父が亡くなって遺産分割が終わりましたが、そのあと「遺言書」が見つかりました。この場合は遺言書の内容が優先されますか?
配信日: 2025.06.11

ただ、すでに遺産分割が終わっているようなケースであれば、どうすればいいのか対応に困るのは当たり前です。もし遺産分割が終わったあと、遺言書の相続の内容が異なると分かった場合、遺言書の内容が優先されるのでしょうか? 本記事で見ていきましょう。

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
自筆証書は無効になることが多い!
「遺言書」といっても、自筆で書いた遺言書が有効かというのは、まず確認する必要があります。そもそも、「自筆で全文書き、最後に日付と署名捺印する」遺言書が自筆証書遺言として正式な形式を満たすのは、簡単なようで、意外と難しいものです。
「すべてを妻に相続させる」などというシンプルなケースであれば、全文を自筆で書くのにそれほど労力は必要ありませんが、相続人が妻と子ども3人など、相続人が複数いる場合には、「誰に」「何を」「いくら」相続させる文章を誤りなく書く労力は、想像以上に大変なものです。
無効になるケースとしては、「不動産の情報が登記情報どおりではない(住所や広さが間違っているなど)」「誤字・脱字がある」「財産に漏れがある(更新し続けてそのままにしている定期預金を忘れていたなど)」「書き直しが二重線で消されているが、訂正印が押されていない(財産を遺すや贈るなど表現の違いなどの書き直し、そもそも漢字が間違っているなど)」など、自筆証書が有効かどうかを判断しづらい理由を挙げればきりがありません。
「遺産分割協議」と「遺言書」の内容が異なるときの優先順位はある?
遺言書の内容と、すでに終わってしまっている遺産分割の内容がほとんど同じであればよいのですが、まったく異なる場合、そのまま「なし」にするのか、それとも遺産分割をやり直すのか、相続人しだい、相続財産しだいというところではあります。
相続人全員で遺産分割協議をすると、相続人間のバランスに留意した分割割合、すなわち遺された方々の思惑が反映されることが多いのですが、遺言書は被相続人の「想い」が反映されます。
そもそも遺言書は、法的にもその内容が優先されるのが原則です。しかし、遺言書が存在していても、相続人全員が合意すれば、その内容とは異なる遺産分割は行えます。
結局、どちらが「優先」というわけではなく、どちらにもできるわけです。すでに行ったことをひっくり返す遺産分割にすることは、可能ではあります。
その場合、手続きがどこまで終わっているかによって取れる方法は変わってきますが、遺産分割をし直すために、自筆証書を家庭裁判所で「検認の申立て」をして、それぞれの手続きをやり直すというのはとても大変です。
もし相続人が高齢であれば、自分でどこまでできるか、手続きを手伝ってくれる人がいるかどうかが遺産分割をやり直せるかどうかのカギとなるでしょう。
“想い”を残したいなら遺言書は必要
「うちの家族は大丈夫」「言わなくても分かってくれる」「子どもたちの仲は悪くない」など、遺言書を書かない理由を話されることはよくあります。
「家族なのだから、わざわざ遺言書を書くなんて大げさなことする必要はない」と思う人もいるでしょう。しかし、家族だからといって、子どもに対して、いつ・いかなるときも相手の思いを理解するのは不可能です。
例えば、親からの財産は兄が多めに取得するよう、暗黙の同意があったものの、高齢になった親とそのうち疎遠になり、何かと様子を見にきてくれるようになった妹に、「私の財産はあなたにあげる」など気軽に言ってしまう母親もいるかもしれません。
いったん書いた遺言書の“想い”が変わることは、誰にでもあります。だからこそ、遺言書はいつでも書き直せます。
お金が絡むと価値観の違いが顕在化し、相続人同士の争いに発展してしまうこともありますので、想いが変わったときには「書き直せばいい」と割り切って、いったん今の想いを相続人に伝えることは大切なことです。
相続された財産が現金のみなら、相続人間でも遺産分割をやり直すことは、話し合いで解決しやすいかもしれません。ただ、相続税の申告が必要だったり、不動産の名義変更が必要だったりする場合、やり直しをするといっても手続き自体が複雑な方法になりがちです。
相続税の修正申告が必要になるケースもあるでしょう。遺言書が存在するにもかかわらず、無視してしまうと、故人への罪悪感を持ってしまったり、遺産分割に不満を持っていた方が遺産分割のやり直しを求めてきたりと、相続人間の関係が悪化してしまうケースもあります。
このようなことのないよう遺言書を作成したのであれば、遺族に遺言書を見つけてもらえるように、「どこにしまっている」かを伝えておくことは大切です。
執筆者 : 當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。