更新日: 2019.06.13 その他相続

死亡退職金は「相続財産」?受け取りを慎重に考えなければならないケースとは

死亡退職金は「相続財産」?受け取りを慎重に考えなければならないケースとは
会社から死亡退職金が支払われる場合、その死亡退職金が相続財産なのか、遺族の固有の財産かにより、受け取りを慎重に考えなければならないケースがあります。
 
被相続人(死亡した人)に多額の借金がある場合、僅かな死亡退職金を受け取ることにより、相続放棄ができなくなるケースがあるからです。
 
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

死亡退職金の性質

被相続人(死亡した人)が勤務していた場合、会社から死亡退職金が支払われることがあります。死亡退職金を賃金の後払いと考えれば、「相続財産」と考えることができますし、遺族の生活保障としての性質を重視すれば、「遺族の固有の財産」ということになります。
 
死亡退職金の規定がある場合、民間企業では、死亡退職金の支払い先は「労基法規則42条から46条の定めによる」というケースが多いようです。
 
これらの定めによると、配偶者には事実婚を含んだり、配偶者がいたりする場合には子は支給を受けられないこと等、受給者の範囲や順位が民法の相続の規定とは著しく異なっています。
 
このような場合には、死亡退職金は「遺族の固有の財産」と判断されることが多いようです。
 
最高裁判決昭和62年3月3日判決では、死亡退職金の規定が「受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは著しく異なった定め方がされているというのであり、これによってみれば、右規定は、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立場で受給権者を定めたものである」として死亡退職金は「相続財産」ではなく「遺族の固有の財産」としています。
 
では、死亡退職金の支給について規定のない場合は、どのように考えれば良いのでしょうか。昭和62年3月3日の最高裁判決の事案は、財団法人の理事長が死亡した当時、退職金支給規定がなかったのですが、理事長の死亡後に、理事長の妻に死亡退職金を支払ったというものです。
 
この判決では、死亡退職金は、死亡した理事長の相続財産として相続人の代表者としての妻に支給されたものではなく、相続という関係を離れて理事長の妻に支給されたものと認定しました。
 

相続放棄との関係

相続人は被相続人(死亡した人)のプラスの財産だけではなく、マイナスの財産も引き継ぎます。
 
相続が開始した場合、相続人は「単純承認」「相続放棄」「限定承認」のいずれかを選択できます。相続人が、相続放棄又は限定承認をするには、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所にその旨の申述をしなければなりません。
 
申述は、民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないと定められています。被相続人に多額の借金があり、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合、相続人は相続放棄をするでしょう。
 
しかし、相続放棄が認められない場合もあります。死亡退職金が相続財産に該当するケースでは、死亡退職金を受け取り、単純承認したと見做されると、相続放棄ができなくなります。
 

まとめ

多くの場合、死亡退職金は「遺族の固有の財産」として認められる場合が多いと思いますが、「遺族の固有の財産」か「相続財産」かは、死亡退職金が賃金の後払い的な性質のものか、遺族の生活保障のためか、その趣旨を慎重に確認する必要があります。
 
死亡退職金が「相続財産」のケースでは、被相続人に多額の借金があるような場合は、死亡退職金で借金をすべて返済できれば良いのですが、そうでない場合は借金を背負うことになってしまいますので、より慎重に判断することが大切です。
 
相続放棄を検討している方は弁護士などの専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
 
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー
 

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