更新日: 2019.07.26 その他保険
がん患者の遺伝子を調べて、その人に合った治療薬をつくる「がんゲノム医療」って?
がんゲノム医療は誰もが利用するものとは言えませんが、医療保険やがん保険に先進医療特約を付加しているのであれば、これを活用する機会の一つになる可能性があります。そこで、今回はがんゲノム医療についての基礎知識と、治療に関連するお金の話について解説します。
執筆者:横山琢哉(よこやま たくや)
ファイナンシャルプランナー(日本FP協会 AFP認定者)
フリーランスライター
保険を得意ジャンルとするFP・フリーライター。
代理店時代、医療保険不要論に悩まされた結果、1本も保険を売らずに1年で辞めた経験を持つ。
FPとして、中立公正な立場から保険選びをサポートしています。
「がんゲノム医療」とは
がんゲノム医療とは、がん患者の遺伝子を調べてその人に合った治療薬を見つけ、従来よりも高い治療効果を狙う一連の医療行為です。がんゲノム医療の主軸を担うのは、遺伝子情報を「網羅的に」調べる「がん遺伝子パネル検査」です。
従来、がんの遺伝子は一つまたはいくつかを調べることで治療に役立てられていましたが、遺伝子解析の技術が進歩したことにより一度に多数の遺伝子を調べることができるようになりました。
この技術を活用することで、患者一人ひとりに合った治療薬を見つけることができるようになってきています。
がん遺伝子パネル検査はどんながんの治療でも行われるわけではなく、通常は標準治療がない場合や、標準治療が終了していて新たな薬物療法を希望する場合など一定の条件に当てはまったときだけです。
がん遺伝子パネル検査の結果を活用すると、場合によっては治療成績の向上が大きく期待できるということもあって、厚生労働省はがんゲノム医療の体制を早急に整備する方針を打ち出しています。
がん遺伝子パネル検査は高額だが、先進医療特約が使えるケースも
がん遺伝子パネル検査はとても役立つものですが、検査を受ける上ではその費用の問題があります。2019年6月から一部の遺伝子パネル検査が保険適用されました。これについては高額療養費制度が使えるので患者の費用負担はかなり抑えられますが、まだ一部のみにとどまっています。
遺伝子パネル検査が自由診療として行われる場合、その費用は50~100万円くらいが相場です。そのため、検査を受ける時点で二の足を踏んでしまうかもしれません。
ただ、遺伝子パネル検査の一部は先進医療に指定されています。この場合、医療保険やがん保険に先進医療特約を付加していれば、技術料と呼ばれる固有の費用については保険会社から給付金を受け取ることができます。
ただし先進医療特約を契約していても、すべての遺伝子パネル検査が対象になるわけではありません。あくまで所定の要件を満たしているものに限られますので過剰な期待は禁物です。
適した治療が見つかる可能性は10%程度
以上のようなことを知れば、お金さえなんとかなるなら積極的に利用したいと考えるのではないでしょうか。
しかし、残念ながら検査をしても適した薬が見つからないことが多いです。適した薬が見つかる可能性は全体の10%程度ということなので、より一層の進歩が待たれるところです。
また、治療に高額な費用がかかることがあります。適した薬が見つかっても自由診療で高額な費用がかかるのであれば、その費用を負担できないということで治療を断念することにもなりかねません。
ただし、治療費の負担についてはケース・バイ・ケースです。高額な負担が必要になることもあれば、臨床試験に参加することで少額の負担で済むこともあります。逆に「負担軽減費」という名目でお金を受け取れることもあります。
そのため、わずかな望みにも賭けたいというのであれば、取りあえず検査だけでも受けてみようという選択をする人が多いのではないでしょうか。
保険で備えるならどうすべきか
以上のようなケースをあらかじめ想定して医療保険やがん保険に加入するのであれば、以下のような方法が考えられます。
・先進医療特約を付加する
・がん保険の診断一時金を高めに設定しておく
・自由診療も補償する実損填補タイプのがん保険に加入する
先進医療特約は使う機会がほとんどないから不要と主張する人もいますが、可能性の低いところまでカバーし、いざというときに役立つのが保険のメリットです。
また、一部の損害保険会社が販売している実損填補タイプのがん保険なら、保険金額の範囲内でかかった治療費を実額補償してくれます。このタイプの商品が、最も補償範囲が広いです。
将来的に健康保険の適用(保険収載)が進めば高額療養費制度を活用することで、貯蓄でも対応できる程度の負担で済むようになるかもしれませんが、それにはまだしばらく時間がかかるでしょう。民間の保険はそれまでの間、補完的な役割を果たすことになります。
がんにかかっても、実際にゲノム医療を受けることはそれほど多くないかもしれませんが、こういうものもあるということはぜひ、知っておいてください。
出典
国立がん研究センターがん情報サービス「がんゲノム医療 まず、知っておきたいこと」
執筆者:横山琢哉
ファイナンシャルプランナー(日本FP協会 AFP認定者)
フリーランスライター