更新日: 2019.05.17 その他相続
相続した土地が他人の物に!?知らないと損する所有権の取得時効という制度を知ってますか?
「手入れも面倒だし、いつか使う時までそのままにしておこう。きちんと登記もしているから誰かに取られることもないだろう。」と、安心しきっていませんか?
相続や贈与など、正当な原因に基づき権利を得て、かつ、きちんと登記までしていたとしても、所有権が他人の手に渡ってしまうことがあります。
なぜなら、民法には取得時効と呼ばれる制度が存在しているからです。
大切な財産の所有権を失ってしまうことのないよう、取得時効という制度についてAさんの事例をもとに確認していきましょう。
Text:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。
広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
目次
土地を相続し、すぐさま所有権の移転登記をしたAさん
21年前の6月、父から土地を相続したAさんは、その土地についてすぐさま相続を原因とする所有権の移転登記をしました。
Aさんは所有権の移転登記をしたことで安心し、そのまま土地について様子を見ることなく現在にまで至っています。
ところが、21年前の7月からその土地について所有の意志をもち、自己の土地として使用を続けているBさんが存在していました。
先日、たまたま土地の様子を確認したAさんは驚き、Bさんにこう告げました。
「この土地は21年前の6月に私が父から相続した土地です。その証拠として、私名義の登記がされています。今すぐにここから立ち退いてください。」
それに対し、Bさんは次のように反論しました。
「この土地は私が21年前の7月より所有の意志をもち、平穏かつ公然と使用を続けている土地です。使用から既に20年が経過しており、私は時効によりこの土地の所有権を取得しています。」
確かに、Aさんは20年以上の長期に亘って土地を放置しており、その間Bさんは土地の使用を継続していました。
とはいえ、土地の登記名義はAさんとなっています。
一見すると、どちらの言い分にも正当性があるように感じます。
さて、一体どちらの言い分が正当と認められるのでしょうか。
まずは所有権の取得時効について確認しましょう
民法においては「永続した事実状態の尊重」や「立証の困難からの救済」などを理由として、所有権を時効によって取得することのできる、取得時効という制度が定められています。
取得時効によって所有権を取得するには次のような条件を満たすことが必要とされています。
(1)20年間所有の意志をもち(占有物が他人の物であることを知らず、かつ、それについて過失のない場合は期間が10年に短縮されます。)
(2)平穏に、かつ公然と
(3)他人の物を占有すること
さて、これらの要件を今回の事例に当てはめて考えていきましょう。
【結論】Bさんは時効によって土地の所有権を取得し、Aさんは所有権を失っています。
まず、Bさんは所有の意志をもち、自己の土地として使用を20年間続けていたことから①の要件を満たしているといえます。
続いて、ここにいう平穏かつ公然とは「脅迫や暴行を用いていないこと」そして「隠したり秘密にしていないこと」をいいます。
暴行や脅迫を用いず、隠すことなく堂々と土地を使用していることから、Bさんは②の要件についても満たしているといえます。
最後に、Bさんは、他人であるAさんの土地の占有を継続しており、③の要件も満たしています。
つまり、Bさんは全ての要件を満たしており、土地の所有権を取得時効によって取得しているのです。
Bさんが取得時効によって所有権を取得している以上、AさんはBさんに対し、土地の所有権を主張し、立ち退きの要求をすることができないのです。
対抗要件を備えているからと油断は禁物です
今回のAさんのように、登記などの対抗要件(第三者に自己の権利が正当だと主張するための要件)を備えていたとしても、取得時効により所有権を失ってしまうことがあります。
大切な土地の所有権が他人の手に渡ってしまわないよう、遠隔地にあっても現状を適宜確認し、きちんと管理しておくようにしましょう。
Text:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士・2級ファイナンシャルプランナー