更新日: 2019.07.06 その他相続
遺族が困らないために「終活」の準備を進める
高齢になると、これまでの生活スタイルと大きく変わるわけですから、自分の死後、遺族の負担が少なくなるように、可能な仕分け作業を進めておきましょう。
公的年金、健康保険の証書は集約
本人が亡くなると、年金の受給資格はなくなります。そのために「資格喪失届」の提出が必要で、一定期間内に行わなければなりません。厚生年金は死後10日以内、国民年金は死後14日以内と決められています。厚生年金は日本年金機構の年金事務所に、国民年金は市区町村役場へ資格喪失届を出します。
また国民健康保険や介護保険についても、資格喪失届が必要になります。どちらも市区町村役場へ提出します。
特に公的年金の資格喪失届を出さずに放置することはできません。必要な証書を遺族が探し出せない場所にしまってあっては大変です。証書が見つからないと、喪失届の手続きが煩雑になります。年金関係は「年金証書」と「年金手帳」、健康保険・介護保険関係は、それぞれの「保険証」を、まとめてわかりやすい場所に置いておきます。民間の生命保険に加入している場合の「保険証書」も同様です
年金関係の証書は、遺族年金や寡婦年金の受給手続きをする際にも必要になります。また、生命保険の保険金の請求、未支給の年金や高額医療費の払い戻し請求がある場合は、その手続きも遺族が同時に行うことになります。証書の保管場所は、家族の誰かに伝えておくことが大切です。
預貯金、クレジットカード、証券口座はスリム化
預金通帳の整理など、生前に対処できることが多々あります。亡くなった後に遺族が通帳やカードを探し出すのは結構大変です。金融機関に預けた預金は、遺産分割協議が終わるまで引き出すことができません。クレジットカードが見つからないと、カード年会費を死後も払い続ける羽目になります。
こうした事態を防ぐために、(1)預金口座は必要最小限にする、(2)定期預金は解約し普通預金に移す、(3)投資信託、債券なども可能な限り解約する、(4)利用頻度の少ないカードは解約する、といった作業をしておけば、万が一のとき遺族の苦労は軽減されます。
特に最近の金融機関は、預金者が認知症と思われる兆候がみられると、成年後見人が同席しないと預金の引き出しができない、といった対応も目立っています。本人ですら定期預金の引き出しが簡単にはできなくなるのです。
高齢になるほど認知症リスクも増えますから、自由に動けるうちに定期預金の解約をしましょう。定期預金の金利は低利率で普通預金と余り変わりません。転居などで預金通帳は増えますから、思い切って削減します。
クレジットカードの利用頻度も減少しているはずです。良質なサービスが受けられるカードほど年会費も高額です。現役時代とは環境が異なることを認識し、可能な限り削減しましょう。株取引で多くの銘柄を保有している、投資信託や外貨取引で運用をしている、という人も、金融商品の絞り込み、取引証券会社の集約が必要です。特にネット証券では取引明細が郵送されて来ませんので、取引会社名をメモに残しておきましょう。
金融資産については、相続協議が確定した後に、名義変更あるいは解約の手続きを行う必要があります。
不動産の権利書は厳重に保管
土地や家屋など保有する不動産があると、遺産分割協議が確定した後に名義変更と登記が必要になります。特に土地は相続金額が大きくなることもあり、相続確定と同時に、相続税などの納税を考慮する必要があります。
不動産に関しては「権利書」の保管が極めて重要です。相続手続きの際に権利書自体は必要ありませんが、もし権利書を紛失してしまうと、再発行などの手続きも極めて困難ですし、さらに盗難や焼失の事態は絶対に避けなければなりません。権利書はどこに保管してあるかは所有者本人が知っているだけでなく、いざというときに備え、家族にも伝えておく必要があります。
贈与などで一部所有者の変更を実施している場合や、持っている土地を何人かで分筆している場合は、権利書も複雑になっています。かつては権利書に変更事案がある度に書き加えられていましたが、現在はすべて電子データに移行しています。
名義変更が必要なものとしては、自家用車があります。動産といわれるものの典型で、亡くなった人に代わって、相続人へ名義変更するか、もし不要であれば廃車手続きをする必要があります。自賠責保険も更新時点から、新しい所有者で契約します。
名義変更や解約手続きはほかにも
代表的なものは公共料金です。電気、ガス、水道、固定電話など、亡くなった人の名義となっているものは、名義変更をします。これらは、各営業所などで「お客さま番号」がわかれば、簡単に名義変更の手続きができます。NHKの受信料も、フリーダイヤルで受け付けてもらえます。
携帯電話は、使用しない場合は契約会社に解約手続きをします。
こうした手続きは比較的容易にできますが、最低限どこの金融機関の口座から引き落とされているかをメモしておけば、相続人が苦労することはないと思います。
手続きをしない限り、従来の口座から無期限に引き落とされますので注意しましょう。
発行機関に返却が必要なものとしては、マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、印鑑登録証などがあります。発行機関に確認し、必要な書類を確認し解約しましょう。亡くなってから1カ月の間に行えばいいと思います。運転免許証以外はあまり期日に厳しくはありません。
また、確定申告をしていた人が亡くなった場合、その年の確定申告は、翌年遺族が行う必要があります。特に収入と経費に関する資料は1年分記載しますので、確定申告をしてきた人は、こうした書類をわかりやすい場所に保管し、家族に迷惑がかからないようにしましょう。
執筆者:黒木達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト