更新日: 2020.03.04 その他
新型コロナウイルスの影響で企業が休業する場合の助成金実態
単に、感染した(かもしれない)労働者を休ませるだけでは対応できない企業もあるでしょう。今回は、事業所を休業する場合の助成金についてお話しいたします。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
会社が休業するってとんでもない?
会社が休業する場合には、「雇用調整助成金」という助成金が雇用保険から支給されます。といってもこの助成金は、これまでは景気の悪化や震災の際などに、事業活動を縮小した企業が活用してきた助成金です。会社を休業させざるを得ない、けれどその間、労働者の雇用を継続させるというのはとても大変なことです。
前回のコラムでもお話ししましたが「事業主の責による休業」の場合には、休業手当の支払いが必要となります。その場合の休業手当は、通常の給料の6割相当額を支払う必要があります。4割も減額するということであれば、他の会社への転職を考える労働者がいるかもしれません。
ただ、会社としては、仕事に慣れている労働者を手放したくない、一から労働者の教育訓練をしたくないという思いもあるでしょう。会社が景気縮小によって休業を考える、それは起こるべくして起こることなのです。
景気はいつも良いとは限りません。どんなときにも企業活動を継続していけるよう、いったん休業して、再開に備える、それも戦略でしょう。
誰が対象?
感染症により会社が休業する場合に、この助成金が支給されるのは初めてです。では、どんな会社が対象となるのでしょう。対象となる事業主は以下です。
<対象となる事業主>
日本・中国間の人の往来の急減により影響を受ける事業主であって、中国(人)関係の売上高や客数、件数が全売上高等の一定割合以上(10%)以上である事業主が対象です。
■「影響を受ける」事業主の例
・中国人観光客の宿泊がなくなった旅館・ホテル
・中国からのツアーがキャンセルとなった観光バス会社等
・中国向けツアーの取り扱いができなくなった旅行会社
(※出所:厚生労働省ホームページ)
ポイントは、売上高です。申請の際には、売上高が確認できる書類の添付が必要です。前年度または直近1年間の事業実績により、売上高の減少が判断されます。もう1つのポイントが雇用指標です。
通常の雇用調整助成金では、前年と比較して、雇用保険の被保険者や受け入れている派遣労働者の雇用量が、一定程度増加していると対象ではありませんでしたが、この要件は撤廃されます。
どんな休業をすれば良い?
雇用調整助成金は、労働者を休業させた場合に支給されますが、実は休業だけではなく、教育訓練や出向を行った場合にも対象となります。
単に休ませるだけではなく、休業している間に、労働者に教育訓練をすることで、加算額が1200円(1人1日あたり)付くのは、事業を再開するときにもプラスに働くでしょう。他に転職しようとしていた労働者を、思いとどまらせることができるかもしれません。では、助成金の流れを説明しましょう。
(※出所:厚生労働省ホームページ)
今回、特例とされているのは、すでに事業の縮小などが始まっている企業もあることから計画届を「事後」でも良いとしている点です。本来は、事前に計画届を提出し、それに沿った休業を行うことが必要です。
しかし今回に限って、令和2年3月31日までに計画届を提出すれば、休業等の前に提出されたものとして取り扱うことになっています。
助成内容は、大企業であれば2分の1、中小企業は3分の2です。この助成金を受け取るためには、事業主が労働基準法に沿った休業手当を労働者に支給して雇用を継続することが条件です。今回、さまざまな企業に影響が出ていますが、過度に神経質にならず、できることをしっかりやるということが大事です。
助成金の支給申請は難しく感じられがちですが、今回の助成金は、計画どおりに休業を行うために最初の計画届の作成が重要です。詳細については、最寄りの労働局などで相談にのってもらえます。正しい情報を取得し、しっかりと利用できるところは利用して、夏に開催されるオリンピックを笑顔で迎えられることを祈念いたします。
(参照)厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例を実施します」
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。