更新日: 2019.01.10 贈与

【相談】親の借金から逃れつつ財産を相続するため、生前贈与を受けておき、相続時に相続放棄することは許されるのか

執筆者 : 柘植輝

【相談】親の借金から逃れつつ財産を相続するため、生前贈与を受けておき、相続時に相続放棄することは許されるのか
民法には相続を放棄する「相続放棄」と、無償で財産を譲り渡す「贈与」という仕組みが規定されています。
 
相続放棄と贈与を組み合わせ、結果的に「マイナスの財産を相続することなくプラスの財産のみを相続させる」ということは可能なのでしょうか。
 

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柘植輝

Text:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士

2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。
広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

なんとかしてプラスの財産のみ相続させたい!

Aさんは財産として3000万円の土地を所有している反面、Xさんに対し1000万円の債務も負っていました。
 
この状態でAさんの子であるBさんが、Aさんの財産を相続したのでは、3000万円の土地だけでなく1000万円の債務も相続することになってしまいます。
 
そこで、AさんとBさんは協力し、次のような手順を踏むことで、Bさんに債務を相続させることなく土地のみを相続させることができるのではないかと考えました。
 
(1)あらかじめBさんに土地を贈与しておく。
(2)Aさんの死後Bさんが相続放棄(はじめから相続人とならなかったとみなされる)をする。
(3)相続放棄をしたことで債務は相続されず、生前に贈与した3000万円の土地のみがBさんの手元に残る。
 
さて、このようにマイナスの財産の相続をまぬがれる目的で、相続放棄と贈与を組みわせ、結果的にプラスの財産のみを相続させることに問題はないのでしょうか。
 

Aさんの贈与は取り消されるおそれがあります

AさんによるBさんへの生前の贈与は「詐害行為」として、Xさんに取り消されるおそれがあります。
 
詐害行為について簡単に説明すると、債権者(本事例でいうXさん)を害することを債務者(Aさん)と受益者(Bさん)が理解したうえでする法律行為(本事例での贈与)のことを言います。(民法424条 詐害行為取消権)
 
では、なぜそのような結論にいたるのか、順を追ってご説明していきます。
 

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相続放棄と贈与は別個の行為ではあるのですが・・・

基本的に、贈与を受けながらも相続を放棄するという行為自体は可能です。
 
しかし、本事例でのAさんは、Xさんに対し1000万円の債務を負っています。
この状態でAさんがXさんの債務を逃れるため、Bさんと協力し(かつXさんへの債務に影響することを知ったうえで)、唯一の財産である土地をBさんに贈与したらどうなるでしょうか。
 
Aさんの手元からは財産が消えてしまい、Xさんに対する債務を返済することができない状況に陥ってしまいます。この状況はまさに、XさんのAさんに対する債権(Aさんの債務)が害されていると言えます。
 
そこで、Xさんは詐害行為取消権(詐害行為を取り消す権利)を行使し、Aさんの詐害行為(Bさんへの贈与)を取り消すよう、裁判所に請求することができるのです。
 
詐害行為取消権の行使には次のような要件が必要となります。
 
(1)債権(本事例ではXさんのAさんに対する債権)が詐害行為前に成立していること
(2)詐害行為により債務者(本事例ではAさん)が無資力となったこと
(3)その行為が財産権(土地など財産についての権利)を目的としていたこと
(4)詐害の意思があったこと
(5)受益者または転得者(本事例ではBさん)が債権者を害することを知っていたこと
(6)詐害行為のときから20年、または債権者が取り消しの原因(土地の贈与)を知ったときから2年を経過していないこと
 
そのため、本事例において、土地の贈与後もAさんが債務を返済するのに十分な資力を有していたり、Bさんへ土地を贈与してから20年が経過していたりすると、Xさんは「AさんからBさんへの贈与」を取り消すことができません。
 

相続手続きは思わぬ落とし穴に引っかかることも

相続は身内内での問題だと思いきや、他人である第三者をも巻き込んだ問題に発展することも少なくありません。
 
相続についての整理や手続きを進める際は、必要に応じて専門家などへ相談するほうが安心でしょう。
 
Text:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士