更新日: 2019.01.10 贈与
お爺ちゃんから孫へなど、資産移転促進のための生前贈与特例の種類と活用法とは?
しかし、これを簡単に認めると相続財産がゼロになり、相続税がかからなくなります。そこで、贈与税の累進税率を相続税の累進税率よりも高く設定し、贈与税の基礎控除額110万円を相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)よりも小さくすることで、生前贈与による相続税の課税逃れを防いでいます。
一方、高齢者世代から若者世代への資産移転を促進するために、生前贈与の非課税措置の特例が設定されていますので、有効に活用したいものです。主な特例のポイントを解説します。
Text:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/
目次
夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産、または贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んで、その後も引き続き住む見込みであることなど一定の条件があります。
父母などから住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度
平成27年1月1日から平成33年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用家屋の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金銭(住宅取得等資金)を20歳以上の子供などが取得した場合において、一定の要件を満たすときは、贈与税が非課税となります。
非課税限度額は、住宅用家屋の取得等に係る契約の締結日等により異なります。
例えば、住宅用家屋の取得等に係る契約の締結日が平成28年1月1日~平成32年3月31日の場合の非課税限度額は、省エネ等住宅1200万円、これ以外の住宅700万円となっています。
子育て世代にとっては、父母等からマイホームの頭金を援助してもらえると助かりますね。
父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に、20歳以上50歳未満の人が、結婚・子育て資金に充てるため、父母や祖父母などの直系尊属から贈与を受けた場合に、1000万円まで贈与税が非課税となります。利用するには、金融機関等に結婚・子育て資金口座等を開設する必要があります。
結婚・子育て資金の具体例としては、挙式費用、衣装代等の婚礼費用、家賃・敷金等の新居費用、不妊治療・妊婦健診に要する費用、分べん費等・産後ケアに要する費用、子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料などです。
なお、結婚資金に使える上限は300万円です。
契約期間中に贈与者が死亡した場合には、死亡日における非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額を、贈与者から相続等により取得したこととされます。
その後、贈与を受けた人が50歳に達することなどにより、結婚・子育て口座に係る契約が終了した場合には、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額があるときは、その残額はその契約終了時に贈与があったこととされます。
子育てにはお金がかかりますので、1000万円は使い切ることができるのではないでしょうか。残額がなければ、贈与税も相続税もかかりません。
祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に、30歳未満の人が教育資金に充てるため、父母や祖父母などの直系尊属から1500万円まで贈与を受けても贈与税が非課税となります。利用するには、金融機関等に教育資金口座等を開設する必要があります。
教育資金には学校等に直接支払われるものと、学校等以外に直接支払われるものがあります。
学校等に支払われるものとしては、入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、学用品費、修学旅行費、給食費などがあります。学校以外に支払われるものとしては、塾や習い事の費用、通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費などがあります。学校等以外に支払う場合は500万円が限度です。
その後、受贈者が30歳に達することなどにより、教育資金口座に係る契約が終了した場合には、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額があるときは、その残額はその契約終了時に贈与があったこととされます。
結婚・子育て資金の一括贈与と異なり、契約期間中に贈与者が死亡した場合でも、残額に相続税はかかりません。したがって、相続税対策としても効果があります。
なお、特例を使わなくとも、夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費を子などに贈与した場合、通常必要と認められるものについては贈与税がかかりませんので、知っておきましょう。
相続開始前3年以内の贈与財産との関係
相続などにより財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を、加算しなければならいということを聞いた人もいると思います。
これには例外があり、次の場合には加算しなくて良いことになっています。
(1)贈与税の配偶者控除の特例を受けている、または受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
(2)直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
(3)直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
(4)直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額
生命保険の非課税枠
被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で、その保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続税の課税対象となります。
この死亡保険金の受取人が相続人(相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれません)である場合、500万円 × 法定相続人の数 が非課税となります。ただし、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。
つまり、非課税枠が利用できるのは、契約者が保険料を負担していると仮定すると、契約者と被保険者が故人で、受取人が相続人であるというケースです。
保険は保険料負担者と被保険者、受取人の関係により税金の種類が、所得税、贈与税、相続税のいずれかになりますので、自身が加入している保険の契約形態について確認しておきましょう。生命保険を上手く活用すれば、相続税対策などに役立ちます。
最後に、これらの特例を実行する前に、必ず、税理士や税務署に確認してください。
Text:新美 昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。