更新日: 2024.04.23 生命保険
89歳ですが生命保険に加入できますか?
執筆者:宮﨑真紀子(みやざき まきこ)
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士
大阪府出身。同志社大学経済学部卒業後、5年間繊維メーカーに勤務。
その後、派遣社員として数社の金融機関を経てFPとして独立。
大きな心配事はもちろん、ちょっとした不安でも「お金」に関することは相談しづらい・・・。
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どうして89歳の父親に生命保険?
Aさんから「主人の父は89歳ですが、生命保険に加入できますか?」という質問を受けました。90歳まで加入できる保険があることを伝えると、「孫を受取人にできますか?」と次の質問。
「できますよ。でもそのお孫さんの親(相続人)が存命中なら、お孫さんは法定相続人ではないので、相続税額の2割加算の対象になります。相続税が発生しない場合は心配しなくても良いですが」と回答しました。
家族関係がわからないので詳しく聞いてみると、Aさんの夫はひとりっ子でした。つまり、お孫さんの親(相続人)はAさんの夫で存命中です。またご両親も健在です。ひとりっ子なので“争族”の心配も少ないと考えたAさんですが、数年前からエンディングノートを書いてもらうように誘導していると言います。
資産状況などが分からないことが不安ですが、「遺言書を書いてほしい」とは言いづらいので、まずはエンディングノートから。終活の必要性を感じてもらおうと考えているそうです。
無口なご主人はご両親との会話も少なく、Aさんは嫁として親子の仲介役をこなしてきました。その結果、ご両親からの信頼も厚く頼りにされている反面、Aさんの責任が重くなっているようです。
どうして89歳の父親が生命保険の加入を考えたのか……父親が亡くなった時、相続人となるのは、母親と息子であるAさんの夫です。可愛い孫にも何か遺したい、と思われたのではないでしょうか。生命保険は受取人を孫にすることで、孫に遺すことができます。“おじいちゃんの気持ち”を伝えたかったのかもしれません。
生命保険が相続対策になるといわれている理由
前述のとおり、シニア層が生命保険の加入を考える理由の1つに“相続対策”があります。生命保険を相続に利用することには、主に以下の3つのメリットがあります。
(1) 相続財産の課税評価額を減らすことができる
相続が発生した時に、亡くなった人の死亡保険金には非課税枠があります。
非課税枠=500万円×法定相続人の数
Aさんの義父の例では法定相続人が2人(母親と夫)なので、500万円×2=1000万円となります。相続人を受取人とした生命保険1000万円に加入することで、現預金を減らすことができます。加入した生命保険の1000万円は非課税枠内なので課税されません。
つまり、生命保険を利用することで相続財産の課税評価額を減らす効果があります。
(2) 納税資金などを確保できる
生命保険は保険金を請求すると、速やかに支払われます。保険金は受取人固有の財産なので、他の相続財産のように遺産分割協議などの煩雑な手続きは不要です。葬儀代や納税資金など、直に資金が必要になる場面で充当することが可能です。
(3) 遺産の分割をスムーズにすることができる
不動産など分割が難しい財産を相続する場合、平等に分割できない場合が多々あります。そのような時、特定の相続人に当該財産を相続させる代わりに、他の相続人に金銭等(代償交付金)を渡す“代償分割”という方法があります。この代償交付金の原資に生命保険を活用するのです。
例えば、兄が不動産を相続し、残りの金融資産を弟が相続すると決めたとします。兄の相続分に比べて弟が少ない場合には、兄から弟に金銭を支払うことで“争族”を回避することができます。
財産を現預金にしている理由
Aさんに話を聞くと、Aさんのお義父さんの資産は現預金だけだそうです。不動産は持たず、賃貸マンション住まいです。以前保有していた株式などもすでに売却済。現預金はもっともシンプルで分かりやすく、流動性重視の状態です。
老夫婦2人の生活は、今は年金で賄われているようですが、将来介護が必要になることは必定です。さらに、どちらかひとりになった時、施設に入所する可能性は高いと考えられます。財産を現預金で保有されているのは、その時に備えているのではないかと推察します。息子夫婦に迷惑にならず、残された妻が不自由なく暮らせるように準備されているのではないでしょうか。
ただ、もしかしたらお義父さんの終活、Aさんの知らないところで着々と進捗しているかもしれません。近々に家族会議の開催をお勧めしたいと思います。
執筆者:宮﨑真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士