更新日: 2020.04.17 贈与

息子の事業独立を金銭面で支援してあげたい! 節税のためにどんな方法がある?

執筆者 : 村川賢

息子の事業独立を金銭面で支援してあげたい! 節税のためにどんな方法がある?
66歳男性Aさんからの相談です。Aさんには62歳の妻と30歳の長男、28歳の長女がいますが、長男と長女はそれぞれ結婚して別に住んでいます。
 
長男家族は近所に住んでいて、家族3人でよく遊びに来るそうです。長男は調理師専門学校を卒業後、10年間以上洋食屋で働いてきて腕も上達し、最近になって独立したいとAさんに言っているようです。
 
しかし、「独立するには1000万円ほどの開業資金が必要で、自分にはとても無理だ」と諦めている様子だとAさんは嘆いています。Aさんは、何とか資金面でバックアップして長男の夢をかなえてあげたいと思っていますが、良い方法はないかとの相談です。
 
村川賢

執筆者:村川賢(むらかわ まさる)

一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)

早稲田大学大学院を卒業して精密機器メーカーに勤務。50歳を過ぎて勤務先のセカンドライフ研修を受講。これをきっかけにお金の知識が身についてない自分に気付き、在職中にファイナンシャルプランナーの資格を取得。30年間勤務した会社を早期退職してFPとして独立。「お金の知識が重要であることを多くの人に伝え、お金で損をしない少しでも得する知識を広めよう」という使命感から、実務家のファイナンシャルプランナーとして活動中。現在は年間数十件を越す大手企業の労働組合員向けセミナー、およびライフプランを中心とした個別相談で多くのクライアントに貢献している。

Aさんの資産と収入

Aさんは、大手総合電気会社を43年間勤め65歳で退職しました。会社からの退職金は3000万円ほどでしたが、半分を一時金でもらい、残りを企業年金としてもらうようにしました。現在住んでいるマンションは25年前に購入したもので、住宅ローンは完済しているとのことです。
 
Aさんの資産としては、不動産(マンション)1300万円、預貯金(退職一時金1500万円含む)3000万円、生命保険500万円、合計で4800万円です。
 
収入としては、老齢厚生年金と老齢基礎年金、加給年金のほかに企業年金、確定拠出年金が入るため、合わせて1ヶ月あたり30万円余りになります。Aさんは老後に夫婦二人で生活するには十分だと考えています。

相続時精算課税制度を使って非課税で1000万円贈与

Aさんは妻と相談し、長男に開業資金1000万円をあげたいと思っています。
 
しかし、仮に1000万円をそのまま贈与すると、贈与税(直系尊属からの贈与)として、(1000万円-基礎控除額110万円)×税率30%-控除額90万円=177万円を長男が払わなければなりません。せっかく1000万円をもらったのに、177万円もの税金を払うことで開業資金が不足しては元も子もなくなってしまいます。
 
そこで、相続時精算課税制度(※1)を使って、非課税で1000万円を贈与することを提案しました。正確には税の繰り延べで、贈与税を払う代わりに、Aさんの相続時(亡くなった時)に今回贈与する1000万円を相続財産に加えて相続税として払うという制度です。
 
Aさんの場合は、今の相続人が存命だとしたら、基礎控除が3000万円+3人(法定相続人の数)×600万円=4800万円あるので、相続時に相続税を払わなくて済む可能性があります。
 
ただし、暦年贈与(1年間110万円まで非課税で贈与可能)や小規模宅地の評価減(住んでいる住宅地では330平方メートルまで評価額を80%減額可能)の制度は使えなくなります。
 
一方、もし長男が開業後に資金繰りで困り、追加で資金を援助する場合は、2500万円までなら何回でも非課税で贈与することができます。相続時精算課税制度では、暦年贈与を選択できない代わりに何回でもこの制度を使って非課税で贈与ができます。
 
ただし、2500万円を超えて贈与する場合は、超えた分に20%をかけた贈与税を納めなければなりません。

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その他の相続時精算課税制度の注意点

その他の相続精算課税制度の注意点としては、
 
1.原則として60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子や孫に贈与する場合に適用できます。また一度適用したら、以後暦年贈与に変更はできません。
 
2.この制度を使って贈与を受けたときは、必ず翌年の2月1日から3月15日までに、納税地の税務署に相続時精算課税届出書と必要な書類を提出しなくてはなりません。
 
申告に必要な書類は、受贈者(贈与を受ける人)の戸籍謄本または戸籍妙本、戸籍の附票の写し、贈与者の住民票の写しなどです。詳しくは国税庁のホームページ(※2)を参照してください。

終わりに

一般的に、60歳以上の高齢世代は、若い世代と比べて多くの金融資産を持っています(※3)。
 
老後の生活のために必要なお金は保持しておくとして、子や孫などの若い世代がお金を必要とする際には支援してあげたいものです。国もこのような場合に各種税制優遇制度で後押ししています。制度の内容をよく理解して、必要な時には積極的に適用することを検討してください。
 
(出典)
(※1)国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
(※2)国税庁 No.4304 相続時精算課税を選択する贈与税の申告書に添付する書類
(※3)厚生労働省 図表2-3-4 世帯主の年齢階級別 貯蓄額現在高別世帯分布(二人以上の世帯)
 
執筆者:村川賢
一級ファイナンシャル・プラニング技能士、CFP、相続診断士、証券外務員(2種)


 

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