更新日: 2023.02.25 その他相続
「相続時精算課税制度」の使い勝手がよくなるって本当?
本記事では2023年2月時点における、相続時精算課税制度のデメリットと改正内容について解説します。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/
現行の相続時精算課税制度
相続時精算課税の制度とは、原則60歳以上の父母もしくは祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対してまとまった財産を贈与できる制度です。この制度を活用すれば、累計2500万円までは贈与税がかかりません。よって、親などからまとまったお金を援助してもらいたいときに活用します。
贈与額が2500万円を超えた場合、超えた金額に対して一律20%の税率が課されます。
ただし、累計2500万円までは贈与税がかからない一方、この制度の贈与者である父母または祖父母などが亡くなったときには、相続財産の価額に対しこの制度を適用させた贈与財産の価額(贈与時の時価)が加算され相続税額が計算されます。この際、制度選択後に支払った贈与税は控除されます。つまり、相続税と贈与税の二重課税が回避されます。
なお、相続時精算課税では贈与時の時価で相続税が計算されるため、贈与時・相続時で資産価格が変わる等で税額が大きく変わる可能性があります。現金以外を贈与する場合は、贈与する財産は慎重に決めましょう。
注意点としては、この制度を選択すると、これに係る贈与者から贈与を受ける財産は、選択した年分以降においてすべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更できません。この制度を選択するには、贈与された年の翌年の2月1日~3月15日の間において、一定の書類と贈与税の申告書を提出しなくてはなりません。
相続時精算課税制度の使い勝手が向上
現行の相続時精算課税制度には、以下の節税面および手続き面でデメリットがあります。
(1)相続時精算課税を選択すると暦年課税が使えず110万円の非課税枠がなくなる
(2)暦年課税の場合には非課税枠内での贈与は申告不要。しかし、相続時精算課税を選ぶと、たとえ少額であっても申告が必要になる
今回の改正では、相続時精算課税制度について、現行の暦年課税の基礎控除とは別途110万円の基礎控除を創設される予定です。また、相続時精算課税で贈与を受けた土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時にその課税価格を再計算する見直しが行われます。
2024年1月1以降は、相続時精算課税制度を選んだ人への贈与でも、年110万円(暦年贈与の基礎控除と同水準)までなら贈与税も相続税もかかりません。贈与税の申告も不要になります。改正により、上で述べた相続時精算課税のデメリットがなくなることになります。
つまり、110万円までなら贈与税も相続税もかからず、申告もいらなくなるので、利用する者のメリットが大きくなります。これにより、生前にまとまった財産を贈与しにくかった方も相続時精算課税の活用で次世代に資産を移転しやすくなります。
ところで、相続直前の「駆け込み贈与」を防ぐ観点などから、相続から一定期間に法定相続人に暦年贈与された資産については、相続税を課すルールになっています。今回の改正では、この一定期間が3年から7年に延長され予定です。
まとめ
改正後は、暦年課税の場合には相続開始前7年分まで贈与税の非課税枠がなくなる一方で、相続時精算課税の場合には110万円の非課税枠が相続直前まで利用できます。
このため、「毎年少額の贈与をコツコツ行うことで相続財産を減らす」という手法をとる場合、非課税枠という観点から判断すると、暦年贈与を活用するよりも相続直前まで非課税枠が使える相続時精算課税を活用したほうが有利といえます。
出典
自由民主党 公明党 令和5年度税制改正大綱(令和4年12月16日)
国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。