更新日: 2019.01.11 その他

身近な電気の話。 流木を発電の燃料に!?

執筆者 : 藤森禮一郎

身近な電気の話。 流木を発電の燃料に!?
山林の間伐材や製材所から出てくる木くずなどの木材チップを燃料とする木質バイオマス発電が、再生可能エネルギーの一翼を担う発電方式として注目されています。

政府も地球温暖化を防ぐ発電方式として普及の支援に乗り出しています。
藤森禮一郎

Text:藤森禮一郎(ふじもり れいいちろう)

フリージャーナリスト

中央大学法学部卒。電気新聞入社、電力・原子力・電力自由化など、主としてエネルギー行政を担当。編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。

台風で大量の流木が発生。木質チップを燃料に

 
今年の7月、九州地方を襲った九州北部豪雨では、被災地で大量の流木が発生しました。
あちこちで発生した山の崩落や土砂崩れは、塗料の土砂と流木を住宅街にまで運んできました。
 
濁流を飲み込んだ河川は流木でせき止められ、河川の氾濫や洪水の被害を一層拡大しました。
3か月を経た今も、被害の傷跡はあちこちに残り、復興はこれからです。
 
流出した大量の流木は仮置き場にうず高く積まれ保管されています。
地元自治体にとって大量流木の後始末は悩みの種です。
 
地元の電力会社である九州電力は、自らも配電設備などに大きな被害を受けましたが、被災地支援の一環として、未処理の流木の一部を引き受けることを決めました。
 
火力発電所の燃料として活用しようというのです。
同社の嶺北発電所(熊本市。石炭火力発電所、70万kW×2)で10月から引き取りを始めました。
 
発電所構内で、新たに設置した処理装置で、丸太を数センチ大の木質チップに加工処理し、石炭火力発電所で石炭と混焼させることにしました。
 
嶺北発電所は木質バイオ戦勝の発電所ではありませんが、一部石炭の代わりに木質チップを燃料として混焼するのですね。
 
石炭に比べ木質チップは発熱量が減少するので、発電量もその分減少しますが、専焼発電所を持てない地方の森林組合などからは、石炭混焼バイオ発電は、木質チップの活用策として期待されています。
 

地元の産業廃棄物協会との連携

 
九州北部豪雨で福岡県朝倉市、東峰村、大分県日田市などの河川で発生した流木は、国土交通省の調査によると、およそ20万トンに達しています。
九州電力は流木を回収して保管している福岡県産業廃棄物協会と、最大6万トンを受け入れることでこのほど合意しました。
 
同協会が流木を、破砕機にかけやすい丸太の状態に処理したうえで、嶺北発電所まで海上輸送します。
 
丸太の状態で流木を受け入れた九州電力は、嶺北発電所構内に新たに導入した破砕機を使い直径4~5㎝の木質チップに加工し、主燃料の石炭と混焼します。
 
同社は31年3月まで、毎月2800トンを受け入れる契約です。
 
嶺北発電所はこれまでも天草地域森林組合から年間5000トンの木質チップを受け入れてきた実績があり、この経験を踏まえて今回の流木受け入れを決めたということです。
 
住宅街や農地に散在する流木は東峰村の1次仮置き場から、現在は協会の矢部川浄化センター(福岡県筑後市)の2次仮置き場に移送されているということです。
 
2次置き場からの搬出は当面は九州電力向けが中心ですが、福岡県では他のバイオマス発電所やセメント工場。県内市町村の焼却場等に引き取ってもらう方針です。
 

再生可能エネルギー発電として期待

 
ところで、間伐材や製材の廃材などを木質チップに加工して、ボイラーで燃焼させて発電する木質バイオマス発電は太陽光や風力などと並んで、政府が進める再生可能エネルギー発電の一つで、現行のエネルギー基本計画の中でもしっかりと位置づけられ、固定価格買い取り制度の対象になっています。
 
なお北部豪雨により九州電力は配電柱が約600本折損または倒壊し、約800か所で電線が切断され、その被害額は数十億円に上るそうです。
 

バイオマス発電所にとって一番の課題は、燃料の安定した調達

 
日本では本格的なバイオ発電所それほど多くはありません。
小規模なものは地方の森林組合や畜産施設などが地域振興策として、自治体と協力して運転しています。
 
政府のエネルギー基本計画では、2030年のエネルギーミックス目標では、再生可能エネルギーの比率を現行の15%から22~24%にまで引き上げることにしており、これを実現するための施策としてバイオマス発電〈木質バイオマス〉を電力の小売の固定価格買取制度(FIT)の対象にして、普及の後押しをすることにしています。
 
新しいところでは、住友商事の子会社サミットエナジーが愛知県半田市で建設していた「半田バイオマス発電所」が完成し、運転を開始しました。
 
半田市衣浦港に隣接し、容量は7万5千kWで、現在国内で稼働している発電所としては国内最大です。
 
バイオマス燃料は、木質チップやパームヤシ殻などの取り扱いで実績のある住友商事が窓口となって国内外から幅広く調達することにしています。
 
バイオマス発電所にとって一番の課題は、燃料の安定した調達です。
 
FIT制度が設けられた2012年度に政府がバイオマス発電として認定した容量は40数件で、596万kWに上っています。
 
17年2月現在で稼働している木質バイオマスなどの発電容量は311万kWで、エネルギー基本計画では2030年には最大で728万kWにまで引き上げることにしています。
 
ただ、木質バイオマス発電の最大の課題「燃料の安定調達」をクリアできないとバイオマス専焼発電所としての運転は困難になります。このためか政府認定を受けたものの撤退を余儀なくされたプロジェクトも幾つか出てきています。
 
Text:藤森 禮一郎(ふじもり れいいちろう)
フリージャーナリスト