更新日: 2019.02.05 インタビュー

エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑥

<経営者>本当に必要な保障は、シンプルで割安。だからネットで売ることができる

Interview Guest : 斎藤 英明 (アクサダイレクト生命保険株式会社 代表取締役)

執筆者 : 村田保子 / Photo : 岩田えり

Interview Guest

斎藤 英明 (アクサダイレクト生命保険株式会社 代表取締役)

斎藤 英明 (アクサダイレクト生命保険株式会社 代表取締役)(さいとう ひであき)

アクサダイレクト生命保険株式会社、代表取締役社長 。
1963年、東京都生まれ。1986年、東京大学法学部を卒業後、農林中央金庫に入庫。1996年、スタンフォード大学ビジネススクールでMBAを取得。1998年、ボストン・コンサルティング・グループに入社。金融、IT業界などの企業コンサルティングに従事。2010年、シスコシステムズ合同会社で常務執行役員、専務執行役員などを経て、2013年、アクサダイレクト生命保険(旧ネクスティア生命)の代表取締役社長に就任。
アクサダイレクト生命保険のWebサイト
http://www.axa-direct-life.co.jp

<経営者>本当に必要な保障は、シンプルで割安。だからネットで売ることができる
インターネット専業の生命保険の先駆けとして、日本の市場を切り開いてきたアクサダイレクト生命を率いる斎藤英明さん。銀行や証券会社の取引にも、ネットが当たり前に使われるようになってきた今、その流れは生命保険にも確実に影響を与えています。
 
選択肢が増えてきた保険商品をどう選べばいいのか? そのヒントを探るため、ファイナンシャルプランナーの宮﨑真紀子さんが、ネット生保の最前線で活躍する斎藤さんにお話をお聞きしました。
 
村田保子

執筆者:村田保子(むらた やすこ)

Financial Field エディター

 

 

岩田えり

Photo:岩田えり(いわた えり)

フリーランス・フォトグラファー

日本舞台写真家協会・会員。タレント・舞台俳優など人物写真を得意とする。

 

 

ビジネスの背景には、情報やネットに対するリテラシーの向上がある

——アクサダイレクト生命の特徴は、インターネットのみで販売しているということですよね。保険商品をインターネットで購入される方というのは、どんな方ですか?——
 
30代〜40代の方が圧倒的に多く、全体の7割を占めます。すべてお任せということではなく、一つひとつ自分で判断して、必要なものを選んで組み合わせようという人たちですね。たとえば、オーディオセットを買うときに全部セットで買うか、スピーカーはこれ、アンプはこれ、と自分が必要なものを調べて、それぞれ違うものを買うかの違いです。保険に限らずネットでものを買う人というのは、後者のような方が多いです。
 
——保険にも新しい選択肢が出てきたということですよね。——
 
多くの人に考えるチャンスがあるということですね。もっと言うと考えざるを得なくなってきたというのが今の時代だと思います。
 
アクサダイレクト生命の商品はとてもシンプルです。1つのカテゴリーにつき1つの商品だけを提供しています。本当に必要なものには、それほどのパターンはないはずだから、というのが基本的な考え方です。たとえば、医療保険にいろいろなものがくっついて複雑になると、誰かに聞かないと分からないですよね。
 
ネットで売るからにはシンプルにする必要があるし、シンプルだからこそネットで売ることができる。シンプルだから結果的に保険料も割安なんです。
 
このようなビジネスが生まれた背景には、世の中の情報やネットに対するリテラシーがあがってきているという状況があります。旅行業界にしても、昔は代理店の窓口で全部お任せして申し込んでいたものが、今では飛行機はLCCで、ホテルはブッキングサイトで、最安値のものを探すという人が多くなってきています。それと同じことが保険にも起ってきていると考えていただければよいと思います。
 

本当に必要なものを賢く選んで、不要なものはやめる

——保険には保障機能、貯蓄機能があると思いますが、
             それはどう考えるべきでしょう。——

 
保険をネットで購入するなら、保障は保障、貯蓄は貯蓄、で別々に考えていただいた方が合理的です。保険は必要な保障と保険料のバランスを突き詰めて考えて選んでいただきたい。貯蓄はiDeCo(イデコ)やNISA(ニーサ)など、他の仕組みもたくさんありますから、ぜひそういったものを研究して活用していけばいいと思います。
 
——保険と保険以外の貯蓄のための商品を組み合わせて、上手く使いこなすためのコツはありますか?——
 
本当に必要なものを賢く選んで、不要なものはやめるということだと思います。ちょっと極端かもしれませんが、すぐに引き出せる150万円の貯蓄があれば、医療保険はいらないという意見もありますよね。
 
また、一般的に高齢者に死亡保障はそれほど必要ないはずですけれども、80歳以上の方が死亡保険に加入するというケースもあります。一方で、20代で子どもがいるご夫婦などは、本来保険がもっとも必要な時期なのに入っていないということも少なくありません。こういったことをよく学んで、賢く保険や金融商品を選んでいく必要があると思います。
 
——昨今のマイナス金利で、個人年金が売り止めになったり、予定利率が下がるなど、生命保険にも影響が出ているようですが、どのように受け止めていらっしゃいますか?——
 
保険会社にとってマイナス金利の影響は2つの側面があります。
 
1つはお客さまに対する直接の利回り、そしてもう1つはお預かりしている資産運用への影響です。
 
お客さまの利回りという面では、当社は先に述べたような理由で、貯蓄性商品の取り扱いがありませんので、影響は極めて軽微です。死亡保障や医療保障の商品は直接の影響を受けにくいんです。資産運用に関しては影響は避けられませんが、これは、どの保険会社、ひいてはどんな業種でも同じように影響を受けていますので、適正な対応をするということ以外に方法はありませんね。
 
——今までは投資に抵抗がある人が、貯蓄性のある生命保険を選んでいたと思うんです。金融機関としても売りやすいものが多いですから。でもマイナス金利の影響で保険を含めた金融商品が複雑になってきている面もあり、選び辛いと感じることもあります。——
 
鶏が先か卵が先かは分りませんが、消費者が貯蓄から投資へと向かわないのも、そこに問題がありますね。複雑な商品がたくさん出てきて、分からないから買わないとなって、そうなるとまた新しい商品が生まれ、どんどん複雑化していくんです。悪循環がまだまだありますよね。
 
もちろん保険も同様で、不透明な部分が多く、金融商品のなかでも一番遅れている分野だと思います。
 
でも現在は、透明性や説明責任がより問われる流れになってきています。私たちとしてはそれは大歓迎です。世の中のリテラシーがあがれば、サプライヤーとお客さまの関係もより健全になり、消費者にとってよい買い物ができるようになる。その流れを加速させているのがインターネットだと思うのです。インターネットの本質的な価値は、売り手だけが情報を持っていて、買い手が知らないという情報の非対称性が少なくなることにあると思います。
 
透明性や説明責任という意味では金融のなかでも保険はまだまだ遅れていて、その流れの後方にいると考えています。私たちにとってもそこはチャレンジですね。
 

変化に追いつくのではなく、その先に行きたい

——最近では、それほど保険に詳しくない人も、ネットで保険を申し込むようになり、層が広がっているというお話をお聞きしました。ネットで保険を購入することが浸透してきているということでしょうか?——
 
お申し込みされるのは、必ずしも保険に詳しい人ばかりではないですね。今はネットを使わない人は少ないから、保険を買うときにもネットで調べてみるということを、ほとんどの人がやっています。その方たちに対して、できるだけ分かりやすいインターフェースやコンテンツをつくることを私たちは目指しています。
 
若い世代は電話を使いたがらず、なるべくネットですべての手続きを完結したいという人が多いと思います。そういった方々にとって当社は、申し込みはもちろん、住所変更もネットで完結できますし、結婚などで姓名が変わったときでも、運転免許証などの本人確認書類を携帯のカメラで撮ってアップしてもらうだけで済むのでとてもフィットしていると思います。
 
また同時に、ネット以外の方法でサポートをさせていただくことにも力を入れています。典型的なものとしては電話での対応を充実させること。カスタマーサービスセンターの受付体制を整え、万一のときにも迅速な対応ができるようにしています。
 
実際に電話によるお問い合わせの件数も増えているんですよ。昔は電話による問い合わせは、かなり詳細な保険の内容に関することが多かったのですが、現在では「終身保険って何ですか?」といったお問い合わせをいただくこともあり、そのようなお問い合わせにも丁寧に対応できるよう体制を整えています。
 
つまり、ネットが苦手という人に対しても安心して検討いただける環境を用意しているということです。私どものこうした対応が市場を広げる一因にもなっていると感じています。
 
——消費者もどんどん賢くなっているし、お金の使い方が上手くなっています。時代的な追い風が吹いていますし、今後はネット保険が当たり前になりそうですね。——
 
流れは確実にあって、少しずつ変わってきているのを感じますが、そう簡単にはいかないところもあります。銀行の振込はネットで行う人が多くなったけれど、生命保険はまだそうなっていない。それは提供する側の知っていただくための努力が足りていないからだと思います。
 
生命保険のネット販売が難しい理由には、購買頻度が少ないということもあります。保険は一度買うとなかなか見直されない。
 
FPさんの家計へのアドバイスなどをみると、携帯電話料と保険料の見直しを勧められているのをよくみかけます。携帯電話はどんどん新しい機種がでるから、好みで機種変更すればいいのですが、保険はタイミングが難しい。だから保険の見直しを第三者的な目線でアドバイスしてくれるFPさんの存在は大きいと思います。合理的なネット保険をどんどん勧めていただきたいですね。
 
あとは比較サイトです。当社のホームページの流入経路は、WEB広告などで直接入ってくるものと、比較サイトから入ってくるものがあり、この2つは同じペースで伸びています。そして、お客さまはこの2つを何度も行ったり来たりして、じっくり検討してから加入を決めています。比較サイトなどが提供している保険コラムなども、参考にされている方が多いと思いますね。私たちもまずは知ってもらうということが一番大切だと考えているので、彼らのコンテンツの充実にはとても期待しています。
 
時代はどんどん変わっていきますから、変化に追いつくのではなく、その先に行きたいという気持ちが強くあります。私たちは保険という分野で、ネットの価値や利便性を追求し、常にそのフロントランナーでいたいと考えています。
 

エキスパートに聞く「仕事とお金の話」⑥

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