更新日: 2020.04.06 その他相続

夫の死後も義父の介護をしていた妻。義兄弟からの援助はなし…義父の財産の一部を受け取れる?

夫の死後も義父の介護をしていた妻。義兄弟からの援助はなし…義父の財産の一部を受け取れる?
民法改正で40年ぶりに相続に関する制度が大きく変わりました。新聞や雑誌、ニュースで報道されたこともあり、自分事として捉え、相談やセミナーに参加される方が増えています。
 
改正点のひとつ、「特別寄与制度の創設」は、しばしば質問を受ける項目ですが、誤解されている方が多く見受けられます。今一度、ポイントと注意点を整理します。
 
大竹麻佐子

執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)

CFP🄬認定者・相続診断士

 
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
 
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
 
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
 
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/

寄与分による遺産分割

創設といっても、以前から“寄与分”に対する遺産分割の制度は存在しました。今回の改正ポイントは、“特別”にあります。それを解説する前に、まずはこれまでの制度について説明します。
 
民法 第904条の2(寄与分)
第1項 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、(以下、略)
 
簡単に言うと、相続人(残された人)のなかに、被相続人(亡くなった方)に対して貢献した人がいる場合には、話し合いで決まったその人の寄与に対する価額分を相続財産から差し引いて、残った財産を分割する、という制度です。
 
寄与(=貢献)した相続人は、話し合いにより他の相続人より多く相続財産を引き継ぐことができます。
 

【事例】これまでの寄与分に対する遺産分割は、こうだった。

ポイント:これまで寄与分を請求できるのは、相続人に限られていました。
 
父が亡くなりました(母はすでに他界)。
長男A、長女B、次男Cの3人が法定相続人となり、相続財産(1800万円)を引き継ぐことになります。長男Aは、妻Dとともに、長年介護に尽くしました。長女Bと次男Cは、遠くに住んでいることもあり、たまにフラッと様子を見に来るだけで、資金的にも労力的にも手を貸してくれませんでした。
 
事例(1)
長男Aは、遺産分割協議において、
「法定相続割合は、3分の1ずつだけど、僕たち夫婦は、お父さんの長年の介護に努めてきた。仕事を休んで付き添うこともあったし、夫婦での旅行もできなかった。これまでの介護での尽力は、2人とも理解してくれるよね。お父さんが残した財産のなかから300万円寄与分として受け取らせてほしい」
 
→長女B、次男Cの同意が得られれば、長男Aは、300万円の寄与分を受け取ることができます。残った相続財産1500万円を3人で分割すると、結果的に、長男Aが800万円、長女と次男Cがそれぞれ500万円となります。
 
事例(2)
父死亡の時点で長男Aがすでに死亡しており、その妻Dが介護をしていた場合
→妻Dは、親族ですが、相続人ではありません。相続人は長女Bと次男Cの2人であるため、相続財産は、900万円ずつ分割することになります。妻Dは、どんなに被相続人である義父の介護に尽くしても、相続財産の分配はゼロです。
 
参考事例(3)
事例(2)において、長男Aと妻Dに子E(未成年ではない)がいた場合
→子Eは長男Aの代襲相続人となり、長女B、次男Cとともに相続人です。法定相続割合であれば、それぞれ600万円ずつ3人で分割することになります。
 

【改正点】相続人以外の被相続人の親族が「特別の寄与」を請求できる

改正事例(4)
事例(2)同様、父死亡の時点で長男Aがすでに死亡しており、その妻Dが介護をしていた場合(子どもなし)
→妻Dは、長女B、次男Cに、これまで義父への療養介護やその他の労務の提供を無償で行ってきたことに対し、「特別の寄与」として相続財産からの分配を請求することができます。
 
今回の改正点は、上記事例(2)の妻Dさんが金銭を請求できるというものです。これまで寄与分を請求できるのは、相続人に限られていたため、妻Dは、やりきれない思いだったでしょう。おそらく実際に多くのつらい実例が今回の改正に繋がったと予測されます。
 
なお、被相続人の親族とは、(Ⅰ)6親等内の血族、(Ⅱ)配偶者、(Ⅲ)3親等内の姻族に限られ、被相続人にとって子の配偶者にあたる妻Dは、1親等の姻族なので(Ⅲ)に該当します。

 

【注意点】特別の寄与が認められるためには

特別寄与の金銭請求には、いくつかの注意点があります。
 
・特別寄与者である妻Dは、相続開始もしくは相続を知ったときから6ヶ月以内(相続の開始を知らなかったとしても相続開始から1年以内)に、長女B、次男Cに請求しなければいけません。
・“特別の寄与”の程度が、納得のいくものでなければなりません。
・相続人に対し、特別寄与料を請求し、当事者間で話し合いをします。協議が不調に終わったとき、もしくは、話し合いに応じない場合は、家庭裁判所に「調停の申し立て」を行います。
・「特別寄与制度」は、2019年7月1日施行のため、それ以前の相続開始、遺産分割協議には適用できません。
 
改正事例(5)
参考事例(3)のように、特別寄与者Dに子E(未成年ではない)がいた場合
代襲相続人である子Eに対しても、請求し協議することになります。
 

ある意味、救済措置と考えた方がいい

上記の通り、これまでつらい思いをしてきた相続人ではない相続人の親族が請求する権利を得たという点で喜ばしい制度です。ただ、協議がうまくいけばよいのですが、もめる火種となることも考えられます。
 
また、どのような根拠で特別寄与料の金額を決めるのか、認めるのか、不透明な部分もあります。実際には、かなりハードルの高い制度と言えます。請求にあたっては、専門家に相談するなど慎重に対応しましょう。
 

解決策は、生前に話し合いをすること、遺言書を残すこと

今回の改正に限ったことではありませんが、「争族」回避のために、生前にできることがあります。想いを聴くこと、伝えること、残すことが大切です。遺言書を残すことをおすすめします。
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士


 

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