更新日: 2019.06.18 遺言書

相続のキホン(5)遺言書でできること

相続のキホン(5)遺言書でできること
相続が発端で身内にいさかいが起こり、事件に発展する・・・。こんな題材は昔から小説や映画、ドラマでもたびたび取り上げられてきました。
 
内容はともかく、今も遺産分割をめぐるトラブルは決して珍しいものではありません。むしろ昨今の高齢化社会の進行と核家族化の進行で、相続はよりもめやすくなっていると考えられます。
 
相続をめぐるトラブルはある程度未然に防げます。その手段として「遺言書」は非常に有効な手段です。しかしながら「遺言書」を実際に書いている人は少ないでしょう。「遺言書」で何ができるのかを知り、「遺言」を活用することでトラブルを未然に防ぐことに繋がれば幸いです。
 
西山広高

執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)

ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役

「円満な相続のための対策」「家計の見直し」「資産形成・運用アドバイス」のほか、不動産・お金の知識と大手建設会社での勤務経験を活かし、「マイホーム取得などの不動産仲介」「不動産活用」について、ご相談者の立場に立ったアドバイスを行っている。

西山ライフデザイン株式会社 HP
http://www.nishiyama-ld.com/

遺言書とは

「遺言」というと漠然と「死ぬ前に言い伝えるもの」と考えがちです。確かにそういう意味もありますが、「遺言」にはもう一つ「自分の死後のために、財産の処置などを伝え残すこと」という意味があります。
 
似た言葉で「遺書」は一般的に「死ぬ前に書き残すもの」ですが、「遺書」と「遺言書」には明確な違いがあります。必要な様式を備えた「遺言(書)」には「生前に自らの意思で自らの財産をどのように遺される人に分けるかなどを伝えるための手段」としての法的な効力があります。
 
「自らの意思」ですから認知症を患い、意思能力がないと診断されれば、遺言は書くことができなくなります。また自筆証書遺言は民法改正で一部要件が緩和されるものの「自筆」が原則ですので、手が自由に動かなくなった場合などにも書くことが難しくなります。
 
「遺言」は元気な時に書くものであると認識することが重要です。
 

遺言の種類

遺言には大きく分けて3種類の形式があります。
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言

(他にも、事故や災害で自らの命の危険を感じた時に書き残すものなど特殊なものもありますがここでは割愛します)
 
それぞれにメリット、デメリットがありますが、手軽なのは「自筆証書遺言」、確実なのは「公正証書遺言」ということになります。公正証書遺言がもっとも確実ではあるのですが、公証役場にかかる費用や証人が必要なことなど、手間もかかります。
 
まず手始めに、自筆証書遺言を作成することから始めてみてはいかがでしょうか。
 

まずは何から始めるか

遺言書を書くときには「自分の財産」と「相続人は誰か」を把握しておくことが重要です。
 
「相続のキホン(2)」でお伝えしたように、まず、ご自身の財産をリスト(目録)にしておくことをお勧めします。この時、すべて正確でなくても大まかに把握できていることが重要です。
 
以前話を伺った方で「遺言書を書こうと思ったが、いざ書こうとペンをとった途端に自分の財産が把握できておらず全くペンが進まなくなった」という方がいらっしゃいました。
 
遺言書を書くためには必要な情報収集を行っておかなければなりません。また、これまで私が相談をお受けした方にも、相続人が把握できていない、勘違いしているケースが少なくありませんでした。
 
「相続のキホン(3)」でもお伝えしましたが、特にお子様がいない場合、すべて配偶者に相続されると思っていらっしゃる方が少なくありません。
 
お子様がおらず、高齢で亡くなられた場合、既にご両親も亡くなられているケースが多いでしょう。その場合には、亡くなられた方の兄弟姉妹が法定相続人になります。
 
兄弟姉妹が相続を放棄されればよいのですが、配偶者と兄弟の仲が悪いというケースなどでは、トラブルになること必至ですし、そうしたケースは少なくありません。
 
一方、兄弟姉妹には遺留分(一定の相続人に認められる最低限の権利)がありません。つまり、遺言書に「すべて妻に相続させる」と書いておけば、兄弟姉妹には遺留分を請求する権利(遺留分減殺請求権)はなく、すべて配偶者に相続させることが可能になります。
 
「相続人の特定」の次に行うことは「自らの財産の全容を把握すること」になりますが、これについては別のコラム「相続対策のキホン(2)相続財産とリスト作り」をお読みいただければと思います。
 

遺言でできること

民法で定められた事項について「遺言」によって法的効力を持たせることができます。逆に言えば、民法で決まっていないことを書いても法的拘束力はありません。
 
遺言で法的効力を伴って指定できる事項は
・遺産分割の方法(財産の分け方)
・遺言執行者の指名
・遺贈
・寄付に関すること(相続人以外に財産を分与等する場合)
・認知(婚外子がいる場合)
・祭祀承継者の指定(葬儀の主宰者や墓守の指定)

などです。
 
この他に、遺言書には付言事項を書くことができます。付言事項に法的な効力はありませんが、自分の家族などへのメッセージや想いを残すことができます。遺言書に記した遺産分割の内容などについての自らの思いなどを書くことで、余計な争いを避ける効果を期待することもできます。
 
ただし、付言事項でメッセージを書くときには、なるべくすべての相続人にあてた言葉を残すべきでしょう。特定の相続人だけにメッセージを残すと不公平感が生まれ、かえってトラブルになる可能性があるからです。
 

コミュニケーションの大切さ

遺言はただ書けばいいというものではありません。自分は遺産分割の方法について「こう分けてほしい」と思っていたとしても、受け取る側には「そんな財産はいらない」と言われてしまうケースもあります。
 
このようなトラブルを避けるためには、元気な時から「もしもの時にはこうして欲しいと思うがどうか」といった『コミュニケーション』が重要です。
 
昨今の高齢化や核家族化の進行によって、両親と別居している人が多くなり、会話の機会が明らかに減りました。盆や正月にたまに顔を合わせた両親、子供たちと「相続」「遺産分割」の話をするのが難しいであろうことは容易に想像できます。
 
しかしながら、こうした会話をしておくことによって、自分の思いを遺される人たちに正しく伝えることができます。
 

まとめ

ここまで、5回にわたって相続対策を考える上での基本的な事項「相続のキホン」についてお伝えしてきました。相続は100人いれば100通りのパターンがあります。それぞれで必要な対策も異なります。
 
これまでお伝えしてきたことは相続の「基本のキ」の部分。ご自身の場合にはどんなところにトラブルの種があるかを把握することが重要になります。そのためのベースになるのが「必要な情報の収集」と「コミュニケーション」です。
 
遺言書は遺される人を思って行う意思表示。遺言書を書こうとすると調べなければわからないことが多いことに気が付くと思います。それに気付くことが「相続対策の第一歩」だと言えるでしょう。
 
執筆者:西山広高(にしやま ひろたか)
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士、西山ライフデザイン代表取締役
 

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