最終更新日: 2019.01.11 公開日: 2018.05.18
暮らし

身近な電気の話 ㉞スイスに見る原子力発電所の再稼働

日本の原子力界の気象は、桜の開花予想のようにはいきませんね。九州電力の玄海原子力発電所3号機が3月末、3年7カ月ぶりに運転を再開しました。
 
徐々に出力を上昇させ、ゴールデンウイーク前には営業運転に入れる段取りで準備していましたが、出力上昇中に2次系配管から蒸気漏れが見つかったため、現在は発電を中断し対応策を検討しています。再稼働したのに満開には至っていません。
 
配管蒸気漏れにより、やっぱり原発は危ないんだとの意見もあるかとも思いますが、長期間停止していた発電所では、火力の場合でも配管の不具合は生じやすいのです。
 
2次系配管なので周辺環境への放射能漏れの心配はありません。良かったですね。

藤森禮一郎

Text:

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

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藤森禮一郎

執筆者:

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

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再稼働は、いばらの道か

東京電力・福島第一原子力発電所事故後、原子力規制員会が新規制基準に適合していると判断して、再稼働に至った原子炉はこの玄海3号のほかに四国電力伊方3号機、関西電力高浜原子力3、4号機、大飯原子力3号機、九州電力川内原子力1、2号機があり、全部で5発電所7基となりました。
 
100万kW級の原発1基が稼働すると、年間で350〜630億円の燃料コストの削減効果があり、CO2の排出量も年間で260〜490万トンの削減効果が期待できます。
 
政府としては地球温暖化を防ぐゼロエミッション電源として、原発の活用を期待しているのですが、再稼働原発は1割強ですから道半ばです。
 
全体の動きはどうなっているのでしょうか。わが国の商業用原子力発電所の数は、震災前は57基でしたが、事故後43基にまで減少しました。
 
福島第一原発の事故廃炉、当初計画通りの計画廃炉、新基準の「40年規制」廃炉など、全部で14基が廃炉処分されました。
 
残る36基は未稼働です。うち7基は規制員会の適合審査を終えて、最終的な工事認可手続きの段階です。地元の了解が得られれば再稼働に向かいます。もう少し時間がかかりそうです。
 
原子力規制委員会で新基準適合審査中のものが12基あります。しかし残る17基は、適合審査に必要な準備を進めている段階で未申請の状態です。見通しがついていないですね。
 
政府は世界一厳しい規制基準を制定して、すべての原発の審査をやり直し、新規制基準に適合した原発だけを再稼働させていますが、現在の審査状況からはすべての原子炉が再稼働することができるのか見通せません。今はいばらの道です。
 
2014年に策定した政府のエネルギー基本計画では、2030年の電源バランスで全発電電力量の20〜22%を原子力発電で賄う目標を立てていますが、目標達成のためには少なくとも30基の再稼働が必要といわれます。
 
少なくとも年間5基程度の再稼働ペースでいかないと、目標達成には黄色信号です。
 
原発いらない派の人たちには望ましい状態かも知れませんが、80%以上の電力を火力発電に依存するのは、コスト面からもCO2排出抑制の観点からも、エネルギー政策としては極めて危険な状態です。
 
一刻も早いゼロエミッションに向けたエネルギー政策の確立が求められます。
 

現実的なエネルギー政策を

関西電力や九州電力など原子力が再稼働している電力会社は、経営状態が好転し電気料金の引き下げも可能になってきています。消費者にとっては朗報です。
 
また、火力発電の減少に伴いCO2の排出量も削減されています。原子力と太陽光、風力など再生可能エネルギーとが相まって、脱温暖化電源の定着に向けた好循環が実現しつつあります。
 
しかし、原子力の安全性に対する不信感は、事故から7年を経た今も、国民の間には根強く残っています。その分、再生可能エネルギーへの期待は大きいのですが、現実の問題として再生可能エネルギーだけでは、原子力の削減分を埋め合わせることはできません。
 
火力依存が続けばCO2削減の道が厳しいことも、理解されつつあります。
 
エネルギー世論は原子力依存度を可能な限り減少させ、再生可能エネルギーを可能な限り拡大するという、現実的な選択に向かいつつあるのではないでしょうか。妥当なことだろうと思います。
 

スイスの選択 世界最古の原発を再稼働

欧州にも似たような動きが出てきています。スイスの事例を紹介しましょう。
 
同国の原発運営会社アクスポ社によると、世界最古の商業用原子力発電所、ベツナウ原子力発電所1号機が、3年にわたる補修工事を終えて、このほど運転を再開しました。
 
ドイツとの国境に近い北部アールガウ州に位置するベツナウ原発は、1969年に1号機が稼働を開始しました、出力36.5万kWの加圧型軽水炉(PWR)2基を持つ発電所です。
 
アクスポ社によると、地震や洪水に対する強度を向上するための工事や技術インフラ改良のために、2015年3月に2基とも運転を停止していました。運転再開について、AFP通信はアクス社の話として「今後60年間稼働するために必要な安全要件をすべて満たしている」と伝えています。
 

福島事故後に、原発廃止を選択

スイスでは2011年の福島第一事故後、原発の安全性についての議論が高まり、電源構成に関する国民投票が行われました。その結果、原発を段階的に閉鎖し再生可能エネルギーの比率を高めるべき、との票が約60%を占めました。
 
これを受け、スイスでは原発の新設が禁止され、2018年以降は段階的に閉鎖する具体的な計画を策定することを決めています。欧州では、ドイツが2029年までに段階的に廃止することをすでに決定しており、スイスが2番目となります。
 

理想論では済まない電源の選択

スイスにはベツナウ発電所のほか、ミューレベルク、ゲスゲン、ライブシュタットの3発電所があります。電源構成は水力が50%、次いで原発が約33%、残りの大半は火力やバイオマスです。
 
風力や太陽光は1%未満です。アルプスの山がありますから、水力発電が豊富なのは当然ですが、観光立国でもあるから風力や太陽光の適地が少ないようです。
 
政府は4原発の段階的な閉鎖を計画しているものの、具体的な時期は明らかにしていません。このため、今回のベツナウ発電所の運転再開は、関係者が大いに注目していました。反対の抗議もあるようです。
 
スイスは、原発を廃止しても欧州電力市場から電源を調達することは可能です。しかし、中立国スイスとしては原子力に代わる自主電源の具体的な手当てがつかないと、安心して原発廃止には踏み切れないエネルギー安全保障上の懸念があるのでしょう。
 
参考になるスイスの選択です。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト



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