更新日: 2019.01.11 その他

身近な電気の話 ㊱太陽の恵みを上手に使う

執筆者 : 藤森禮一郎

身近な電気の話 ㊱太陽の恵みを上手に使う
新緑が深みを増し、太陽がまぶしい季節になりました。これで梅雨が明ければ太陽光発電が元気になる季節がやってきます。
 
無尽蔵の太陽エネルギーを電気に変えてくれます。ご存じのように太陽光発電は、運転中に地球温暖化の原因物質である二酸化炭素(CO2)を排出しないので「脱炭素電源」として大きな期待を集めています。
藤森禮一郎

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

異常です! 火力発電に8割以上を依存

福島事故以降、いまだ多くの原子力発電が運転を停止したままです。事故前は、全電力の30%近くを原子力で賄っていましたから、原子力の抜けた穴は大きいです。その穴を埋めているのが火力発電です。
 
ですから、現状ではわが国の消費電力量の80%以上を火力発電に依存しています。
 
火力発電は実績のある安定電源ですが、電力需給という点では片発飛行です。加えて火力発電は大量のCO2を排出するのが難点です。政府は2030年には、火力依存度を50%程度にまで引き下げたい、と再生可能エネルギーの拡大に期待を寄せているのですが……。
 

火力を再生エネルギーで代替

再生エネルギーの導入拡大策の1つとして、政府は2012年、再生可能エネルギー「固定価格買取制度」(FIT)を導入しました。国が認定した再生エネルギー事業者の電力を、電力会社に20年間にわたり定額で引き取らせる仕組みです。
 
スタート当初は、通常価格の2倍以上の高価格で引き取ってくれるとして、空前の太陽光ブームが巻き起こりました。
 
しかしふたを開けてみると、経産省の調べでは、事業認定を受けた発電設備容量は8877万kWですが、すでに運転を始めている設備容量は3366万kWです。運転開始にこぎつけた設備は認定量の4割にとどまっています。
 
その9割以上が太陽光で、風力やバイオマスはこれからの電源状態です。再生可能エネルギー導入は、現時点では太陽光偏重になっています。
 

再生エネルギーはまだ5%未満

再生エネルギーの電気は、電力消費量全体で見るとまだわずか4%程度です。水力発電を入れても12〜13%で、主力電源たり得ていません。まだまだ実力不足なのです。風力発電の導入が遅れていることや、太陽光発電の大量導入に伴う諸課題が未解決のまま残されているからです。
 
天気しだいの気まぐれ発電という点では、太陽光も風力も共通ですが、太陽光のほうがより個性が強いのですね。そうでしょ、晴天の日の昼間しか発電しないのですから、どんなに晴れていても、日が沈むと同時に発電を停止してしまいます。それも急ブレーキを踏むように一気に停止です。
 
家庭では夕方から電力需要が増えてくるのですから、困ったものです。あとを任せられる交代の電源が必要なのです。風力は雨天の日でも夜間でも発電してくれますが、無風状態や嵐のときは発電しませんから、やはり交代電源(バックアップ)が必要なのは同じです。
 

バックアップなしで主力になるには

太陽光発電には、欠点を補ってくれる対策が必要なのです。いつも火力発電のバックアップに頼っていては主力電源にはなれません。そこで検討されているのが「電力貯蔵システム」との組み合わせです。方法はいくつもあります。
 
①事業者、あるいは家庭で蓄電池を設置する。
②再エネの電気を地域で広域的に活用し、電力会社とも協調し需要と供給のバランスを保つ。
③大規模な発電事業については「揚水発電」を活用する。
④再生エネルギーの電気を使って「水素燃料」を製造する。
などです。
 
太陽光、風力、バイオマスなどの再生エネルギー電力と、地場産業とを組み合わせた「地産地消型再エネプロジェクト」が地方で立ち上げられていますが、電力自由化の新しい流れとして地域活性化策としても注目です。
 

電力の大手・東電と通信の大手・NTTが手を組む

再生エネルギー拡大の受け皿を創ろう、という新たな動きが最近ありました。東京電力ホールディングス(HD)とNTTは4月18日、共同出資会社「TNクロス」を7月にも設立し、新規事業に乗り出すと発表しました。
 
NTTの通信施設にある非常用蓄電池を使い、太陽光など再生可能エネルギーで作った電力を余剰時に一時的に預かるサービスを提供使用というのです。
 
NTTは首都圏の東電管内だけでも約1200カ所の通信施設を持っていて、施設内には停電時にも通信施設が稼働できるように蓄電池を備えています。
 
今は鉛電池を使っていますが、2030年をめどに、同じ大きさでより多くの電力を貯められるリチウムイオン電池に切り替えることにしており、その際、蓄電容量が増えた分を東電との新規事業の基盤として活用したいというのです。
 

余剰電力のお預かりサービスに乗り出す

余剰電力を一時的に預かる事業は、太陽光や風力電気事業者向けサービスで、銀行の普通預金口座の電力版のイメージです。
 
天気が良い昼間に発電機の生産が需要を上回った場合にはNTT施設で蓄電し、需要が多い時間帯に放電すれば、再生エネルギーを無駄なく使えるというわけです。
 
非常用蓄電池をネットワーク化して停電時供給サービスが実現できれば、個々のビルや病院などで非常用電源を持つ必要がなくなるわけですから、非常用電池の広域的利用は注目のサービスです。
 

直流電力の供給サービスも

新規事業はこのほか、直流電気の供給サービスも検討しているそうです。家庭などで使われている電気は交流(AC)ですが、オフィスなどで使用しているコンピューターやパソコンなどは、交流の電気を直流(DC)に変換して使っています。
 
そこで、蓄電池で貯蔵している直流の電気をそのまま近隣のビルに供給すれば、交直返還の手間が省けて省エネになるというわけです。NTTは直流の電気を最も大量に使っている事業者です。
 
電力は生産と消費が同時に行われる特殊な商品です。需要と供給のミスマッチを埋める方法の具体化が再生エネルギー普及のカギを握っています。
 
各家庭にあっては電気自動車の蓄電池を活用する、電気温水器を活用するなどの方法も検討されています。AI(人工知能)やICT(情報通信)が進歩して、再生エネルギー電源の特性を生かした、新たなサービスが登場してくることを期待したいですね。
 

夏場のやりくりが大変

太陽光発電の設備容量が増えてくると、電力需要が年間の最大に達する夏場の電力需給対策に変化が出てきました。太陽光発電は夏のピーク時にフル運転してくれるので、供給力増加という点ではありがたいのですが、最近新たな問題が顕在化してきました。2つあります。
 
1つは夕暮れ時です。真っ赤な太陽が西方に沈むと同時に、元気だった太陽光発電は出を急速に落としていきます。でもエアコン需要は夜になっても減りません。家庭では照明需要も増えていきます。
 
ですから太陽光依存度が大きいほど、電力需給の「夕暮れショック」は大きいのです。太陽光に代わって火力発電が準備をしなくてはいけません。
 
ところが、太陽光発電の出力下降スピードと火力発電の出力上昇スピードがうまく噛み合わないのです。ズレを放置すれば電圧や周波数が不安定になり、系統事故の原因になってしまいます。
 
そんなときのお助けマンが揚水発電です。太陽光から火力への、滑らかな切り替えの手伝いをしてくれます。揚水発電のもともとの役割は、需要が最大になる昼間の電力を供給することですが、そんなことはいっていられません。
 
本来なら下池の水をポンプアップする準備の時間ですが、夕暮れ時にもうひと踏ん張りです。
 

実際、こんな事態が発生しました

太陽光発電の導入量が増えると、思わぬ事態が発生するものです。昨年7月、九州電力管内で経験したことです。7月の蒸し暑い時期です。
 
その日は、太陽光発電が朝から元気でしたので、いくつかの火力発電の運転を停止し、バックアップ用の火力も出力をぎりぎりまで低下させるアイドリング運転状態にしていたのですが、それでも太陽光発電の出力がドンドン上昇してしまったのです。
 
需給バランスを保つため、太陽光発電の出力停止を要請すると同時に、九州電力は緊急の需要創出対策を講じました。揚水発電の出番でした。
 
夏のピーク時間帯に揚水発電機を水車として使い、下池の水を上池にポンプアップさせたのです。数万kWの負荷創出です。複数台の揚水発電機がある場合は、半数を発電に使い残りの半数で負荷創出をする、変則同時運転の事態もあるそうです。
 
政府のエネルギー基本計画では2030年時点の「電源ミックス」で、現在5%未満の再生可能エネルギーの比率を22〜24%にまで引き上げて、逆に火力発電比率を50%程度に引き下げたいとしています。
 
原子力発電の再稼働が遅れている状況では、再生エネルギーに対する期待は高まる一方ですが、事業認定された設備のうち運転開始したのは4割弱に過ぎません。とても心配です。再生エネルギー目標達成のためには、民間企業の知恵と活力が必要です。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト

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