更新日: 2019.07.03 相続税
相続税の「過払い」を防ぐための注意点は
土地評価額の計算ミス
相続財産のうち、最も多いものが金融資産と並んでの不動産が占めており、そのなかでも土地です。通常の場合、都市部の土地の評価額は、毎年年初に公表される「路線価」をもとに計算されます。
この「路線価」が相続税を支払う場合の基礎となり、通常その土地の取引価格の約80%の金額とされています。路線価のない地域では、倍率方式という別の方法で決められます。
宅地の相続に関しては、「小規模宅地等の減額評価の特例」を受けられる土地かどうかの確認がまず必要です。これは最近適用条件が厳しくなりましたが、一定面積以下の宅地で、親と同居していた子が相続する際に受けられ、評価額が80%減額されます。この特例の対象であることを見落とすと、5倍ほどの多額な相続税が発生します。
土地の評価に関しては、形状や周囲の環境などにより、通常決められた路線価よりも補正され、安い評価額になるため、補正の条件が多ければ多いほど、その土地に関する評価額は低くなり、相続税の計算額も少なくなります。
ほぼ正方形の土地で、規定以上の道路の面しており、環境上も問題のない場合は、「路線価×面積」がその土地の評価額となります。しかし、現実は補正が必要であるにもかかわらず、通常の路線価で計算してしまう場合が多いのです。
土地の形状により減額される
土地の形が悪いなどの理由で、実際に売ろうとしても、付近の土地よりも安い価格で取引される土地(通常「不整形地」と呼ばれる)が、この対象になります。
具体的には、(1)土地の形状がいびつな形をしている土地、(2)道路と接する部分がわずかでほとんどが道路の奥まったところにある土地(通称「旗竿地」とよばれる)、(3)道路に接している部分より奥行のほうが長い土地、(4)土地が接続している道路が私道など通常の公道ではない土地、(5)坂道の途中にあり敷地自体に高低差がある土地、(6)形状は問題ないが敷地面積が500平方メートル以上の広大な土地、などがその対象となります。
こうした条件に合致している土地は、通常決められた路線価よりも低い価格で計算できます。その分相続税は安くなります。土地の形状による補正率はそれぞれ決められています。仮に1項目ではなく複数の項目が該当すれば、さらに減額額が増えます。
土地の環境条件により減額される
土地の形状は問題がなくても、環境条件によっても土地の評価は下がります。
具体的には、(1)工場や工業団地に隣接している土地、(2)敷地内にアパートなど賃貸している建物がある土地、(3)墓地に隣接している土地、(4)敷地内を高圧線が通っている土地、(5)敷地内に地蔵堂や鳥居のある土地、(6)運動場、駐車場、鉄塔が建っているスペース、未利用地などの雑種地、といったケースが該当します。
これらの場合も、評価が減額されますので、決められた率で補正計算します。土地の形状に問題があれば、これらと合算した減額率を出すことができます。
また、環境変化という点では、地価がここ数カ月の間で急速に下がり、年初に算出された路線価と逆転し、時価が明らかに低い場合は、時価で評価し申告することも可能です。その場合は、不動産鑑定士による鑑定評価書に準じて申告します。
プロの税理士に依頼したから安心?
相続税の計算と納税は、「プロの税理士に頼んでいるから安心」と思っていても意外な落し穴があります。
税理士はそれぞれ専門分野をもっており、例えば、経理や会計が専門の税理士は多くいますが、相続が専門という税理士はあまり多くないのが実情です。また、実際の土地の形状や周囲の環境については、相続人のほうが詳しく知っているにもかかわらず、相続人自身も細かい点を見落としている可能性があります。
とくに土地の評価額の算定に関しては、いくつもの減額条件があり、一つでも見落とせば、それだけ相続税の過払いが発生します。ですから、依頼する側も税理士をよく見ておく必要があります。
例えば、(1)税理士の得意分野は経理・会計分野である、(2)土地の現地調査をした形跡がない、(3)土地評価額の計算内容を詳しく説明してくれない、(4)税理士が高齢で申告書も手書き、(5)申告書の実務作業は資格のない職員がした、などに該当する際は、「専門家に依頼したので大丈夫」と、油断しないほうがいいかもしれません。
過払いは修正申告で取り戻せる
相続税を払い過ぎたと感じた場合、5年以内であれば申告し(時効は5年)、払い過ぎた相続税を取り戻すことができます。実際には、最初の申告にかかわった税理士に依頼することはできないでしょう。
相続税申告時から多少の時間経過し、「ちょっと相続税が過払いでは!」と感じたとき、新たに依頼したい税理士の専門性なども調査してみるといいでしょう。とくに土地に関して高額の相続税を納税した人は、過払いが発生していないか、一度確認してみるといいかもしれません。
執筆者:黒木達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト