【相談事例】「保険が月に35万!貯蓄型保険で貯めているけれど、貯金がない」 潜んでいた2つの問題点とは
配信日: 2018.10.25 更新日: 2019.01.10
今回は「保険が月に35万円。いま頑張ればといわれているけどこのままで大丈夫なのか」というご相談事例を紹介いたします。
Text:塚越菜々子(つかごし ななこ)
CFP(R)認定者
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
お金の不安を賢く手放す!/働くママのお金の教養講座/『ママスマ・マネープログラム』主催
お金を貯める努力をするのではなく『お金が貯まる仕組み』づくりのサポート。保険や金融商品の販売を一切せず、働くママの家計に特化した相談業務を行っている。「お金だけを理由に、ママが自分の夢をあきらめることのない社会」の実現に向け、難しい知識ではなく、身近なお金のことをわかりやすく解説。税理士事務所出身の経験を活かし、ママ起業家の税務や経理についても支援している。
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目次
30代前半の夫婦。将来不安から高額の保険に加入
ご相談に来られたのはご夫婦のうちの奥様でした。ご主人様の会社は福利厚生制度が薄く、退職金制度もないため、自助努力の分を厚くしていかなければいけないと、非常に堅実なお考えをお持ちでした。4歳のお子様と3人暮らしをしていますが、夫婦二人の手取りは月に90万円ほど。
まだお子様はお金がかかる年ごろでもないため、日々の暮らしに困るような収入ではありません。
年収に換算すると1300万円近くはあります。ところが「現金預金の貯金が全く貯まらない」とのこと。住宅の住み替えをしたいが頭金の用意がとてもできず、その件でご相談にいらっしゃいました。
月に9万円の掛け捨て保険
保険をメインとしたご相談でしたので、一つ一つ加入している保険についてお伺いしていきました。保険証券はお持ちいただきましたが、それを見ながらおおむねスムーズに保険の内容や保険料を教えてくださったので、「よくわからないものになんとなく加入している」ということではなさそうです。
お伺いした保険のうち、ご夫婦それぞれ終身の医療保険+がん保険+60歳までの収入保障保険に加入していました。医療とがん保険は金額も保障内容もコンパクトで悪くなさそうでしたが、収入保障は他の保険と兼ね合わせて果たして必要かは検討の余地ありと感じました。
会社の福利厚生が薄めだといっても、社会保険加入でお勤めとのことですので、まずは公的な保障がどれくらいもらえるのかをしっかりと把握した上で、不足分を保険で賄うという大原則をお伝えいたしました。
月に26万円の貯蓄型保険
さらに家計の問題になっていたのは、終身保険や養老保険などの貯蓄も兼ねるタイプの保険です。ここではわかりやすく日本円(1ドル100円計算)でご紹介しますが、すべて米ドル建ての保険です。
最近加入したばかりの保険は、ひと月に12万円超。確かに10年等の短期間で払い込むものですので掛け金が高くなるのは当然ですが、それ以外の保険を考えてみても、収入の38%が保険に消えていっているのです。いくら貯蓄型といえど、これでは生活に不安を感じてしまっても無理はありません。
まず、これら26万円相当の掛金の保険を死亡保険だと考えても明らかに保障が過剰です。さらにその過剰な保障を掛け捨てではなく終身保険でまかなっていたら、このような保険料になってしまいますね。
問題1:貯蓄と保険のバランスの悪さ
ご夫婦で手取りが多く、お金の管理をあまり得意としないので、使ってしまわないように保険で貯めている。お金が余りそうだったらどんどん保険に入るようにした、とのお話しでしたが、それにしてもあまりにも保険が多く貯金がありません。
貯蓄タイプの保険は、確かに家計の中では財産の一つではありますが、流動性は現預金とは全く異なります。比較的若くしての加入ですので、貯蓄としての増え率は高く感じるかもしれませんが、長い期間引き下ろさず固定されるからそれは当然です。
いつでも必要な時に使える現預金と、10年・・・ともすれば30年据え置かないと元本割れしてしまう保険を混同してはいけません。
また、「いま頑張れば・・」と勧められた通り、老後のためと思えば有力かもしれませんが、老後のために今の暮らしを犠牲にするのが本当に望むお金との付き合い方なのかは考えたいところです。
問題2:あまりにも米ドル寄りの資産
安定した資産運用のためには、適切な分散投資が欠かせません。すべてを日本円で持つよりは他のものがある方が良いケースも多いです。ところが、ご相談者様は日本円での通常の貯蓄がなく、財産がほぼ米ドル建ての保険。これでは分散投資とは言えません。円と米ドルがあれば分散投資ではないのです。
円の中でも違う値動きをする株式と債券、外貨にするとしても米ドルに限らず他の国へ。そういった異なる資産クラス(分類)のものを組み合わせて持つからこそ、分散投資は意味を成すもので、ただ単に円だけだと不安だから米ドルでというのはリスク低減になりません。
ましてや、円建ての保険では増えないから米ドル建てで、というのは、資産運用の観点から見たらあまりにも偏りすぎていると言わざるを得ませんでした。
保障と貯蓄を分け、お金を使う時期を見極める
年間で約300万円を貯蓄型の保険で運用していました。すべて米ドル建てですので日本円でいくらの老後資金になるかは予測できません。外貨ベースで損をしないというのは、ずっと日本で暮らす場合はあまり当てにならないのです。実際にこの20年の間、円/ドルの為替は75円~147円と2倍近くの値動きがありました。
また、このままだと希望している住宅の住み替えや子供の教育費が必要になったときに必要なお金が準備できません。次のお子さんを望む場合に(一時的にでも)収入がダウンした場合や、生活費が少しずつ大きくなった時に対応できる現金が用意できなくなってしまうのです。
本当に「保険」で対応する必要があるのかも再確認を
上記にも書いた通り、為替の動きは簡単に予測することができませんので、必要とする時期に為替レートが悪く、日本円ベースで元本を割っていたら当てにすることができません。また、保険は多くの場合で長期間を据え置かず途中解約すると元本割れしてしまいます。老後資金や資産運用を目的とするのならば、他の手段もあるはずです。
今回のご相談者様には、老後の資産形成の一つとしてiDeCoやつみたてNISAなどの説明も合わせてご案内しました。それぞれに特徴がありますが、所得が多い分iDeCoは保険より節税効果が得られますし、つみたてNISAや一般NISAなら、保険ほど払い出しに制限を受けません。
もちろん、保険で貯金が一概に悪いわけではありません。しかし、保険だけしか知らずに選ぶのではやはり偏りが生じます。
様々な制度の特徴などを比較して、ライフスタイルやライフプランに応じて自分に合ったものを選び取る。それこそが「今も楽」「後で楽」になるための本当のやり方ではないでしょうか。
Text:塚越 菜々子(つかごし ななこ)
CFP(R)認定者