最終更新日: 2019.01.11 公開日: 2018.05.08
暮らし

身近な電気の話 ㉟ガスvs電力 忘れ去られた効率化の視点

都市ガスが全面自由化されて1年が経ちました。ガス自由化は「西高東低」だといわれてきましたが、経済産業省のまとめたデータでも、その実態が裏付けられています。
 
1月末現在のデータを見てみましょう。供給先を変更した「他社スイッチング」の申込件数は全国で約61万件に達し、スイッチング率は2.4%でした。
 
もう1つの数字を見てみましょう。小売り全面自由化に伴い、需要家が新たに創設された料金メニューを選択した結果、東京ガスや大阪ガスなどの指定供給区域内で、自社内で規制料金から自由料金に変更したのは全国累計で約99万件、6.8%に達しています。
 
この2つの数字からは、自由化効果は出ている、といえるのではないかと思います。
藤森禮一郎

Text:

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

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藤森禮一郎

執筆者:

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

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スイッチングは都会中心

では地域別のスイッチング件数を見てみましょう。関東が15万件、中部・北陸が約10万件、近畿が約31万件となっており、地域別では近畿がダントツで全体の約50%を占めています。
 
電気の激戦区は関東ですが、ガスは近畿なのですね。家庭用に限定して供給区域別の新規参入状況を見てみましょう。
 
新規参入があった供給区域は全体の約10%ですが、販売量ベースで見るとわずか10%の地域が全体の78%を占めています。
 
スイッチングが激しいのは東京・中部・近畿の3大都市圏だけで、地方はさほどでもありません。供給先の変更にあまり関心を示していないようです。
 

中小事業者に厳しい市場参入

自由化後の小売事業者登録を強いている登録済者は、1月末現在で51社にのぼっています。このうち新たに一般家庭への供給は51社です。
 
事業者は東京、中部、関西など電力6社、日本瓦斯、東日本ガス、新日本ガスなど旧一般ガス事業者(越境販売も含む)など6社、LPガス事業者7社、旧大口ガス事業者など20社となっています。これは登録者数です。
 
昨年10月に販売実績のあった新規参入者は47社ありますが、販売規模が月1千万平方メートル以上の大口契約をとっている事業者は、JXTGエネルギー、東京電力エナジーパートナー、関西電力、石油資源開発、国際石油開発、東京ガスガスエンジニアリングソリューションズの6社で、全体の販売電力量の約9割を占めています。
 
件数では家庭用が多いのですが、販売量では今のところ商業用、工業用が中心にスイッチングが進んでいるということでしょう。別な見方をすれば、家庭用をめぐる競争はこれからだと思います。
 
原料となる天然ガスの手当ても含め、新規参入者の都市ガス供給体制はまだ十分整っていないのです。
 

大手ガス、電力が提携し東ガス包囲網

近畿のエネルギー市場では、関西電力と大阪ガスががっぷりと四つに組んで市場争奪戦を展開していますが、関東の首都圏では東京電力の家庭用への参入が遅れていることもあって、初年度は穏やか状況が続いています。しかし、激戦はこれから本格化します。
 
関東のスイッチングは30万件ですが、東京ガスの顧客件数1100万件から見ると3%弱です。東京ガスが頑張っているとも見えますが、嵐の前の静けさと見ることもできます。大阪ガスは大手電力と越境アライアンスを組み、東京ガス包囲網を強めているのです。
 
先頭を切って首都圏での小売市場に参入したのは、関東が拠点の日本瓦斯(ニチガス)です。東京電力エナジーパートナー(東電EP)と手を組み攻勢をかけています。同社は、自社及び傘下の卸元を東京ガスから東電EPに変更しました。
 
ニチガスグループは、東ガスの規制料金より重量部分を5%安くするとともに、ビットコイン割引など新たなサービスを提供し顧客数を伸ばしています。
 
また、東電EPも少し遅れて昨年7月から本格的に市場参入し、東京ガスよりも3%安く料金を設定、顧客を伸ばしています。当面は利益率の高い業務用分野を中心にガス販売を強化していくことにしています。
 
ただ、東電グループは都市ガス製造に必要な「熱量調整設備」を保有していないので、これが参入障壁になっているのです。そこで、東電F&Pの品川火力発電所内に、東京進出を狙っている大阪ガスなどと協同でアライアンスを組み、扇島都市ガスを設立して燃料調整設備を建設しています。
 
これが完成すると家庭用分野への本格参入が始まります。
 
東電系にはもう1つ、東京エナジーアライアンスがあります。イーレックス、HTBエナジー、レモンガス、JXTGエネルギーなど新規参入を目論む主要企業が扇島都市ガスを設立し、包囲網を形成しています。
 
包囲網はこれだけではありません。近畿圏で大量に顧客を奪われた大阪ガスは、大手電力と手を組んで首都圏進出を準備しています。
 

複雑な相関図

あれ? と思いますが、大阪ガスは右手で東電EP、JXTG(石油大手)など東電系と手を組み、都市ガス販売の拠点を整備していますが、もう一方の左手では中部電力とも組みました。
 
両社はこのほど共同出資でCDエナジーダイレクトを設立、首都圏でのガス&電気の販売で協力し合うことになりました。大阪ガスは東京ガスのライバルですが、同時に東電のガス販売会社・東電EPのライバル会社でもあります。関係は複雑です。
 
こうして見てくると、首都圏のエネルギー市場は東京電力グループ、中部電力、関西電力の電力3社と、東京ガス、大阪ガスの大手事業者同士が複雑なアライアンスを組んで、市場争奪戦を展開しています。
 
消費者を置き去りにした競争にならなければよいのですが。今のところ商業用ガス、工業用ガスが主戦場ですが、徐々に家庭用ガスに広がりつつあります。
 
こうしたなか、気になるのが天然ガスの価格動向です。国際市場では値上がりが続いています。ガス価格の値上がりは、ガス小売りだけでなく電力小売りの自由化にも影響します。
 
電力自由化市場で新規参入者が価格引き下げの原資にしてきた低価格電源は、ほぼ出尽くしてしまいました。したがってこれからは、天然ガス価格の値上がりがダイレクトに響いてきます。これに加えて原発再稼働の影響も出てきそうです。
 

招かれざる客 再稼働原発?

これは地域によっても状況が異なりますが、高浜原発に加え大飯原発で合計4基の原発が再稼働する関西電力は、再稼働が順調に進めば相当規模の「電気料金引き下げ」原資を手に入れます。同社はすでに料金引き下げの意向を表明しています。
 
近畿圏での関西電力と大阪ガスの顧客争奪戦は、電力、ガスとも熾烈になりそうです。このことが首都圏市場にも影響してくるのは間違いありません。電力の新規参入者にとって、原発再稼働は招かれざる客なのかもしれませんね。
 
2020年には電力会社の送配電部門が「法的分離」されます。発送配電を含めた一貫会社の、旧一般電気事業者の経営形態はがらりと変わります。発電、送配電、小売り営業など部門別に再編成されます。
 
そのころには都市ガスの供給体制も整いますので、大手電力・ガス事業者同士の供給杭域を超えたエネルギー市場争奪戦は、いっそう厳しくなりそうです。
 
消費者からは、競争の激化によって選択肢が増え価格が引き下げられれば、競争のメリットは大きくなると思いますが、もう一歩踏み込んで考えると喜んでばかりはいられません。
 
というのも、これまで日本の省エネ活動をリードしてきた「電力対ガスのエネルギー利用効率向上競争」が姿を消しつつあることです。
 

姿を消してしまうのか、効率化競争

電力とガスが直接ぶつかり合う「熱エネルギー分野」では、電力会社もガス会社もそれぞれ「ガス&エレクトリック」会社に姿を変えて、販売量の争奪戦に移行しつつあります。効率化の推進は二の次です。
 
価格引き下げは販売量の増加につながります。競争が激化すると、自由化のデメリットが出てくるのではと心配ですね。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト

  



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