更新日: 2019.07.02 遺言書
兄弟間での相続トラブル、起きやすいケースを認識しよう
親の財産が明らかになっていくにつれて、今までそんなこと気にもしなかった子どもたちの心の中に、魔物が住み始めることがあります。そして、相続トラブルに発展する。兄弟同士、普段から仲が良くても、です。
だからこそ、知っておきたい相続トラブル。具体例を見ていきましょう。
目次
俺は親の介護にお金と時間を使った
たとえば2人兄弟のうち1人(ここでは弟)が親と同居もしくは近くに住んでいる場合、自然と親の現況確認は、その人の役目となります。親の体調が悪くなるにつれ、その役目は重くなり、金銭的負担と時間的拘束を余儀なくされます。他の兄弟(=兄)は、さまざまな理由により見て見ぬふりです。
その後、親が他界すると、ふと「なぜ俺だけが大変だったのか」という思いが生じます。血縁関係のある兄弟だけであれば言いたいことを言えますが、それぞれの配偶者やその子どもが関わると、不満はいっそう膨れ上がります。
そして財産を分けるときに、「金銭的負担分」と「時間的拘束分」として、「俺は親の介護でお金と時間を使った。だから兄貴より財産を多くもらうからな!」と請求したくなります。
兄の方が親に大学の費用を出してもらっている
兄は私立の大学へ、弟は公立の高校を卒業して大学に行かず就職したとします。このような場合、弟は親が兄に出した大学費用分を自分自身ももらえる権利があると考えがちです。
そのため相続が発生した場合に、弟は言います。「兄貴は大学費用を親に出してもらったよな!俺は就職したから大学費用分、財産を多くもらえるよな!」と。
俺には子どもがいないが、兄の方が(兄の)子におもちゃを買ってもらっている
今の時代は結婚に際して、したからその費用がかかった/しなかったから必要なかったといって揉めたり、孫がいれば、その孫にお金がかかった/いないからかからなかった、という理由でトラブルに発展するケースもあります。
祖父母にとって孫がかわいいのは当たり前で、多くのお金を孫のために注ぐのは珍しいことではありません。そうなると、子のいない者にとって、子のいる兄弟は親から多くお金をもらった、という認識になります。
そうなると、「俺には子どもがいないから、兄貴の子がもらったおもちゃや小遣いぶん、財産を多くもらえるよな!」という発想になってしまいます。
遺言書の内容が不公平な分配になっていた
遺言書というのは、そもそも残された家族が揉めないために作るものです。ところが作り方を誤ると、その遺言書によって家族が揉めることになります。その多くは、遺言書を作るときに不公平に財産を分配してしまっている場合です。
子は、長男だから次男だからという理由に関係なく、平等に財産をもらう権利があります。ところが親は、さまざまな理由から平等に財産を分けず、遺言書を作成しがちです。
そうした遺言書を目にしたとき、納得のいかない一方が、言い放ちます。「遺言書は兄貴の取り分がほとんどになっているけど、俺には遺留分があるし、そのぶんは最低でももらうからな!」と。
※遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人(子・親)に認められる最低限の遺産取得分です。
トラブルを避ける方法は、元気なときに家族で財産の引き継ぎ方を話し合うこと
相続トラブルは、財産が多いから起こるのではありません。平成29年の司法統計によると、相続財産額が5000万円以下で争いになった、というケースが全体の約75%です。
仲の良かった兄弟だからこそ、小さな捻じれが大きなトラブルになるのです。トラブルを避けるために、しっかり親子間で話し合うことをお勧めします。子が複数いる場合は、1人ずつに話をするのではなく、全員を集めて話し合うことです。
親が自分の意向をしっかり子に話し、全員が納得したら、遺言書を作成します。このときに、遺言書に付言事項を書くのを忘れないようにしてください。
親子で向き合って話し合った、そのときの気持ちをそのまま遺言書に書いておくことで、子がいざ遺言書を見たときに、そのときの気持ちを思い出し、争うことはなくなります。
「親子で話し合ったうえで、遺言書を作る」
これこそが、兄弟間での相続トラブルを避ける最善策です。
出典
裁判所 司法統計「家事 平成29年度 52遺産分割事件のうち認容・調停成立件数 遺産の内容別遺産の価額別 全家庭裁判所」
http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/list_detail?page=14&filter%5Bkeyword3%5D%5B0%5D=7&filter%5Btype%5D=1
http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/057/010057.pdf
執筆者:秋口千佳(あきぐちちか)
CFP@・1級ファイナンシャル・プランニング技能士・証券外務員2種・相続診断士