更新日: 2019.11.16 その他

ニュータウンの盛衰 郊外住宅地の空洞化を防げるか

ニュータウンの盛衰 郊外住宅地の空洞化を防げるか
戦後の高度成長期を中心に造られたニュータウンは、いま曲がり角に立たされています。当時に比べ社会構造が大きく変化し、人口減少社会が定着、ニュータウンでの急速な高齢化が進んできたためです。
 
こうした街では、定住者を増やし街の空洞化を防ぐための対策が求められています。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

高度成長期の象徴・ニュータウンの危機

昭和30年代からの高度成長期を迎え、大都市への人口集中が進むにつれ、いわゆる「団地」と呼ばれる集合住宅群の建設が大々的に進みました。
 
都内にある代表的な高島平団地(板橋区)、南砂団地(江東区)、桐ヶ丘団地(北区)だけでなく、近郊ではさらに規模の大きい、多摩ニュータウン(多摩市)、港北ニュータウン(横浜市)、千葉ニュータウン(千葉市)などが続々と誕生しました。
 
関西でも同様で、香里団地(枚方市)、男山団地(八幡市)だけでなく、さらに大規模な千里ニュータウン(豊中市・吹田市)、泉北ニュータウン(堺市・和泉市)などが誕生しました。
 
その中には戸建て住宅もありましたが、多くの人が居住することを可能にした集合住宅が主力です。建設当時は非常に人気が高く、入居するための抽選に当たることも大変でした。
 
高度成長期はまだ住環境の整備が遅れており、機能的な間取りで安い家賃で入居できる住まいへの期待感・満足感がありました。
 
当初は非常に快適な住環境でしたが、さすがに約半世紀を経過すると、建物の老朽化や入居者の高齢化など、多くの問題点が見えてきました。
 
具体的には集合住宅が中心のため、建設当時の間取りでは居住空間が狭い、郊外にあるので都心への通勤時間が長い、丘陵地帯を切り開いたところでは傾斜地が多い、最寄り駅へもバス利用が不可欠で不便、といった理由でしだいに敬遠されつつあります。

遠くの庭付き住宅より近くのマンション

最近では東京オリンピックを控え、高層マンションが東京の湾岸地域など交通の便のよい地域に続々と完成しています。関西地区でも同様です。
 
最近ではローンの金利も安くなっているため、多少は無理をしても都心のマンションに住みたい、と考える若い世代は増えています。東京オリンピック後は、選手村に使われる湾岸地域の施設も、新たな住宅として提供される予定です。
 
一方では少子化が進み、新しい世代の人口自体が減ってきています。住宅供給も過剰気味などの条件も加わり、都心までの距離が遠い、最寄りの駅まで時間がかかる、建物が老朽化している、といった物件から人気がなくなっています。もともと住んでいる住民が転居すると、そこに住民がいなくなる「空洞化現象」が目立ってきました。
 
親の世代が汗水たらして手に入れた庭付きの一軒家ですら、通勤に不便だとの理由で、子ども世代が敬遠するようになってきました。集合住宅だけでなく、広い一軒家でも空き家が目立ちます。
 
若い世代は、土地付きの一軒家への執着はさほどありません。
高齢の親が亡くなる、施設に入居する、といったことを契機に、空き家として放置されるケースが目立ちます。このような空き家が増えると、治安の悪化にもつながります。

築年数が古い建物ほど抜本的対策を

人口減少が進む一方で住宅供給は増えていますから、魅力のない街であればあるほど、転出者が増え転入者が少ない傾向に歯止めがかかりません。
 
実際に歯の抜けたように居住者が減少している古い建物は取り壊し、住み続けることを希望する人には、同様の物件を安く提供し移転してもらう、などの対策が急務です。居住者の同意を得ることの難しさはありますが、古い建物を残したまま街を再生させるには限界があります。
 
半世紀近く前に造られた街のままでは、若い世代には魅力が乏しい街になります。郊外の古い住宅地を、生き生きと再生されるのは容易ではありませんが、空洞化を防ぐ対策は急務です。
 
特に都心への通勤時間も長く、丘陵地帯を切り開いて造成されたニュータウンは、ますます衰退していく可能性があるからです。

空洞化を防ぐ積極的な街づくり

空洞化を防ぐためには、まず若い子育て世代が移住しやすい環境を、もっと整備することです。
 
保育園・幼稚園などの保育環境の整備、公園・遊び場・運動施設・コミュニティスペースの充実、商店街の活性化(美容院、カフェ、洋食レストラン、スポーツジムなど)を行い、女性、特に母親が街づくりを含め各種プランへ気軽に参加できるようにし、その要望を実現していくことが不可欠です。
 
さらに同じコミュニティ内で、住み替えを可能にする仕組みをつくることです。駅からの距離が遠い、坂が多い地区に住んでいる高齢者を、同じ地域内の駅や商店街の近くへ住み替えられる仕組みをつくります。
 
広い戸建てから、機能的なマンションへの住み替えをとくに推進します。これにより高齢者も安心して住める環境が整備できます。
 
例えば、千葉県の「ユーカリが丘」地区では、この地域を開発した会社を中心に、この取り組みにかなり成功しています。高齢者が転居し空いた住居は、リノベーションを行い比較的安い価格で若い世代に提供します。
 
最近は在宅勤務中心の子育て世代も増えており、都心から遠くても広い家のニーズがあるからです。また、スーパーやコンビニの閉店、バス路線の廃止を防ぐ努力が大切になります。
 
事業者はコスト計算を重視しており、採算に合わないと撤退する傾向にあります。撤退に歯止めをかけるためにも、各事業者との話し合いを継続的に行い、住民サイドで事業者に協力できることは実行すべきです。
 
それでも事業者が撤退する場合は、移動販売車の実現や小型のコミュニティ・バスの運行などを、地域住民が行政機関と協力して行動する努力も必要です。
 
地域住民、各事業者、行政機関の連携したネットワークがあれば、街が衰退しそうな事態にも対応が可能です。これが不十分でできない場合は、ますます街が衰退していきます。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト

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