更新日: 2020.04.06 遺言書

自筆証書遺言がもっと手軽に使えるようになる! 自筆証書遺言の方式の緩和について

執筆者 : 浦上登

自筆証書遺言がもっと手軽に使えるようになる! 自筆証書遺言の方式の緩和について
平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続制度のさまざまな分野における見直しが行われました。
 
具体的には、配偶者居住権の創設、遺産分割前の預貯金の払い戻し制度の創設、遺留分制度の見直し、特別寄与制度の新設等、相続制度自体を現状に合った方向に改正しようとする試みが行われています。
 
原則として、それらは、令和元年7月1日から施行されましたが、それより一足早く平成31年1月13日から施行された、「自筆証書遺言の方式を緩和する方策」と令和2年7月10日に施行される予定の「法務局における遺言書の保管等に関する法律」について解説したいと思います。
 
浦上登

執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
 
早稲田大学卒業後、大手メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超える。その後、保険代理店に勤め、ファイナンシャル・プランナーの資格を取得。
 
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表、駒沢女子大学特別招聘講師。CFP資格認定者。証券外務員第一種。FPとして種々の相談業務を行うとともに、いくつかのセミナー、講演を行う。
 
趣味は、映画鑑賞、サッカー、旅行。映画鑑賞のジャンルは何でもありで、最近はアクションもの、推理ものに熱中している。

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遺言書の種類について

遺言書には次の3種類があります。

1.自筆証書遺言
2.公正証書遺言
3.秘密証書遺言
 
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自書して押印するものですが、費用がかからず容易に作成できるというメリットがある反面、要件が厳格なので、ちょっとした書き間違いなどでも無効になる可能性がありました。
 
公正証書遺言は遺言者がその内容を公証人に口述し、公証人がその内容を筆記して作成します。遺言者、公証人の他に2人の証人が必要です、遺言者と証人が、公証人の筆記が正確であることを確認したのち、署名して押印します。
 
公正証書遺言は方式不備により無効になる可能性がなく、公証役場で保管されるので、遺言書の紛失・破棄の恐れもありません。ただし、デメリットは費用が高いことで、公証人手数料は相続財産の価額と相続人の数にもよりますが多くは5万円超、それに証人の立ち合い費用、多岐にわたる書類の収集費用等も含めるとかなりの金額がかかります。
 
秘密証書遺言は遺言者が遺言書に署名押印をした上で、この遺言書を封じ、公証人と証人2人以上の前にその封書を提出して作成します。公証人は、証書が提出された日付と遺言者自身の遺言書であることと遺言者の氏名および住所を確認し、遺言者と証人とともに封紙上に署名押印をします。
 
秘密証書遺言の特徴は遺言の内容を秘密にしておくことができるということですが、公正証書遺言でも秘密は守られることから、現在はあまり利用されていません。
 

自筆証書遺言の方式を緩和する方策について

改正法では、自筆証書遺言に添付される財産目録は、パソコン等で作成した目録、銀行通帳のコピー、不動産の登記事項証明書などでも認められるようになりました。ただし遺言者は、その目録の各ページ(自書によらない記載が両面にある場合は、両面に)に署名し、押印しなければなりません。
 
自筆証書遺言の変更は、遺言者が、その場所を指示し、変更した旨を付記して署名し、押印する必要があります。自書によらない財産目録を変更する場合も同様に、変更箇所を指示し、変更した旨の付記、署名および変更箇所に押印します。
 
また、法律では要求されていませんが、将来のトラブルを防ぐために、遺言書と財産目録の印鑑は同一印(実印)を使用する、遺言書と財産目録はとじ込みをして契印を押すことを心がけてください。
 
一言で言えば「財産目録は自筆でなくともよくなった」ということですが、これだけでも今まで財産目録を自書していた手間と書き間違えのリスクを考えるとかなり大きな改善で、自筆証書遺言を使いやすくするための大きな前進と言うことができます。
 
法務省のHPで、自筆証書遺言と訂正の方法のサンプルを確認できますので、参考にしてみてください。
 

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自筆証書遺言の保管制度の創設

上記に加え、令和2年7月10日施行で、法務局における自筆証書遺言にかかる遺言書の保管制度が創設されます。
 
詳細は今後取り決められますが、概要は以下の通りです。
 
遺言者が封をしていない自筆証書遺言と申請書および必要書類を提出すれば法務局が自筆証書遺言を保管してくれるという制度で、提出先は、遺言者の住所地か本籍地、または遺言者の所有する不動産を管轄する法務局にある遺言保管所になります。
 
この制度には以下の3つのメリットがあります。これらにより、以前の自筆証書遺言の制度と比べるとその実用性と有効性が画期的に改善されたということができます。
 
(1)法務局の遺言書保管官が形式上の不備がないかを確認してくれること。今まで自筆証書遺言は、方式不備によって無効になることが多かったので、これは遺言者にとって大きなメリットです。

(2)保管費用が低額なこと。

(3)相続開始後の検認手続きが不要となったこと。
 

まとめ

自筆証書遺言に関する改善は、すでに施行されている自筆証書遺言の方式の緩和と、令和2年7月10日施行予定の自筆証書遺言の保管制度がセットになって完了します。そうなれば、自筆証書遺言が誰でも使える遺言方式として定着する可能性が高くなります。
 
それによって相続にまつわる手間とトラブルが減少するのであれば、大きな進歩といえるでしょう。
 
[参考]
法務省ホームページ:「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」
「自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例」
参考資料:遺言書の訂正の方法
「法務局における遺言書の保管等に関する法律について」
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー


 

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