することもあるかもしれません。そうなると働き場所を失うことにもなります。会社としては人手不足になる可能性もあります。
また、パートで働く主婦に正社員と同じ責任を求めるのであれば、子どもが小さい家庭などでは、家庭環境などが整い、会社にも協力的に動いてもらわなくては難しいのではないでしょうか。
本来であれば、女性も責任ある仕事に就いて前に出るべきだと私は考えています。働く女性に対してどんなことを実行したら、女性が生き生きと働く職場になるのか、会社として考えるべきでしょう。
今回の「同一労働同一賃金」で賃金が上がる人、現状維持の人、または下がる人も出てくるかと思います。個々の働き方で生活も変わるでしょうし、同じ非正規雇用労働者でも格差が生じることもあると思います。
雇う側、雇われる側、お互いの立場を明確にして、上手く話を進める必要も感じます。
まとめ
日本では、バブル崩壊やリーマンショックで日本の経済が悪化するたび、企業がリストラなどで人件費をカットし、非正規雇用労働者を増やしてきました。
現在では、いろんな面で格差が起きており、この格差を縮める手立てを打たなくてはなりません。その一つが「同一労働同一賃金」なのです。
今の日本は「少子高齢化」が進み、働き手が少ない中、政府は働き手を増やすためにいろいろな施策を出してきます。今回の「同一労働同一賃金」だけでなく、雇われる側の人がいかにいきいきと多様な働き方ができるかをトータルで考えていく必要があるでしょう。
しかし、現状を見ると余裕のある会社は少ないかもしれません。新型コロナウイルスの経済への影響を考えてみれば、なおさらです。まずは早くに新型コロナウイルスが終息することを願います。
[出典]
(※1)厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」
(※2)厚生労働省 第2回 同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 厚生労働省提出資料
(※3)総務省統計局「労働力調査(詳細集計)2019年(令和元年)平均(速報)」(令和2年2月14日)
(参考)厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし」
執筆者:上山由紀子
1級ファイナンシャルプランニング技能士 CFP®認定者