更新日: 2020.04.07 その他

家族は帰ってくる見込みのない人を待ち続けて生活しなければならないのでしょうか

執筆者 : 新美昌也

家族は帰ってくる見込みのない人を待ち続けて生活しなければならないのでしょうか
親や配偶者などが行方不明になったとします。家族は、帰ってくる見込みのない人を待ち続けて生活しなければならないのでしょうか。
 
民法では、このようなときに備え、失踪宣告の制度を規定し、不在者を死亡したものとみなしてくれます。失踪宣告を受ければ、家族は不在者の財産を相続したり、再婚して新たな人生をスタートすることもできます。
 
失踪宣告を受けた人が実は生きていた、ということもあります。この場合、受け取った遺産や死亡保険金は返さなければいけないのでしょうか。再婚していた場合はどうなるのでしょうか。
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

失踪宣告とは?

失踪宣告は生死不明の人を死亡したものとみなして、法律関係を確定させるための便宜上の制度です。失踪には特別失踪と普通失踪があります。
 
特別失踪では戦争、船舶の沈没、震災などが原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後、生死が1年間明らかでない場合(危難失踪)、危難が去ったときに死亡したとみなされます。
 
普通失踪では、特別失踪に該当する原因がなく、その生死が7年間明らかでない場合(普通失踪)、7年の期間が満了したときに死亡したとみなされます。
 
失踪宣告がなされると、不在者(失踪者)についての相続が開始されます。また、仮に不在者が婚姻をしていれば、死亡とみなされることにより婚姻関係が解消します。
 
なお、配偶者と離婚したいという場合には、配偶者を被告とする離婚訴訟の手続を行う必要があります。失踪宣告は失踪者の権利能力を奪う制度ではありませんので、失踪者は死亡とみなされている間も有効に法律行為をすることができます。

失踪宣告の手続き

利害関係人にあたる不在者の配偶者、相続人にあたる者、財産管理人、受遺者など(失踪宣告を求めるについての法律上の利害関係を有する者)が、不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所に失踪宣告の申し立てを行います。
 
申し立てには次の書類が必要になります。
 
・申立書
・標準的な申立添付書類
・不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
・不在者の戸籍附票
・失踪を証する資料
・申立人の利害関係を証する資料(親族関係であれば戸籍謄本〈全部事項証明書〉)

 
申し立て後、申立人や不在者の親族などに対し、家庭裁判所調査官による調査が行われます。その後、裁判所が定めた期間内(3ヶ月以上。危難失踪の場合は1ヶ月以上)に、不在者は生存の届出、不在者の生存を知っている人はその届出をするように、官報や裁判所の掲示板で催告をします。そして期間内に届出などがなかったときに失踪の宣告がされます。
 
申立人には、戸籍法による届出義務がありますので、審判が確定してから10日以内に市区町村役場に失踪の届出をしなければなりません。
 
失踪宣告に必要な費用は以下のとおりです。
・収入印紙800円分
・連絡用の郵便切手
・官報公告4816円(失踪に関する届出の催告3053円および失踪宣告1763円の合計額)

失踪宣告後、本人が帰ってきた場合

失踪宣告後、本人が帰ってきた場合、失踪宣告取り消しの申し立てができます。失踪宣告の取り消しによって、消滅した身分関係は復活し、失踪宣告を原因として開始した相続により取得した財産は、原則として返還しなければなりません。
 
しかし、得た利益すべてではなく「現に利益を受けている限度」で返還すれば足りる、とされています。したがって、金銭を全額浪費した場合は現存利益がないので返還する必要がありません。
 
一方、金銭を生活費に充てた場合には、その分の生活費が浮いたので現存利益はあると考えられ全額返還しなければならないとされています。
 
また、失踪宣告後取り消し前に当事者双方が「善意」でなされた行為は有効とされています。 ここでいう「善意」とは、失踪者の生きていることを知らなかったことをいいます。知っているときは「悪意」といいます。
 
例えば、失踪宣告で相続した親の土地を売った場合、売主も買主も「善意」であれば売買契約は有効ですので、失踪宣告が取り消されても土地は戻ってきません。
 
再婚している場合、失踪宣告後に再婚した当事者双方が「善意」であれば、失踪宣告が取り消されても前の婚姻関係は復活しないとされています。つまり、再婚は有効です。
 
一方、悪意の配偶者が再婚した場合、前婚は復活し重婚状態になり、前婚は離婚原因に後婚は取り消し原因になります。
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。

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