更新日: 2020.04.07 その他相続

相続法改正「遺留分」制度の見直し。不足は金銭で解決だが

執筆者 : 黒木達也

相続法改正「遺留分」制度の見直し。不足は金銭で解決だが
相続に関する民法の規定が2019年7月以降大きく見直され、残された配偶者の権利の保護と相続争いの回避を目的としています。
 
全般的にはこれまでの課題が解消されていますが、留意すべき点もあります。その一つが、相続時の「遺留分」に満たない不足額は、原則金銭で解決する制度への変更です。

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黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

土地中心だと法定どおりに分割できない

残された相続財産に、金融資産が圧倒的に多い、不動産が複数ある、といったときには、相続人が多くても遺産分割は可能です。しかし、相続財産が自宅とごくわずかな金融資産だけで、相続人が複数いると、円満解決が結構大変です。
 
配偶者がいれば、配偶者が自宅を相続し相続税がほとんどかからないため、問題は起こらなかったのですが、配偶者がすでに亡くなっており、複数の子どもだけで相続する際は問題が起こります。
 
長男あるいは親と同居していた子どもが、自宅を全て相続してしまうと、他の子どもたちの取り分が極端に減ってしまいます。親が遺言状で、特定の子どもに大部分を相続させようと考えても、「遺留分」を無視して相続させることはできません。
 
遺留分とは、法定相続分の半分に当たる額で、相続人全員に認められる権利です。特定の相続人に有利な遺言状があっても、遺留分を侵害した配分はできない仕組みです。
 

「共有名義」にするデメリット

土地など多くの財産を相続した相続人が十分な金融資産を持ち、他の相続人に対し遺留分にあたる金額の不足分を支払うことができれば、問題はありません。
 
しかし土地は大都市圏ではかなり高額に評価されるため、簡単に資金を調達できずに、不足分を支払えないことが多く、これまでは別の方法がとられてきました。
 
それは、残された自宅を複数の相続人で「共有」する方法です。相続人が何人かで不動産を共同で所有するのです。しかし、当初は合意ができていても、相続人の1人が固定資産税の支払いなどへの不満もあり、共有分を「売りたい」と考えたとします。
 
不動産会社などの第三者に、この共有している権利を売ってしまうとかなり面倒です。これを契機に、他の相続人も同様の行動をとることが多くなり、実際に住んでいる人に支障が出てきてしまいます。今回の相続税法の改正の狙いの一つはここにあります。
 
さらに、共有名義が長期に続くと、実際の権利者が亡くなるなどして、さらなる相続が発生し、共有名義者が増えることで権利関係が極めて複雑になります。所有者不明となることもしばしばあり、不動産売買が不可能になる事態に陥ります。これを回避するためにも、今回の遺留分制度の見直しは効果的です。
 

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遺留分の不足額は金銭支払いで

今回の見直しにより、自宅の土地など分割しにくい相続財産を、他の相続人の遺留分を超えて相続するときは、その不足分は金銭を払うことで解決します。共有名義が長期に続くことを避け、不動産流通の円滑化を図ることが、見直しの最大のポイントです。
 
自宅など他の相続人の遺留分を超えて財産を相続する人は、保有資産の多寡に関係なく資金を準備する必要があります。東京都心など地価が高い地域の自宅を相続すると、その土地評価額が2億円を超えることも稀ではありません。容易に金銭が工面できない事態になります。
 
ここで1億円の自宅と2000万円の金融資産を、3人の子どもだけで親から相続するケースを考えましょう。法定相続額は、子ども3人で1億2000万円を3等分して、1人当たり4000万円です。
 
親の遺言状は、「長男が1億円の自宅を相続し、他の2人は金融資産の2000万円を分ける」という内容でした。しかし遺留分は長男以外の2人で、法定相続分の半額、各2000万円ずつで合計4000万円あり、この額に満たないため、2人は長男に対し、2人合計で4000万円を相続する権利を主張できます(遺留分侵害額請求権)。
 
相続金融資産の2000万円を全額2人に回しても、あと2000万円分が不足します。自宅を相続する長男に相続する金融資産はありませんので、他の2人に支払う2000万円分を準備する必要があります。
 
資金の準備ができないときは、相続した自宅の土地の一部を売却し、現金化して支払わなければなりません。自宅の評価額が2億円となると、さらに大変です。この資金が準備できないと、居住を諦め自宅を売却して現金化する必要が出てくるかもしれません。
 

土地売却も困難、損失が出ることも

これまで相続財産に土地が中心のケースでは、共有名義にすることで解決を図ることが多々ありました。しかしその後の相続などで権利関係が複雑になることも多く、行政サイドでも課税面などで困っていたため、今回見直されました。
 
これまでも「現金化」の方法も取られてきましたが、これが一般的な方法です。他の相続人の遺留分を超えて相続する人が、不足分の金銭を用意できないと、土地の一部を売却して、他の相続権者に応分の額を支払うことになります。
 
ただし、その際に土地の一部を売却するにしても、希望する面積を希望する価格で売却ができるのでしょうか。広大な土地がある場合は問題ないとしても、200平方メートルの宅地の一部を切り売りすることは、かなり難しいと思います。
 
たとえば面積が20平方メートル以下の狭い土地では、買い手が見つからないことも考えられます。買い手が見つかったとしても、土地の評価額に見合った金額で売却できるかは疑問です。相手に足もとを見られるからです。
 
さらに土地売却のために、譲渡税や売却に要した経費も発生します。土地の評価額に見合った金額を捻出するために、その金額以上の支出が確実に見込まれます。土地を相続する権利を得たとしても、現金化で問題を解決する必要があるため、思った以上の出費が発生するかもしれません。
 
特定の相続人に、遺留分を超えた財産を相続させたいと考える人は、金銭の生前贈与を事前に対応する必要が出てきます。共有名義にすると先々の相続が大変、との理由で金銭での解決が決まりましたが、新たな課題も生まれそうです。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト