更新日: 2024.01.28 贈与
父から相続税対策で「毎年100万円」の贈与を受けています。正月の帰省時に初期の「認知症」のように感じたのですが、今後注意すべきことはあるでしょうか…?
本記事では、被相続人(親)が認知症などで判断能力に問題が出てくる前に、相続に関して先んじて行っておくべきこと、問題が生じた後にやるべきことについて解説します。
親が認知症になった場合、相続について想定されるトラブルとは
被相続人(親)が認知症と診断された場合、最も大きな問題は「判断能力を失った人」とみなされることにより、遺言書の作成などの「法律行為」ができなくなることです。また、今回のケースでは親から子に贈与を毎年行っていますが、贈与を行ったタイミングで、親に判断能力があったかどうかを問われる可能性もあります。
例えば、毎年の贈与が長男だけに行われており、次男が不満に思っている場合などは、相続発生時にトラブルになる可能性が高まります(次男が「長男が贈与を受けた時点・遺言を作成した時点で、親は判断能力を失っており、贈与行為・遺言は無効である」と訴えるなど)。
事前の遺言書作成は、相続時に起きやすいトラブルを未然に防ぐために大変有効ですので、被相続人の判断能力が認められるうちに行っておくことが重要です。
また、相続税対策のために毎年親が子に贈与を行っている場合は、特に親の認知能力について注意し、認知能力がある期間になるべく多く、計画的に贈与をしていきましょう。
特に節税に関しては、令和6年1月1日より施行された相続税及び贈与税の税制改正の影響もあり、場合によっては、「相続時精算課税制度」を選択したほうが有利になる場合もあります。今回の税制改正による大きな変更点は以下2点です。
・相続税の課税対象が「相続開始前の3年間」に行われた贈与から「相続開始前の7年間」に行われた贈与に段階的に変更
・「相続時精算課税制度」を選択した場合、令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別に、贈与税の課税価格から基礎控除110万円が控除されるようになる
相続時精算課税制度の毎年の110万円控除は今までなかったものですので、毎年定期的に親から子などへ贈与を行っている家庭の場合、以前よりも有利になります。一方、暦年課税の基礎控除は実質的に縮小する方向です。
それぞれのご家庭の状況によって選ぶべき制度は異なりますので、ファイナンシャル・プランナーや税理士などに相談するとよいでしょう。
判断能力があるときに早めに行うべきことは
計画的な贈与のほか、親が「判断能力を失った」と認定される前に行っておきたいことは、以下のことなどが挙げられます。
1. 親の現在の資産把握、予想される相続税額の計算
2. 認知症の進行状況について、親に検査を受けさせ、診断書をもらう
3. 家族会議による遺産分割に関する合意書の作成、遺言書の作成
特に1と3については、どのような状況の相続においても行っておきたいことです。親に認知症の兆候がない場合であっても、計画的に進めていくことをお勧めします。
2の診断書については、万一相続トラブルが起きて家庭裁判所に持ち込まれた場合に、あるタイミングでは判断能力があったという一つの参考資料になります。最終的に判断能力の有無について判断するのは裁判官ですが、診断書などの客観的な証拠を集めておくことはトラブル回避に有効です。
3について、遺産分割協議は被相続者が生存しているタイミングで行うことはできません(法律上無効となる)が、相続予定である家族で話し合って、遺産分割に関する合意書をあらかじめ作っておくことで、相続発生後の遺産分割協議をスムーズに行うことができます。
また、被相続人に認知症の疑いがある場合の遺言が全て問題になるということはなく、相続人全員が遺言の内容に納得しているときは、その遺言は成立します。
そのため、親の認知症がある程度進行しており「判断能力を失っている」とされたタイミングに作成された遺言書であっても、遺族が遺産配分などに納得していれば特に相続トラブルは起きません。
このように、相続が予定されている家族間の合意形成は、トラブル回避に大変重要です。普段から意識して、家族関係を良好にしていきたいものです。
「後見制度」の活用も視野に
被相続人に認知症の疑いがある場合は、相続トラブルに発展しないように「後見制度」を利用し、代わりに法律行為(遺言・贈与など)を行う人を決めておくことも考えに入れておきましょう。
後見制度とは、家族や専門家が認知症の人に代わり法律行為を行えるようにする制度で、「任意後見制度」と「法定後見制度」があります。
このうち、「任意後見制度」は現在の判断能力が正常でも、後日認知症になってしまったときに後見人となる人を事前に決めておくことで、トラブル回避に備えることが可能です。後見人は必ずしも家族である必要はなく、行政書士や司法書士などの専門家に任せることもでき、任意後見契約については公正証書で行います。
あらかじめ任意後見契約書に本人の資産の扱い方について記しておけば、相続税対策の贈与など、柔軟な資産運用が可能になることが大きなメリットです。
一方で、すでに認知症が進行してしまっている場合は「法定後見制度」を利用することになりますが、法定後見人は「本人の不利益になるような行為はできない」と定められており、法定後見制度を利用して贈与などの相続税対策を行うことが認められにくくなるといわれています。
例えば、法定後見人となった家族が相続税対策のため、今まで行ってきた贈与を同様に行いたいと考えても、それは「本人の利益」にはならないため却下される可能性が高いでしょう。
まとめ
被相続人となる親が認知症と診断される前に行いたいこと、診断後に取るべき対策について解説しました。
被相続人が認知症であると判断されると、以後は相続税対策としてできる贈与に加え、遺言書の作成なども無効となってしまい、行動が大きく制限されてしまいます。相続トラブルを避けるため、親が認知症になる前から計画的に相続対策を行っておきましょう。
出典
国税庁 令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし
執筆者:山田圭佑
FP2級・AFP、国家資格キャリアコンサルタント