更新日: 2019.11.28 その他保険
認知症に備える「認知症保険」は必要か? 保障内容と傾向を解説
執筆者:村井英一(むらい えいいち)
国際公認投資アナリスト
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本証券アナリスト検定会員
大手証券会社で法人営業、個人営業、投資相談業務を担当。2004年にファイナンシャル・プランナーとして独立し、相談者の立場にたった顧客本位のコンサルタントを行う。特に、ライフプランニング、資産運用、住宅ローンなどを得意分野とする。近年は、ひきこもりや精神障害者家族の生活設計、高齢者介護の問題などに注力している。
増える認知症の高齢者
ある調査によると認知症の患者数は、認知症となる割合に変化がない場合で、2025年には675万人ですが、2040年に802万人、2060年には850万人になると予想されています。
糖尿病の増加などにより認知症患者が増える場合には、2040年に800~950万人、2060年には850~1150万人にもなると推計されています(九州大学大学院 二宮利治氏らの研究「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」による)。
およそ10人に1人が認知症となる計算で、国や自治体の認知症対策が急がれますが、自分自身でどのように備えるかも考えておきたいものです。
65歳以上は社会保障制度の介護保険の対象です。介護が必要になったら、1~3割の自己負担で、介護状態に応じて一定の範囲内で介護保険サービスが利用できます。身体の衰えだけでなく、認知症も介護が必要とみなされますので、介護保険サービスの対象です。
ただ、身体の状況と異なり、認知症には状態に波があり、「要介護」のランクが軽めに認定され、介護保険サービスの利用枠が小さくなる場合があります。その割に、家族の負担は小さくありません。身体が衰えていないだけに行動の制約がないので、家族が目を離せなくなります。
デイサービス(高齢者が施設で日中過ごす日帰りの介護サービス)を利用しようにも、介護保険の利用枠を超えてしまうと、全額が自己負担となり、金銭的な負担が重くなります。介護の中でも認知症は、家族の手間と経済的な負担が大きいと言えるでしょう。
「認知症保険」の傾向
そこで、認知症になった場合の費用の負担に備えるために、認知症保険が登場しました。認知症保険の誕生は2016年で、その後は徐々に販売する保険会社が増えています。
保険商品のタイプとしては、保険会社が販売する介護保険に特約として付加されるものと、単独の保険商品のものがあります。中には、骨折の治療費のための保険をメインの契約とし、認知症の保険を特約としている保険商品もあります。いずれも、保険料支払いと保障が一生続く終身保険となっています。
保険金(給付金)が支払われるのは、「医師に認知症と診断された場合」となっている保険が多いのですが、「医師に認知症と診断され、その状態が180日継続した場合」「医師に認知症と診断され、公的介護保険の要介護と認定された場合」などとしている商品もあります。
認知症の手前の「軽度認知障害」と診断された時点で、給付金が一部出る商品もあります。保障内容は、支払い条件に該当した場合に、一時金で100~300万円が出るというものがほとんどです。中には年金形式で毎年少しずつ出るものもあります。
いずれにしろ、認知症となったら一定のお金が支払われるというだけで、事故にあった際や事故を起こした際の保障は付きません。認知症に備えた保険ですが、認知症にかかわる特別なリスクに備えているわけではありません。
「認知症保険」は必要か?
社会保障である介護保険とは別に、保険会社でも「介護保険」を発売しています。一定の介護状態になった場合に保険金が出る保険です。介護のための費用をまかなうのに利用されています。こちらも、「要介護2」などと認定された場合に、一時金または年金が出るようになっています。
認知症と診断される状態であれば、「要介護」のランクでもある程度の段階に認定されるでしょうから、保険会社の「介護保険」からも保険金が出ると考えられます。
「介護保険」の場合は、認知症以外でも対象になっていますから、こちらの方が対象は広くなっています。ちょうど、医療保険が全ての病気を対象にしているのに対して、がん保険はがんだけを対象とし、保障が充実しているのと同じような関係です。
介護費用の準備ができていないのであれば、「介護保険」への加入を検討すべきでしょう。ある程度の準備はできているものの、特に認知症が心配だというのであれば、認知症保険に加入するとよいでしょう。いずれにしても、十分な貯蓄があるのでしたら、特に保険で備える必要はないのではないでしょうか。
執筆者:村井英一
国際公認投資アナリスト