更新日: 2020.04.03 遺言書
民法の大改正 自筆証書遺言はもっと身近に? 相続が「争族」に変わらないために
私も実際、お客さまから問い合わせをもらいましたが、詳細についてはこれからです。
この内容は喜ばしい改正ではあるのですが、同時に困った問題が起こる可能性もはらんでいます。今日は、改正後もっと身近になるかもしれない自筆証書遺言についてお話します。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
公正証書は自筆証書遺言よりも敷居が高い
専門家としては、まずは公正証書をお勧めしたいところですが、遺言を作成する自体、一般的になじみは出てきたものの、公正証書はまだ敷居が高いことは事実でしょう。
公正証書にするには、公証役場に行って(※)、公証人、証人立会いという一連の作業を外すことはできないからです。相続財産に比例して作成料もかかりますから、これまで、遺言を遺す人は「お金がある人」と思われがちでした。
そこで、自筆証書遺言であれば誰でも書けるだろうと思ってみても、実際、聞いてみるのとやってみるのとは大違い。
全文を自分で書こうとすると、「やっぱり全文書くのはつらい」し「間違うと訂正の方法が面倒」などとなり、結局、公正証書に変えようとしても、「お金がかかるし、証人が必要なのも心配」と、遺言作成をやめてしまう原因にもなっていました。
しかし、自分の思いを誰にも邪魔されずゆっくりと書くことができる、お金がかからない、という意味では自筆証書遺言にするメリットがあるのは事実です。
自筆で遺言を書くと、本人の死後、家庭裁判所に「検認」の手続きをとる必要がありますが、この件数が昭和60年には3,301件、平成10年には8,825件、平成25年には16,708件に増加していることから、今後も自筆証書遺言を遺す人は増え続けるとみて間違いはないでしょう。
※例外として、遺言者が公証役場に出向けない場合には公証人の出張サービスがあります。
自筆証書遺言のメリット・デメリット
ここで自筆証書遺言作成の特徴を整理しておきましょう。
一番大きなデメリットとしては、自分で書いたゆえに、誰にも見つからず、しまい込まれたまま、見つかったときにはすでに名義替えなど終わってしまうというところでしょうか。
そして、全文をすべて自筆で書くのは面倒、これが大きなデメリットでした。
ところが、その2大デメリットを克服するのが、今回の民法大改正です。本文についてはすべて自書する必要はありますが、別紙財産目録については、署名部分以外は自書でなくてもよいものとする緩和方策がとられるようです。その事項が記載された各ページには、すべて本人の自書と押印(同じ印鑑)でよくなるのです。
これまで、自筆証書遺言を書くときに、対象の財産が預貯金である場合には、金融機関名、口座番号等、不動産であればその地番等、明細を書いており、非常に煩雑でした。
また、平成30年1月16日法制審議会民法(相続関係)部会第26回会議によって、法務局に自筆証書遺言の原本保管をゆだねることができる改正案要綱が提出されています。
画像によって処理され、閲覧できることを考えれば、紛失等の心配もなく、自筆証書遺言があることを確認しやすくする大きな改革でしょう。
ただ、遺言者本人が保管を申請するとは書かれているものの、法務局に行けない状態の人もいるでしょうし、郵送や代理人での申請も可能となるのか、今後の決定事項には注目したいところです。
デメリットはすべてなくなったと手放しに喜べない民法改正
民法の改正のうち自筆証書遺言についてお話しましたが、デメリットが克服されたと手放しに喜べるかというとそうではありません。
そもそも、私たち専門家が公正証書遺言をなぜ勧めるかというと、「本人の遺言のための意思能力がしっかりとしているかの確認と、相続人等、他者による意思の介入がない状態」での遺言書作成をしていただきたいからです。
一般の人から「母にこんな遺言書を書いてもらうつもりですが、有効ですか?」とのご相談をお受けすることがあります。
ご本人不在の状態で「有効です。」とはもちろん言えませんし、もし、このままで大丈夫ですと言ってしまうと、家族の意思がまず尊重され、遺言者本人が自分の意思だと言えない遺言書作成になってしまう可能性は否定できないのです。
今回予定されている民法改正はとても大きな改正であり、関心が高いことを実感しています。改正によって自筆証書遺言を気軽に利用できることは間違いないでしょうが、詳細をきちんと理解して利用しないと相続が「争族」に変わる可能性はなくならないでしょう。
民法の改正内容は多岐にわたり、連帯保証や配偶者の居住権など、身近な常識が変わってくる予定です。これからは「民法の改正」というニュースが流れれば、関心を持って自分にどうかかわってくるのかを検討してみてはいかがでしょう。
Text:當舎 緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP