更新日: 2019.09.24 その他
わが家は対象? 大学無償化(高等教育無償化制度)について学ぼう
「高等教育無償化制度」関連法が先の通常国会で成立しましたので、今回は、この制度について詳しく解説します。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
目次
「高等教育無償化制度」とはどのような制度でしょうか
「高等教育無償化制度」とは、意欲と能力のある若者が経済的理由により進学を断念することがないように、国の施策として「授業料および入学金の減免制度」と「給付型奨学金の支給」を組み合わせた制度です。2020年度の在学生(大学等に進学する学生およびすでに入学している学生)を対象として新たに創設されました。
対象となる学校は、下表の通り大学や専修学校等になりますが、現在、国による確認作業が行われており、9月中旬頃に対象となる学校が公表される予定です。
対象となる低所得世帯の学生とは
この制度を利用できる学生は、学力基準と家計基準を満たす必要があります。
1.学力基準
学生は、申込時点で次のいずれかに該当する必要があります。
(1) 高等学校等における全履修科目の評定平均値が、5段階評価で3.5以上であること
(2) (1)に該当しない場合は、将来、社会で自立し、および活躍する目標をもって、進学しようとする大学等における学修意欲を有すること
2.家計基準(収入基準・資産基準)
次の「収入基準」および「資産基準」のいずれにも該当する住民税非課税世帯に準ずる世帯となります。
2-1収入基準
【第1区分】学生と生計維持者の市町村民税所得割が非課税であること(注1)
【第2区分】学生と生計維持者の支給額算定基準額(注2)の合計が100円以上2万5600円未満であること
【第3区分】学生と生計維持者の支給額算定基準額の合計が2万5600円以上5万1300円未満であること
(注1) ふるさと納税、住宅ローン控除等の税額控除を受けている場合、各区分に該当しない場合があります。
(注2) 支給額算定基準額=課税標準額×6%-(調整控除額+調整額)(100円未満切り捨て)
家計基準を満たす年収の目安は、下表の通り家族構成により異なりますので、日本学生支援機構が提供する「進学資金シミュレーター」(※3)を利用して、該当するかどうか調べることをお勧めします。
《収入・所得の上限額の目安》
2-2資産基準
資産基準を満たすためには、学生と生計維持者(2人)の資産の合計が2000万円未満(生計維持者が1人の場合は1250万円未満)であることが必要です。資産とは、現金やこれに準ずるもの(投資用資産として保有する金・銀等、預貯金、有価証券の合計額を指し、土地等の不動産を除く)を言います。なお、資産に関する証明書の提出は不要です。
そして、区分Ⅰの学生には、後述する授業料等の減免額と給付型の奨学金の給付額が満額支給されますが、区分Ⅱの学生は満額の3分の2、区分Ⅲの学生は満額の3分の1の支援を受けることができます。
なお、住民税非課税世帯に準じる世帯とはならず給付型の奨学金が利用できなくても、貸与型の奨学金は利用することができます。
対象となる大学等の授業料および入学金が減免されます
「高等教育無償化制度」の一環として採用された「授業料および入学金の減免制度」は、2020年度の在学生(進学する学生およびすでに入学している学生)を対象に新たに創設される制度です。減免される入学金と授業料(年額)の額は、進路と収入基準に応じて下表の通りとなります。
返還不要の給付型奨学金が充実されます
独立行政法人日本学生支援機構が提供する奨学金は、卒業後に借入金を返還する貸与型と返還義務のない給付型がありますが、2020年度からは「高等教育無償化制度」の一環として「給付型の奨学金」が充実されます。
2019年度までは、高校等に推薦枠が定められていましたが、2020年度からは低所得者の子供であって、進学意欲と学習意欲がある者全てが対象となります。その給付型奨学金の月額は、進路、通学形態および収入基準に応じて下表の通りとなります。
今後のスケジュールと注意点は
「高等教育無償化制度」を利用するためには、日本学生支援機構に対して給付型奨学金の予約採用の申し込みを行うことから始まります。
給付型奨学金の予約採用の申し込みは、下図の通り在学している高等学校等で必要書類を入手した後に、日本学生支援機構の申込専用サイトである「スカラネット」(※4)を通じて行います。
なお、給付型奨学金の給付が受けられる学生は、「授業料および入学金の減免」も受けられますが、その手続きは進学先の大学等で行うことになります。
ところで、この制度を利用して進学した学生には、その学習状況について毎年以下の内容で適格認定が行われ、これに満たない場合は支援が打ち切られますので十分に注意してください。
(1) 人物について: 生活の全般を通じて態度・行動が給付奨学生にふさわしく、修学の目的及び将来の展望を持っており、将来良識ある社会人として活動し、将来的に社会に貢献する人物となる見込みがあること。
(2) 学業について: 修業年限で確実に卒業又は修了できる見込みがあること。
(3) 経済状況について: 修学を継続するために引き続き給付奨学金の支給が必要と認められること。
また、外国籍の人は、次のいずれかに該当する人がこの制度を利用することができます。
(1) 法定特別永住者
(2) 在留資格が、「永住者」、「日本人の配偶者等」または「永住者の配偶者等」である人
(3) 在留資格が「定住者」であって、将来永住する意思がある人
まとめ
2020年度から始まる「高等教育無償化制度」は、低所得世帯の子供でも進学意欲と修学意欲のある者には、授業料および入学金の減免と給付型奨学金により国が経済的支援を行って、社会で自立し、活躍することができる人材を育成する制度です。
例えば、国公立の大学に自宅から4年間通学した場合と私立の大学に自宅外から4年間通学した場合、総額で収入基準ごとに下表の額が給付されることになります。
したがって、該当する世帯は、この制度を利用して子供の夢をかなえると良いでしょう。
引用・出典
(※1)文部科学省 「高等教育の修学支援新制度」
(※2)日本学生支援機構 「奨学金の制度(給付型)」
(※3)日本学生支援機構 「進学資金シミュレーター」
(※4)日本学生支援機構 「スカラネット」
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表・CFP(R)認定者、社会保険労務士