更新日: 2024.01.16 相続税
富裕層の憂鬱(ゆううつ) タワマン節税はどうなる?
パワーカップルとよばれる共働き世代でしょうか? それともシニア層? では、富裕層が行っていた“タワマン節税”はどうなったのでしょうか。本記事で見ていきましょう。
執筆者:宮﨑真紀子(みやざき まきこ)
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士
大阪府出身。同志社大学経済学部卒業後、5年間繊維メーカーに勤務。
その後、派遣社員として数社の金融機関を経てFPとして独立。
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不動産を使った相続税対策の効果
「都心の高層マンションは高嶺の花」と思いきや、販売即完売などの景気のよい話が聞こえてきます。人気の高さゆえに、中古物件も値上がっているので、現在は資産価値が下がることなく人気に拍車がかかっているようです。
かつて、このタワマンを利用した相続税対策が注目を集めました。まずは相続税についての基本を押さえます。
例えば、父親が亡くなった場合の相続を考えます。母親はすでに他界していて、子どもは息子1人です。被相続人は父親で、相続人は息子だけです。この場合の相続対策は、遺産分割についてではなく、相続税対策(節税と納税)に主眼を置くことになります。父親の財産は1億円とします。
(1) 全額を現金で保有している場合の相続税額
相続人は1人なので基礎控除額は3000+600×1(相続人の数)
課税評価額=1億円-(3000+600×1)=6400万円です。
図表1
相続税の税額速算表にあてはめると、6400×30%-700=1220万円
納税すべき相続税額は、1220万円です。
相続人が配偶者の場合は、税額軽減の措置(配偶者が受け取る遺産が、法定相続分または1億6000万円までなら相続税がかからない)があります。少子化が進んでいますので、事例のように「相続人は子ども1人」の場合も今後は多く想定されます。
(2) 相続税の節税対策において、現金を不動産に組み替えることで相続財産の課税評価額を圧縮する手法は以前からありました。理由は、不動産の相続税評価額の計算方法にあります。
土地部分は路線価(路線価がない場合は倍率方式)から、建物部分は固定資産税評価額から計算します。路線価も固定資産税評価額も実際の市場価格よりも低くなります。自宅の場合は、名義人の父が亡くなっても家族が住み続けることが前提なので、この計算方法となっていると考えられます。
先の事例で、父親の資産1億円で不動産を購入します。その不動産の相続税評価額が6400万円なら、基礎控除額の範囲内なので相続税額はゼロになります。
7000万円であっても、速算表にあてはめると(7000万円-6400万円)×10%=60万円です。相続税も累進課税なので、富裕層にとって不動産を利用することによる節税効果は大きいです。
タワマン節税にメスが入ってどうなった?
不動産を利用した節税のなかでも、話題を集めたのは「タワマン節税」でした。タワマンには特殊な事情があります。
不動産の相続税評価の基礎になるのは、路線価(土地)と固定資産税評価額(建物)です。都心の土地評価が高額であることは間違いないのですが、タワマンは戸数が多いので持ち分としては、かなり少なくなります。
実際に、住民から「意外と固定資産税が安い」と聞いたことがあります。市場価格としては、低層階に比べて高層階が高額です。
同じマンション内で市場価格に差があるので、相続税の評価額も階層別に差別化すべきということで、2018年に評価額の計算式:1階の評価額+0.25%×(階数-1)が導入されました。ですが、さらに2024年1月から新ルールに変更が決まりました。
国税庁は、マンションの相続税評価額が市場価格と乖離(かいり)するには、(1) 築年数 (2) 総階数 (3) 所在階 (4) 敷地持分狭小度の4つの要因があるとし、それらを指数化したもので評価することになりました。
これはタワマンだけでなく、2024年1月1日以降の相続、遺贈、贈与によって取得したすべての「居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)に適用されます。
計算方法は少々複雑です。国税庁ホームページ(※1)に計算事例が掲載されていますので、ご参照ください。実際に書類を申請する場合には、計算ツールを備えた明細書も用意されていますので、複雑さは軽減されます(※2)。
そもそもは相続税評価額と市場価格が乖離していることを解消するのが目的です。概要は下記のようになります。
1. 相続税評価額が市場価格理論値の60%未満となっているものについて60%になるように補正する
2. 評価水準(=相続税評価額/市場価格)が60~100%は補正しない
3. 評価水準が100%超のものは100%になるように評価額を減額する
乖離が少ない場合は今までどおりなので、やはりタワマン節税にメスが入ったということでしょうか。富裕層の節税対策、新しい模索が続きそうです。
出典
国税庁 No.4155 相続税の税率
国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
国税庁 マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について
(※1)国税庁 「住居用の区分所有財産」の評価が変わりました
(※2)国税庁 B2-6 居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書
執筆者:宮﨑真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士