更新日: 2019.01.11 その他

身近な電気の話㉖ 今はガマンを強要しない「快適で無理しない省エネ」が主流

執筆者 : 藤森禮一郎

身近な電気の話㉖ 今はガマンを強要しない「快適で無理しない省エネ」が主流
日本のエネルギー利用の在り方を考えると、①再生可能エネルギーの積極的な活用と②「省エネルギー」のいっそうの推進、この2つが大きなテーマになってきます。

そこで今回は、どうしたら省エネルギーを効率的に進められるのか、「仕事するエネルギー」と「仕事をしないエネルギー」という視点で考えてみることにします。

藤森禮一郎

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

「エネルギーは使っても減らない」は本当?

皆さんは学校で「エネルギー保存の法則」を教えてもらいましたね。覚えていますか。思い出してください、自然界では「エネルギーは使っても減らない」と学びました。
 
えっ本当なの? だって私たち日常生活のなかで、絶えずエネルギーを消費しています。省エネルギーを進めるには「エネルギー消費を抑制しなくては」と真剣に考えてきました。政府のエネルギー需給計画を見ても「省エネ効果は石油換算で何万キロリットル」の「削減効果あります」などと説明しています。
 
エネルギーは消費しても減らない、って本当なのですか? 減る?減らない? どうなっているのか、私たちのエネルギー消費生活、視点を変えて見てみましょう。
 
「エネルギーを消費」すると聞いて思い浮かべるのは、身近にある3つのエネルギーです。
 
①電気エネルギー、②化学エネルギー、③熱エネルギーの3つです。石油・石炭や天然ガスなど化石燃料エネルギーが抜けていると思う人もいるかもしれませんが、化石燃料エネルギーは、実は化学エネルギーなのです。
 
化石燃料は石油や石炭、天然ガスに含まれている炭素と水素が酸化(化学反応)により、熱エネルギーと二酸化炭酸(CO2)と水(水蒸気)に変化しているのです。化石燃料の持つエネルギーが、熱エネルギーに変化したのです。
 
熱エネルギーに変化する際に副産物としてCO2と水(水蒸気)を排出しているのです。私たちの家庭では多くの場合、水を媒体として利用し熱エネルギーを利用しているのです。多くのプロセスを経て、電気エネルギーに変換するのが火力発電所です。
 

化石燃料のエネルギーはあっという間に無効エネルギーに

水素分子と酸素分子がくっついた水(H2O)は、とても便利な物質です。温度や気圧などの条件によって、状態を変化させます。
 
あるときは①気体に、またあるときは②流体に、そして③固体(氷)にと状態を変化させて熱エネルギーを伝達してくれます。ガスコンロでお湯を沸かすときは、液体で熱伝導の役割を果たします。ガス燃料を燃焼させて、ヤカンに入っている水をお湯に変えます。利用できる最高温度は100℃です。液体で最も効率的にエネルギーを使える温度条件です。
 
日常の生活では、次のようなことを経験的に知っています。沸騰させたお湯も放っておけば、時間とともに温度が下がり常温になります。常温になった水はエネルギーとして役に立ちません。どんなに大量にあっても仕事をしない「無効エネルギー」になってしまいます。
 
化石燃料の有効エネルギーが転換されたエネルギーは、熱いうちに消費しないと、あっという間に役に立たない「無効エネルギー」となってしまいます。お湯を沸かすなど「仕事をするエネルギー」のことを専門用語で「エクセルギー」と呼びます。このエクセルギーをほかのエネルギーに転換することを、私たちはエネルギーを消費するといっているのですね。
 
100℃の水は料理や暖房などに役立ちます。少し低い40℃でも入浴に使えます。でも常温(環境温度)にまで冷めてしまうと、温度は残っていても役立たないので、有効エネルギーはなくなり無効エネルギーになってしまいます。便利な熱エネルギーですが、ほかのエネルギーに比べ有効エネルギー(エクセルギー)がとても少ないのです。
 

有効エネルギーの率が大きいほど、高品質で高効率なエネルギー

物質が本来内包している総エネルギーのうち、有効エネルギー(エクセルギー)の占める割合を「エクセルギー率」といいます。
 
エネルギーごとに率が決まっています。エクセルギー率の数値が大きいほど「高品質で高効率なエネルギー」ということになります。先ほどの3つのエネルギーをエクセルギー率で見ると、①電気エネルギー(エクセルギー率1.00)、②化学エネルギー(同0.95)、③熱エネルギー(同0.1以下)の順になります。
 
100℃以下の熱エネルギーのエクセルギー率は0.1以下なのです。化石燃料エネルギーを燃焼させて40℃のお湯に変えると、エクセルギー率は0.1以下にしかなりませんから、化石燃料としてはエネルギーの95%以上無効エネルギーとして捨ててしまう計算になります。モッタイナイですね。
 

では、電気はどうでしょう

すべてのエクセルギーが仕事をする、エクセルギー率1.00の電気はどうでしょうか。
 
確かにエクセルギー率は高いのですが、しかし残念ながら、電気を生産する過程でロスがあります。エクセルギーの面から見ると、最新鋭の火力発電所だと、①化石燃料を特別な方法で燃焼し、②1500℃以上の超高音高圧蒸気を作り、③多段式のタービン発電機で発電すると、温度エネルギーの約60%を有効エネルギーとして取り出すことができます。これが電気エネルギーです。
 
一度電気エネルギーに変換してしまうと、電気エネルギーはエクセルギー率100%ですから、高品質エネルギーとしてさまざまな分野で活用できます。利用する段階で電圧を変えても無効エネルギーは発生しません。これが電気エネルギーのメリットです。
 

家庭で使用するエネルギーの3~4割は給湯や暖空調

私たちが生活のなかで必要としている熱エネルギーは、給湯の場合でも空調の場合でも100℃以下の熱エネルギーです。
 
有効エネルギーの少ないエネルギーなのです。家庭で使用するエネルギーの3~4割は給湯や暖空調が占めていますから、もし、化石燃料の以外の方法(技術)で効率的に熱エネルギーを手に入れることができれば、大きな省エネルギー効果が期待できます。
 
でも、燃焼に代って熱エネルギーを効率的に入手法などあるのでしょうか。
 
これがあるのです。不思議なエコ技術を私たちはすでに手入れています。身のまわりを見てください。冷蔵庫、冷凍庫、チルド輸送車、家庭のエアコンやビルの空調機器などにすでに使われているヒートポンプシステムこそ、不思議なエコ技術です。なぜでしょう。
 
これまでの科学の常識では、エクセルギー率1.00の電気を使っても、火力発電所の熱効率が100%を超えることはありませんでした。ところが、ヒートポンプシステム技術の飛躍的進歩により、熱エネルギーについては熱効率100%を超えられるのです。
 
例えば、最近のエアコンは100の電気エネルギーを使うと、大気や河川水など環境中の熱エネルギーのなかから、300~400の熱エネルギーを汲み上げてくることができるようになりました。ポンプを回すために使用したエネルギーの3~4倍のエネルギーを汲み上げるということは、熱効率が300~400%に匹敵するということです。
 
発電所での生産プロセスで40%を廃棄してしまい、熱効率が60%で得られた電気でも、熱効率は200~300%まで高められるのです。このようにヒートポンプはエネルギー効率を飛躍的に向上できる可能性をもった、不思議な熱変換システムなのです。欧州(EU)では、ヒートポンプシステムを「再生可能エネルギー」の1つとして評価しています。
 

今はガマンを強要しない「快適な省エネ」「無理しない省エネ」が主流

70年代末の石油危機で始まった、わが国の省エネルギー政策や活動は、エネルギー消量の「節約」が中心でした。銀座のネオンが消えたのは、象徴的な出来事でしたね。
 
オフィスや家庭で暖房温度を下げ、冷房は温度を上げて対応しました。照明は間引かれて、暗い部屋で扇風機を回しながら仕事をしたことを思い出します。ガマンの省エネ生活がしばらく続きました
 
でも、節約やガマンの生活には限界があり、長続きしません。ついついスイッチに手をかけてしまいます。でも今はガマンを強要しない「快適な省エネ」「無理しない省エネ」が主流になりつつあります。その背景には、省エネ技術の目覚ましい進歩や「トップランナー方式」や「リデュース・リユース・リサイクル」の3R政策の浸透など、政府の省エネ政策の広がりと深まりがあります。
 
省エネ家電が次々と登場しています。家電の買い替えが進むとそれが省エネにつながります。電力消費量は目に見えて減っています。LED照明の普及で照明用の電力消費は大幅に削減されました。消費は減ったのに街は明るくなりましたね。
 
工場やオフィスなど産業界での省エネ対策は、すでに大きな成果が出ています。でも家庭や商店など民生分野の省エネ努力は今一歩です。省エネは進んでいますが、それ以上にエネルギー消費量が増えているのです。
 
パリ協定に象徴されるように、これからは節約型の省エネに加えて、地球温暖化に対応した新しい「脱CO2型省エネ」が求められるようになります。その代表技術がLED、EV、ヒートポンプだろうと指摘する専門家多いです。
21世紀は省エネ先進国日本の知恵の見せどころです。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト

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