更新日: 2020.04.20 贈与
親の自宅を住宅ローンごと、生前に引き受ける2つの方法とは?
このように財産をもらう人(受贈者)が、その見返りとして一定の債務を負担する贈与契約を「負担付贈与」といいます。
執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
負担付贈与契約の成立
負担付贈与に限らず、贈与契約の成立は贈与者と受贈者の双方の合意によって成立します。そのため、必ずしも契約書が必要ということはなく、口頭でも成立することとなります。
ただし、後々トラブルなどが発生しないよう、贈与契約書を取り交わしておくことや、他の相続人に贈与契約の内容を知らせておくことが重要となります。
また、実際に贈与したけれども受贈者が債務を履行しない場合には、贈与者は契約を解除することができます。ただし、契約の解除は、受贈者が債務を履行する前までとなります。
負担付贈与の場合の税金
負担付贈与をした場合には、受贈者に贈与税がかかります。ここでポイントとなるのは、負担付贈与によって自宅などの不動産の贈与を受けた場合、一般の贈与や相続のときとは違い、財産の価格を「時価(通常の取引価格)」で評価する点です。
一般の贈与や相続の際には、通常「相続税評価額」=時価の80%程度での評価となるため、両者には差異が生じることになります。
例えば、親から子が4000万円の自宅を贈与された場合(暦年課税)、以下のようになります。
(1)通常の贈与(特例贈与:20歳以上の者が直系尊属から受けた場合)
計算式:財産の価格-基礎控除=基礎控除後の課税価格
基礎控除後の課税価格×税率=贈与税額
4000万円の自宅の相続税評価額(概算)=4000万円×80%=3200万円
3200万円-110万円=3090万円
3090万円×15%-10万円=453.5万円
(2)負担付贈与(自宅の贈与と併せて、残りの住宅ローン1000万円を負担)
計算式:時価-負担する債務-基礎控除=基礎控除後の課税価格
基礎控除後の課税価格×税率=贈与税額
4000万円-1000万円-110万円=2890万円
2890万円×15%-10万円=423.5万円
(2)の場合、受贈者は残りの住宅ローン1000万円と423.5万円の贈与税を負担することになります。
また、負担付贈与した財産の取得費よりも受贈者が負担する債務の方が大きい場合には、贈与者にその差額分の譲渡所得があったとされるため、所得税や住民税が課税されます。
もう一つの方法
前述のように、負担付贈与の場合には、原則として受贈者に贈与税が課されることになります。親の自宅を引き受ける際のもう一つの方法には、親子間で売買する方法があります。これは「親子間売買」と呼ばれています。
例えば、親の自宅の残りの住宅ローンを子が引き継ぐ場合などが想定されます。売買の場合には、通常の不動産の売買契約の要件を満たしていれば、親子間であれ、親族間であれ、第三者間での売買と基本的に変わることはありません。
ただし、このときに注意すべきポイントは、売買する際の「価格」です。親子間などで子に対する配慮などから、売買価格が時価よりも著しく低い場合には、差額分が贈与したものとみなされ、贈与税が課せられることがあります。
つまり、せっかくの配慮が水の泡となり、負担付贈与した場合と同じ結果となる場合があるのです。また、逆に時価よりも高く、取得費との乖離が大幅にある場合には譲渡益が発生し、贈与者に譲渡所得税が課せられる場合もあります。
親子間売買の際のポイントは、適正な価格での売買といえますが、個人での判断は難しい場合もあるため、信頼できる専門家(不動産会社の査定、場合によっては不動産鑑定士の評価)に支援を仰ぐ必要もあるでしょう。
また、親子間売買の場合、子が債務を引き継ぐときに、子が金融機関からの融資を受けることが難しくなる可能性があります。金融機関としては、黙っていても将来的に子が相続するはずの自宅をなぜ今売買する必要があるのかと疑う傾向があるようです。
まとめ
親子間売買には、前述の事例とは逆パターンとして、子の住宅ローンを売買によって親が肩代わりするケースなども考えられます。
負担付贈与にするか、親子間売買にするかの判断には、税金面での影響が一つの重要な判断要素となることは確かです。しかし、負担付贈与は特別受益や遺留分のもめごとに発展する可能性もありますので、その点には十分ご留意ください。
[出典]国税庁「No.4426 負担付贈与に対する課税」
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー