更新日: 2019.06.18 その他相続
相続に潜む「共有名義」当事者の対立で危険がいっぱい
長い間意見が一致していれば問題はないのですが、相続人の1人が、個人的な事情で共有不動産の現金化を強く希望すると、全員の意見がまとまらなくなってしまうことがよくあります。
諸事情により分割できずに「共有名義」
土地や家屋の所有に関して、全員の意見が長期間に渡って一致していれば共有名義であっても問題がないかもしれません。しかし、共有者の間で意見が割れてくると、厄介な問題が起こります。本来、長い間共有名義にすること自体望ましくはないのですが、事情があって次のようなケースでは共有名義にすることもあります。
それは、(1)遺産が土地と家屋が中心のため、数人が相続するに際して売却し現金化することに全員が合意できない、(2)不動産全体を相続する立場の人が、他の相続人の権利に見合った金銭の支払いができない、(3)全員が売却を希望したとしてもすぐに売却できない、といった場合、当面の措置として共有名義にする方法がとられます。
また、土地を生前贈与したいと考えた際に、1人への贈与は贈与税負担が大きくなるため、子どもなど親族何人かを合わせて共有名義で、贈与をすることもあります。
共有名義にすると不都合な事態となることが多く、望ましいことではありません。対象となる土地などの不動産が共有財産となると、全員の合意がない限り、売却・賃貸・修理などができないためです。共有者の1人が不動産で持ち続けるよりも現金化したい、共有の土地を個人のビジネスに利用したい、と考えた時にはトラブルにもなります。
共有名義は長期に放置できない
諸般の事情から、当面は共有名義を選択しても、将来的にどうするかを、共有者全員で早期に確認しておく必要があります。
親の遺産を引き継ぎ当面は共有にしても、共有名義にした不動産を、共有者の中で誰かが今後継承するのか、継承者がいない場合は時期をみて売却するのか、また売却はいつの時点までに実行するのか、共有不動産の持分比率はどうするかなどを、細かく決めておく必要があります。
こうした決め事をせずに共有名義のまま長期に放置すると、厄介な問題が発生します。例えば、共有者の1人が亡くなると、そこで次の相続が発生し、共有する相続人の数が多くなり、権利関係が複雑化してしまう危険があるからです。とくに、2次相続した人と連絡がとれない場合は、面倒なことになります。土地の登記がされないこともありますし、全員の了解が取れなければ売却もできません。
最近では、相続後の登記は義務化の方向で検討されており、登記をしないで済ませる、という選択は取りにくくなりました。そのため、登記した不動産に対して固定資産税がかかってきますので、支払い方法も決めておく必要があります。
支払い請求先は一括で、代表者または居住している人宛てに来ますが、そこに住んでいない人にも支払い義務が生じます。そのため、「住んでもいないのに?」と考える人もおり、対立が生まれる可能性もあります。各人が共有持ち分に応じて、税金を支払うことを決めておきましょう。
合意事項を文書化し売却時期を探る
共有名義を放置すると、時間の経過とともに意見の違いも生まれます。必ず共有名義にした時点で、合意事項を文書化し全員が署名、できるだけ意見の食い違いが起こらないようにします。このような形をとれば、1人だけが勝手に行動し自分の所有分を現金化したい、とは言い出しにくい抑止力にもなるからです。
合意した日程に沿って、もし売却するのであれば、不動産の価格動向を見ながら、なるべく高値で売却し、それぞれの持ち分に応じて配分します。ただし地方の不動産に関しては、地域にもよりますが簡単には売却できないことも考えられます。だれも真剣に対応策を考えずにただ放置すると、まさに「負」動産になりかねません。こうした不動産ほどなるべく早く対応する必要があります。
共有部分の持ち分は売却できるか
全員が一致した行動できずに、1人が共有名義分を売りたい事情が生まれることは十分にあります。このような場合、共有者全員の意見が一致しなくても、1人の土地の持ち分だけを売却する方法もあります。
これを実現するには、共有不動産に一定の条件が備わっていることが必要です。それは、土地が更地か空き家になっている、収益性が高い立地である、という条件であれば、取引が成立しやすくなります。
この場合、共有持ち分の権利を第三者に売却します。通常は、売りたい相続人の所有割合に応じて分筆し、その分筆した土地だけを売却する方法が望ましいといえます。
分筆のためには、正確を期すため、土地家屋調査士など専門家の手を借りる必要があり、コストもかかります。そのため最近では、分筆することなく共有持ち分の一部を、金額に見合った額で権利を買い取る事業法人や税理士法人が出てきました。
すべての共有名義の一部を売却できるわけではありませんが、かりに誰かが権利を売却したことを契機に、他の共有名義人たちが売却に動く機運は高まります。とくに法人である第三者が共有名義者に加わることで、売却への動きは加速します。第三者の法人もそれを強く勧めます。更地や空き家を共有のまま放置していても、利用価値が少ないことが認識できるからです。
ただし、共有名義の土地に、共有者の1人の住宅がありそこに居住している場合は、この方法は取りにくいと思われます。このようなときには、そこに居住している人が、何年かかけて他の共有者から土地を買い取る、他の共有者と合意した地代を支払い続けるなどの対応が必要になります。
執筆者:黒木達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト